枕草子 (My Favorite Things)
【第324回】 JNEM(2000年6月20日)
- 往路は6:43発あさま502号。予定通り。昨日別刷りと一緒に届いたJNEM (Journal of Nutritional and Environmental Medicine)の10巻2号(この雑誌についての詳細はここから辿れるはず)をパラパラと捲ってみたら,予想外に面白い雑誌であった。正常値というものは検査対象集団のライフスタイルによって変えるべきだと提唱するぼくの論文(実に環境医学的な成果と思うので,掲載先としてこの雑誌は最適であった)を認めてくれたところからも,反体制的な雑誌だろうとは思っていたが,予想以上だったのだ。まず,ぼくの論文の次に載っていたのが「食べ物の遺伝子組換えについての全国会議:ヒトの健康へのリスクとハザード,BSAENM,ロンドン,1999年11月5日」とかいうカンファレンス報告だったのに驚いた。ちなみにBSAENMとは,British Society for Allergy, Environmental and Nutritional Medicineの略で,JNEMを出している4つの学会の1つである。カンファレンス報告の第一パラグラフからしてこうだ。「多くの人々が,遺伝子組換え食品の安全性について関心をもっている。この国(英国)や米国において,政府の所轄機関が,ヒトの健康にとってのリスクは最小であるという保証を何度もしてきたにもかかわらず,そうだ。この日の講演と討論は,公衆の反応がおそらく妥当なものであって,公的な言明があやしいものだということを,明白に示した」
- 報告内容では,アバディーン大学のPusztai AとEwen Sが1999年10月16日号のLancetに発表したという話が面白そうだった。かいつまんでいえば,殺虫作用をもつレクチン産生遺伝子を組み込んだポテトをラットに食べさせたら胃の粘膜の肥厚とか十二指腸の過形成といった症状がでたという話だ。これはLancetの方を読んでみなければ。
- 書評も面白い。「人体生理学:医学の基礎」と「食品ベースの食餌療法ガイドラインの準備と利用」の2つが紹介されているのだが,前者は「この30年間の進歩がほとんど取り上げられていない」と酷評されているし,後者にいたっては「レビューの価値があるとは思わない」と門前払い状態である。ここまで立場がはっきりしていると,かえって気持ちいいなあ。
- ところで,昨日のモデル解析の進展というのは,面白いシミュレーション結果が出るパラメータが見つかったということだが,努力なしで実行速度を上げる方法を見つけたのも大きい。AthlonとかPentium IIIで実行させるためにgccでコンパイルする場合,-mpentiumproをつけると,飛躍的に実行速度が上がるのだ(メールで教えてくれたWさん,ありがとうございます)。ところが,その後の処理が遅々として進まない。結果の図示にExcel 2000 を使っているのだが,系列の削除が1つずつしかできないのが不便で仕方がないのだ。昔のExcelは系列編集という画面でいくつも続けて系列削除ができたように思うのだが,いつから選択肢が無くなってしまったのかと毒づきながら1つ1つ系列を選んではDeleteキーで削除しているわけだ。JMP 4.0が届けば解決する問題なのだが,Excel 2000での効率的な系列選択削除方法をご存じの方がいらしたら,是非お教えいただきたいと思うのである。
- 夕方,公衆衛生実習でその数理モデルについてディスカッション。今度は質的に画期的な進展があった。できあがった構想の美しさからいって,これはうまく行くだろうと確信している。早く進めたいと気がせくのだが,勝手に進めるわけにもいかないから,とりあえず進展前の状態を1つの論文にまとめておくことにした。
- 帰りは21:30発あさま535号の予定……だったが,終電になった。まあ,よくあることだ。上野から座れたからいいことにしよう。帰りの車内で,長野市立図書館で子どもの本と一緒に借りた結城恭介「コール」(祥伝社)を読了。犯人当てや謎解きが主眼ではないから本格ではないのだが,「物語」としての出来はよい(氷川透とはまた違った意味で,小峰元の青春推理シリーズを想起させる痛さをもっている)。電話を使ったトリックの博覧会といいたくなるほどネタの数は多いので,謎解き風にも書けた筈だが,たぶん読者がついてこられないだろうと踏んで説明的な出し方をしているのだろう。さすがに「C言語上の小説」を書いた結城さんだけのことはあって,ラジオライフ的な技術の小説への取り入れ方は,他のどの作家よりもこなれている。絶版ばかりなのが残念なのである。
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