5:45に長野駅に着いた。この48時間のうち26時間は電車に乗っていたことになるわけだが,家に帰って朝食をとり,再び自転車を漕いで長野駅から往路あさま504号に乗った。我ながら信じ難いハードスケジュールだと思う。あさまの車内まで悩んでいたのだが,ミーティングでTengbeのシステムダイナミクス論文を紹介するのは不可能だという結論に達したので,先週目に付いたHbCのマラリア耐性の論文を紹介することに急遽変更した。
しかし,午前中は解剖学関係の雑用とメールに目を通して返事を書くだけで終わってしまった。これからHbCのマラリア耐性についての資料を作る予定なのだが,さて間に合うだろうか?
何とか30分前に資料ができあがった。この論文の骨子は,これまでマラリア耐性遺伝子としてはDuffy血液型のfy,HbS,HbE,G6PD欠損,サラセミアなどが知られているが,HbCについては抵抗性があるという報告とないという報告があって一致した結論が得られていなかったのに決着をつけたということである。大規模な患者対照研究で十分な数のHbCCホモ接合型の人を集め,HbCCホモ接合型の,他の遺伝子型に対するマラリア罹患オッズ比がわずか0.07(95%信頼区間は0.00-0.48)であることを示したのである。HbACでもマラリア罹患リスクを下げる効果はあったことから,HbCにもマラリア耐性があるという結論は,とりあえず疑う理由はないものと思われる。効果がなかったという先行研究はサンプル数が少なかったために検出力が足りなかったと解釈される。
著者たちは,健康な人でのHbCの遺伝子頻度がハーディ・ワインベルグ平衡からずれていなかったことから,それ自体には淘汰はかからないと判断して,HbSのようなバランス多型をとるのでなく,マラリア対策をしなければマラリア流行地では徐々にHbCが広まっていくであろうと推論しているが,院生のNさんからの指摘があったとおり,現在の状況では対策をしないことはありえないので,おそらくこれらの耐性遺伝子は淘汰上のアドヴァンテージを失って,消滅する可能性が高いと思われる。諸行無常と思うのはHbCに思い入れし過ぎか?
もう1つの発表は,中国でのナトリウム/カリウム摂取比が高い集団での血圧と尿中ナトリウム,尿中カリウムの関係を調べたという論文の紹介だったが,対象集団のほとんどが正常血圧だったということから,いくらナトリウム/カリウム比と血圧が正の相関をもっているといっても,このレベルなら問題ないんじゃないの? と思わせてしまうところが弱かった。
その後院生の相談に乗ったりミーティングの資料をhtml化したりとしているうちに21:00を回ったので帰ろうと思っているところであったが,結局21:40に研究室を出て終電に乗った。有栖川有栖,恩田陸,加納朋子,貫井徳郎,法月綸太郎『「ABC」殺人事件』(講談社文庫)を読み始め,読了。これはなかなかの佳作が揃ったオムニバスだった。DJのしゃべりの中で事件が語られ解決する恩田陸の趣向も面白かったし,ほのぼのとした加納朋子の持ち味も存分に発揮されていたと思う。貫井徳郎作品は伏線が見え見えだったのがちょっと残念だったが,法月綸太郎作品は凝りまくった趣向で,最後まで真相が読めなかった。