枕草子 (My Favorite Things)
【第441回】 既得権を捨てることによって得られるもの(2000年12月5日)
- 長野新幹線時刻表は品切れのようだ。帰りは深夜だからしまってあるのかもと思って朝もチェックしたが見あたらなかった。もっとも,7:40にゴミを出してから自転車に乗ったので,長野駅に着いたのが8:00であり,ほとんど時間的余裕がなかったから,見落としている可能性はある。
- 往路8:05発,この電車はいまでも504号だが,今日はけっこう混んでいる。長野駅を出る時点で既に満席に近い。
- さて本題である。低出生率,親子のジェネレーションギャップ,若年労働力の不足,高校の大学予備校化,大学の遊園地化,科学への無知あるいは畏怖,疑似科学の横行,学閥の利権つながり,といった数多の問題を一気に解決する案を思いついた。かなり大胆な既得権の放棄を伴うので誰も受け入れないかもしれないし,思いついたばかりなので穴はあるかと思うが,もしかしたら名案なのではないか,という妄想である。
- 案の中心は,大学を本来の姿に戻すことである。つまり,本当の高等教育を受け,研究者として学問のプロになりたい人だけが大学に行くようにし,相対的に学生1人あたりの教官の数を増やして密度の濃い教育を可能にするのだ(教官の総数は当然減るだろうが)。もちろん,卒業した人は大学あるいは研究機関にしか就職できないことにして学問の世界でライフコースを完結させることも必要である(その場合,大学+大学院9年間としても,教官として45年間働くとすれば,学生と教官の人数比は1:5になるが,本当に密度の濃い教育と一流の研究を両立させるには,それくらいの体勢が必要と思う。もっとも,後述するように高校教員は大学からも供給する必要があるが)。その代わり,併任,兼任を妨げないことにする。たぶん,これくらいの人的余裕があれば可能なのではないか? 学問のプロになりたい人は,おそらく多めに見積もっても各学年のうち3%くらいと思うので,大学進学率3%となれば,世間体で進学するとかいった馬鹿な現象もなくなるだろうし,一般の就職と大学は無縁だということになれば,学歴社会とかいうものを簡単に崩壊させられるかもしれない。もちろん,学問のプロであることを一切の利権と切り離す必要がある。大学の学費も安くするべきだが,教官の給料も必要最低限に抑えるべきだし,兼任しても自分の収入にはならずに,研究費にはなりうるとか。教授と名が付けばそれだけで偉い人であるかのような誤解を一般社会からなくす必要がある。学問の世界では偉い人だが,それは例えばスーパーの店長が偉いのと同じ意味で偉いだけなのだ。
- このこと(大学進学率3%化)を実現させるために是非とも必要なのは,公務員試験の受験資格を,高卒+5年ないし10年の実務経験に変更することである。基本的に大学は研究の場なので,大卒者は官僚になってはいけないことにする。高校を出て社会で生きていく上で必要な教養を身につけた人が,例えば,農水官僚になりたければ,農業,林業,漁業,畜産業などの現場をちゃんと体験してからなるのが当然ではないだろうか? その他,現在大卒を要求している各種受験資格を,高等教育や研究と関係しないものはすべて,高卒+実務経験に変更すれば,かなり資格の質が向上するように思う。
- そうなると,高校教育の役割が相対的に大きくなって,大学受験予備校的な教育でなく,もっとそこである種完結できるような,体系だった教育が必要になってくる。一人前の社会人として現代社会で生きていく上で必要な教養を与える場とするのだ。職業教育も,という考え方もあるが,どうせ今でも大卒の新人は1から鍛えないと企業では使えないとされているのだから,企業に就職する人に関して言えば職業教育は不要である。体系だった教育には学問のプロが関与する必要があるので,高校の教員は大学あるいは大学院からも供給される必要がある。もちろん,長年現場を体験した人が提供する知識というのも大切と思うから社会人からも定期的に教員を採用することにする。こうすると,高校生の段階で,もっと社会が身近に感じられるという副次的効果もある。
- これと平行して是非やらねばならないのは,社会人教育と生涯教育の充実である。大学教員は相対的にたくさんいるのだから,市民大学とか公開講座のようなものを多数開設できると思う。それにある程度まで出席する権利をすべての企業は認めなければならないことにすれば,真の意味での教育の機会均等が実現できるかもしれない。学問の府で生産された溢れるほどの知を,市民は欲しいところだけ貰っていくという社会は,悪くないような気がする。
- この案がなぜ低出生率対策として役立つのかといえば,最近でこそ有配偶出生率も低下しているが(その理由には教育費の高騰も含まれる),出生率低下のかなりの部分は晩婚化が原因だったし,晩婚化には明らかに教育期間の延長が寄与しているので,教育期間を平均4年短縮できれば,妊孕力が大きい若年での有配偶率の向上が見込まれ,その場合,親が若いということで親子のジェネレーションギャップも小さくなるのではないかと期待されるのだ。
- のこる問題は,弁護士,裁判官,医師といった高度な専門職をどうするかだが,個人的には,徒弟制度的に,やはりその現場で実務(補助的な)を積みながら10年くらい勉強し,その後で司法試験や医師国家試験を受けることにすればいいと考える。あるいは専門学校,職業学校として充実させればよい。大学教育は,職業専門家を育てるという観点からは無駄が多すぎる。
- 相当大きな社会変革になるし,多くの人が既得権を放棄しなくてはならなくなるが,如何なものだろうか? 身を捨ててこそ浮ぶ瀬もあれ,というコトバもあるし。
- この妄想が実現したら何が一番嬉しいって,無意味な試験監督が減ることだなぁ。
- とりあえず,近未来小説を書いてみるとか? シミュレータを作ってみるとか?
- 午前中,いろいろ買っておいたコンピュータ部品をアップグレードした。昼過ぎに堀内四郎さんの講演@日大オケーショナルセミナーに行こうかどうしようかと迷ったが,公衆衛生実習の学生が来るという話で何時に来るか聞いていなかったので,行くのを断念してコンピュータ部品の組み上げを完了した。萩原君のレポートによれば面白そうな話だったし,そのビッグネームからは信じられないほど若い方だということで,行けなかったのは残念だが,まあ,仕方なかろう。
- 利根川さんの医学部向けの講演というのは,たぶん明後日の農学部向けの講演と大差ないだろうと思い,明後日に行くことにして今日は行かなかった。明後日は講演終了後すぐに集会室でソロモン諸島調査の会議があるが,なんとかなるだろう。ソロモン諸島といえば,最近,森山和道さんがWEB日記で,丸山茂徳先生がソロモン諸島に行った話が出てきたが,2000年春のソロモン諸島往還記に書いたように,あの時の丸山先生は,本当に雨に祟られてお気の毒だったことが思い出された。
- 夕方,公衆衛生実習の学生とともに死亡モデルのパラメータ探索プログラムについてディスカッションし,とりあえず絶対誤差で収束をみることにしてはどうかという方針にした。この感じでうまく行くなら,今年中にはデータが上がる可能性もあるから,そろそろきちんと文章にしておくべきだろう。
- さてここまでは順調だった。しかし,例によって良いことばかりは続かないのだった。ふとプログラムを見るのに疲れて,半ば習慣化している(毎週一度はやることにしている)Windows Updateをやってみたのが失敗のもとだった。DirectX 8がリリースされているのを知ってしまったのだ。とくに深い警戒心なくボタンをクリックすると,7メガバイトあまりのファイルをダウンロードしてインストールする作業が半自動で行われてしまったのである。再起動して,多少性能は上がったかなと何気なくATI Multimedia Center(以下ATIMMC)を立ち上げてみると,Capture Deviceが機能していないのである。Program Filesのdirectxディレクトリにあった診断プログラムへのショートカットを実行してみると,何も異常はないと表示される。きっと例によってATIMMCがDirectX 8に対応していないのだろうと判断し,DirectX 8をアンインストールしようとして青くなった。どこにもアンインストール情報がないのである。慌ててMicrosoft Free Downloadのサイトに行ってWindows 2000のところからDirectX 8のダウンロード情報を見たら,「アンインストールはできません」と書かれていた。こういうのって,サギっぽくないか? と毒づきながらも,対策を考えた。(1)ATIMMCのDirectX 8対応版が出るのを待つ,(2)Windows2000を再インストールする,くらいしか思いつかない。どちらにしても先の長い話なので,暗澹たる気分になる。ああ,急いては事をし損じるってやつだね。
- 失意の帰りは,21:30上野発あさま563号(になったようで,停車駅も各駅停車に変わった)。大宮から5号車に座れたが,大宮までの間,5号車と6号車の間のデッキでタバコを吸っている酔っぱらいオヤジ集団がいて,甚だ不快だった。新幹線はデッキも禁煙ですと何度もアナウンスがあったのを,気にもとめていないのだろう。しかし,その不愉快さに輪をかけたのは,そこを通りかかった車掌がまったく注意しなかったことである。ぼくも口に出しては注意しなかったから,あまり大きなことは言えないが,車掌が見ていて注意しないというのは公認するということになってしまうではないか? まったく腹立たしいやら情けないやら。終わりが悪いと全部ダメ。
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