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生態学第2回
「生物と環境の相互作用」(2001年4月19日)

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最終更新: 2001年10月15日 月曜日 00時01分

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講義概要

  1. 生命が存在するための環境条件
  2. 適応放散
  3. 適応進化の考え方=進化論
  4. 生物の拡散への制約条件
  5. 事例:飛べない鳥の適応放散,ダーウィンフィンチの適応放散(ガラパゴス諸島),亜寒帯の針葉樹林,温帯林,熱帯林,ツンドラ,サバンナ,砂漠

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Q.飛べない鳥は南半球にしかいない?
ゴンドワナランドからできたのは南半球の大陸なので,共通祖先種がゴンドワナランドに住んでいた走鳥類(講義で示したシギダチョウ,ダチョウ,エミュー,キーウィ,ヒクイドリなど)は南半球にしかいません。走鳥類以外にもカカポとかペンギンのように飛べない鳥は南半球に多いのですが,系統的には走鳥類とは遠く,天敵が少なかったことが飛べない鳥が生き残るのに適していたと考えられます。北半球でも,飛ばずに陸上を生活の場にする方が餌を得やすかったり天敵に見つかりにくかったりというメリットがあった場所では,飛べない鳥もいます(例:ヤンバルクイナ)
Q.生殖隔離とは? 形態も遺伝子も違っても同種?
種という概念にはいろいろあって,進化学の最先端の議論では「種という実体はなく,たんに分類上の操作概念に過ぎない」という意見もかなり支持者を集めていますが,少なくとも現在のところ,生物学の主流派は生物学的種概念を認めていて,2個体が同種であるかどうかは,雑種第1代が子孫を作る能力をもっているかどうかで決まります。したがって,形態や遺伝子が多少違っていても,交配種に繁殖能力があれば同種と見なすのがふつうです。
Q.肥満遺伝子があっても体質を変えることは可能?
レプチン欠損とかレプチンレセプター欠損といった場合は困難ですが,セットポイントが違うとかβ3アドレナリンレセプター遺伝子がTrp64Arg変異型だという程度なら環境因子の影響も大きいので必ず太るとは限りません。
Q.言語の違いも環境による?
これはなかなか深い質問です。環境適応が直接言語に影響したことを証明するのは困難ですが,現在見られる地域間の言語の違いは,それを話す人々の遺伝的な近縁関係をかなり反映していると考えられます。気候の変動や環境条件の違いによって人類集団の分布できる範囲が決まり,また移動が起こってきたことで,現在の人類集団の遺伝的な近縁関係が決まってきているのですから,その意味では,言語の違いも環境によると言えます。例えば以下の本が参考になります。
●鈴木秀夫(1988)「気候の変化が言葉をかえた」(NHKブックス607)
●J. グリーンバーグ著,安藤貞雄訳(1973)「人類言語学入門」(大修館書店)
Q.古細菌,化学合成細菌の詳細?
第2回の講義では説明に不明確な点があったかもしれません。ほぼ同じものを指すのですが,古細菌は,系統的に他の生物の分岐より古い時代,おそらく30億年以上昔に,生物の共通祖先から分岐した一群の生物を指します。硫黄泉などの高温・強酸環境でも生存できるものなど,おそらく原始地球の環境に適応したものが,特別な場所で生き残り続けてきたと考えられています。化学合成細菌とは,太陽エネルギーでなく,硫化水素,硫黄,メタン,アンモニア,亜硝酸などを酸化させる反応で生じるエネルギーを使って生きているという意味です。これも,原始地球の環境に適応するには必要なことでした。例えば以下の本が参考になります。
●黒岩常祥(2000)「ミトコンドリアはどこからきたか?」(NHKブックス887)
Q.環境に適さない個体はなぜ子孫が少ないのか?
早く死ぬからというのが理由の1つです。適応度という概念を説明しましたが,逆に,多くの次世代に寄与する子孫を残した種類の生きものがその環境に適応していたのだ,と考えるわけです。

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