枕草子 (My Favorite Things)
【第325回】 魔法の言葉(2000年6月21日)
- 今日は目が覚めたら6:00だったので,食事と洗い物をしたら6:30を回ってしまい,往路は7:02発あさま550号。今日の紅茶は,昨日の帰りに飲みきれなかった去年のJungpana EstateのDJ-77。魔法瓶の中で多少酸化しているが,それでもなかなか美味である。
- 信濃毎日新聞朝刊に,共同通信社調べの衆議院選挙動向が掲載されていたが,自民党が安定多数をとる勢いというので驚いた。選挙前は首相の「神の国」発言などで支持率は下がっていたと思うのだが,選挙運動が始まってみると,昔ながらの地縁,血縁,人脈,利権によって支持する人が多いということか,それとも絶妙のイメージ戦略(テレビのさも「明るい未来」風の画像とか)に影響された人が多かったのか。逆にみれば,野党の論点の立てかたが,一般市民への訴求力に乏しかったせいなのか。
- あるいは,一昨日だったか,不景気は去年の4月で底を打っていて,現在は回復したという発表があったことも原因かもしれない。景気回復という言葉は,さながら魔法の呪文のように,世論を動かす力をもっている。つまり,政府与党の経済政策は失敗していないというデモンストレーションが奏功したのではないかということだ。公共事業によって地元に金が落ちることを歓迎する住民,という構図が成立してしまうのは,景気が回復すると世の中はよくなると信じてしまう傾向と同じく,あまりにもナイーブに過ぎると思うのだが,多くの人がそういうイメージをもっていることも確かだろう。
- だいたい,公共事業を増やして雇用を確保しようとかいう公約を堂々と上げる候補がいて,それを支持する人がいるというのは,いかに一般市民が論理的考察をしないかということを示している。公共事業費がどこから来るかといえば税金なのだし,累進課税になっている所得税だけなら所得の再分配という意味で公平感はあるが,一般消費税を財源として使うようになった時点でそれは破綻している。事業によって儲かるのは被雇用者よりむしろ事業者なのだから,これは搾取の構造に他ならない。しかも,後で述べるように,事業者が利潤を追求する市場原理に基づいて行動する限りにおいては,雇用拡大効果は投資額に比例しないだろうと思われる。波及効果は否定しないが,本質の理解はこれであっていると思う。需要のないところに需要を作り出して経済規模を拡大するというやり方は明らかに本末転倒で,歳入が少ないならば歳出を減らすべきなのではないか? それでキャッシュフローの規模が縮小して不景気感が一時的に優占したとしても,やがてその状態に慣れれば,その方が頑健なのだということに気づくと思う。
- 雇用機会を増やすには,減給を伴う時短が最も有効なのは明らかである。1000の仕事があるとしたら,(1)能力10の人を10人,毎日10時間使って1人当たり50万円の月給を払う,(2)能力10の人を10人と能力5の人を5人,毎日8時間使って,能力10の人に40万円,能力5の人に20万円払う,のどちらでもこなせるし給与総額も同じで,後者によって雇用機会が50%増えるはずだ。しかし,保険とか福利厚生費,場所の確保(日本では案外大きい問題かも?)などがあるから,実際には後者の方が高くつくことになるために,雇用者は前者の戦略をとりたがる。先に述べたように所得税は累進課税だから,後者の方が税収が低くなるはずで,巨額の財政赤字を抱える政府としても嬉しくないだろう。しかも,連絡の手間が増える分,後者の方がおそらく労働効率が悪くなる。したがって,働く人は働きすぎ,その一方で失業者が増えるのは,利潤を上げることを至上命題とする市場経済の要請にみあっている。ちょっと考えれば,この流れが決して幸せな社会をもたらさないことはわかると思うのだが,生き残るためには,企業はそうせざるを得ないのが実情と思う。それなら,減給と時短と雇用拡大を同時にやった企業には税制上の優遇措置をとるといった政策を出せば,マスとしての雇用機会も増えるはずだし,企業にも受け入れるメリットが生まれるように思うのだ。
- 少なくとも,研究者は給料が就労の動機に占める割合は低いと思うし,大学は利潤を上げることを至上命題とはしていないはずだ。だから,大学に経済原則をもちこむのは間違っていて,減給と時短と雇用機会拡大を同時にやってくれれば概ね歓迎されると思う(8時間分しか給料はもらえなくても12時間働くという現状を考えると,基本的に好きでやっている仕事なのは明らかだから,給料が6時間分になっても労働のインセンティヴはそれほど影響を受けないはず)。どうせ独立行政法人化してしまうなら,そういう戦略をとる大学が出てきてもよいように思うが,どうだろう? (以上,以前青空ML[843]に投稿したアイディアの改定簡略化版)
- 個人的には,どの党でも個人でもいいから,減給・時短・雇用拡大政策を出してくれたら支持したいと思っているのだが,経済規模が縮小することを耳あたりが悪いと感じる「常識」がある限りは,主流になりえない議論だろう。経済規模が縮小しても生活は良くなるという可能性だってあるんだが。世論を変えるにはどうしたらいいのだろう? ちなみに自分の生活上の必要から言えば,都市から自家用車を排除する政策とか,一般道路の自動車の制限速度を20 km/hにする政策とか,屋根付き人力三輪車をシステムとして取り入れた道路交通政策とか,くわえタバコに実刑を与える刑法改定とかでも支持するけれど,寡聞にしてそういうことをいう政治家は知らないなあ。
- 昼間は教授のwebページを作る(といってもWord PerfectとMS WordからHTMLに変換して見映えをよくするためにタグを編集しただけだが)ために2時間かかった。英語版の業績が多いので大変だった。夕方は同窓会の諸手配に1時間。学生の実習の都合により原書講読が翌日に延期になったので時間ができたが,天気が悪くなりそうだったので(というか,あまりの湿度の高さに雨が降っていると勘違いしたほど),久々に早く帰ることにして,20:38上野発のあさま533号に乗った。むちゃくちゃに混んでいて,佐久平まで座れなかったため,読書をしたが読了せず。
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