枕草子 (My Favorite Things)
【第350回】 SEAJACK(2000年7月27日)
- 5:40に目が覚め,朝食をとりながら信毎の朝刊記事を見て仰天した。ソロモンタイヨーの船がソロモン諸島近海で乗っ取られたというのだ。ソロモンタイヨーは,「マルハ」(元大洋漁業)とソロモン諸島政府の合弁企業である。3月に聞いた話では,いまだに政府出資比率が51%だという。ソロモン諸島におけるこの企業の役割の大きさといったら物凄くて,Noroという元々は何にもなかった場所を「ソロモン諸島第2の都市にして欲しい」とソロモン諸島政府に依頼され,まず漁業基地として開発し,次いで水環境を整備して缶詰工場もつくり,人口40万のこの国で5000人規模の都市を作ったことや,豊富にある水産資源を加工して日持ちのする缶詰にしたものを食べる習慣をつくってきたことは,国策に十分に応えてきたものだと思う。
- 犯人グループは船をガダルカナル島にやるように要求しているとのことだから,進行中のガダルカナルvsマライタ停戦協議との絡みだろうが,ソロモンタイヨーには割と親近感をもっているソロモン諸島国民が多いように思うので,犯人グループが世論の支持を得ることはありそうにない。ともかく何を考えてこんなことをしたのかが問題だから,詳しい情報を探ってみなければと思う。日系企業の船だし,ソロモンタイヨーには宮古島出身の漁師の方も何十人か働いているので,日本のマスコミも大騒ぎするだろうから,情報を得るには困らないと思われる。
- 今日の往路も7:02発あさま550号。
- 研究室について新聞社や通信社のサイトを見たら,信毎もそうだったが国際面ではなくて国内の社会面に情報が出ていて(例えば,毎日新聞の報道1や報道2や報道3,朝日新聞の報道1や報道2),既に犯人は逮捕されたということがわかった。事件が起こったのはガダルカナル島北西海上というから,Noroからホニアラにでも行く途中だったのだろうか? 武装した3人のマライタ島民がカヌーで乗りつけて船を占拠したのだが,ガダルカナル島についたらすぐに警察によって身柄拘束された(共同通信サイト)そうだから,まずは良かった。それにしても今日行われる停戦協議との関係を書いているマスコミが一社もないのには呆れる。少しは事情がわかるように書かないと,「報道」の意味がないように思う。しかも例によって情報が混乱していて,拘束されている人数も37人だったり34人だったり,日本人乗組員の役職も違っていたりで,怪しい情報は裏を取るまでは「不明」としておけないものだろうかと思う。いろいろ眺めた中では,やはり信毎の報道の仕方がもっとも優れていると思う。
- 毎日新聞サイトは,速報性はいいのだが細かい間違いが多い。報道1ではソロモンタイヨーをマルハの現地法人と書いているが,前述の通りソロモン諸島政府との合弁企業だから,現地法人というのは正確でない(報道2では直っている)。報道3の「マライタ族」というワーディングはまずいと思う。人権にうるさい人の間では「なんとか族」という呼び方はやめようと言われているし,そもそもマライタ島民は1つの言語族ではない。読売新聞の第1報も傑作だった。「ブーゲンビリア人と名乗る複数の武装勢力」ってのは何がソースなのか知りたいものである。
- まあ,ともかく犯人がすぐに逮捕されたのは何よりである。
- Natureのサイトのマラリア特集は,最近の進展をおさえるのに有用と思う。マラリア関係の研究者は必見では。
- 青空MLの有志に呼びかけ,独自のComparative Risk Assessment (CRA)をやって,高月さんたちのオリジナルよりも今日的で市民参加型の,新しいエコポイントチェックを作ろうという企画を立ち上げた。興味をもたれたら,青空MLで議論に参加してくださると嬉しく思う。
- 夜になって研究室の先輩が来てネットワークセキュリティの話など。21:30上野発あさま535号で帰宅。島田荘司「ひらけ! 勝鬨橋」(角川文庫)を読了。良い話だった。巻末の文庫版あとがきによると,文庫に入れるにあたって全体に渡って修正したということで,ストーリーは「サテンのマーメイド」や「夏,19歳の肖像」あたりに共通する,人間のどうしようもなさを描きつつそれがユーモアで包まれているという英国的な雰囲気で彩られていて,かつそのスピード感が最近の作品とは全然違うのだが,文章のうまさは最近の作品並になっていて読みやすかった。つまりは傑作と言っていいと思う。
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