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生態学第2回
「生物と環境の相互作用」(2001年4月19日)
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2001年10月15日 月曜日 00時01分
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講義概要
- 生命が存在するための環境条件
- 暑すぎず寒すぎない
- 水が存在する→多様な地形,多様な環境
- 生命が利用するエネルギーは太陽エネルギーを使った光合成を元にするのが主流。
- 熱帯は暑いので光合成効率はよいが,蒸発量が多く,水が乏しいところが多い(とくに砂漠),極地方は寒いので水は豊かだが,凍ってしまうので液体の形で生物が利用できる水は少ないし,光合成効率は悪い。
- 適応放散
- 世界のさまざまな物理化学的環境(地形,地質,気温,湿度,降水量など)に応じて,その環境に適した生物種が存在すること。
- 裏を返せば,ほとんどの種は,多くの時代に大抵の場所にはいないということ。世界は,時間的・空間的な生物群集のパッチワーク。
- ダーウィンは,ガラパゴス諸島のフィンチの嘴の多様性(後述)を見て,さまざまな島の環境に広がるため適応進化したと考えた。その意味で「適応放散」という
- 適応進化の考え方=進化論
- 1つの種の個体群を作っている個体は同一ではなく,形質にばらつきがある
- このばらつきは遺伝する
- すべての個体群は地球上に広がれる潜在能力をもっているが,そうならないのは,多くの個体が子孫を残す前に死ぬから
- 個体によって残す子孫の数(=適応度)が違う
- その環境に適した個体ほど残す子孫の数が多い
- その環境に適した形質をもった個体が増える
- 生殖隔離によって種分化が起こる=その環境に適した形質をもった種が固定
- 生物の拡散への制約条件
- 歴史的制約
- 収斂進化(まったく系統が違っても,同じ環境では似たような形に進化すること。例:海に棲む大型肉食動物は,魚類の鮫,爬虫類のイクチオサウルス,哺乳類のイルカ,鳥類のペンギンという全く違った系統の生物が,似たような流線型の体制をもっている)と平行進化(異所的であっても,同じような広がりをもって適応放散が起こること。例:約9000万年前に他の哺乳類が単孔類しかいなかったオーストラリア大陸に辿り着いた有袋類の祖先は,他の大陸での哺乳類(有胎盤類)と正確に平行した適応放散をした。似たような環境条件の場所には似たような形や大きさ,行動特性をもった生物が進化して,そのニッチを埋めたと考えられる)
- バイオーム(biome):生物地理学者が認識していた地球上のいくつかの植物相と動物相の塊(ツンドラなど),海のバイオームと淡水のバイオーム
- 群集間の収斂と群集内の多様性
- 種内の種分化:エコタイプ(生態型),遺伝的多型
- 変化する環境(周期的,方向性,無法則)への適応
- 事例:飛べない鳥の適応放散,ダーウィンフィンチの適応放散(ガラパゴス諸島),亜寒帯の針葉樹林,温帯林,熱帯林,ツンドラ,サバンナ,砂漠
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- Q.飛べない鳥は南半球にしかいない?
- ゴンドワナランドからできたのは南半球の大陸なので,共通祖先種がゴンドワナランドに住んでいた走鳥類(講義で示したシギダチョウ,ダチョウ,エミュー,キーウィ,ヒクイドリなど)は南半球にしかいません。走鳥類以外にもカカポとかペンギンのように飛べない鳥は南半球に多いのですが,系統的には走鳥類とは遠く,天敵が少なかったことが飛べない鳥が生き残るのに適していたと考えられます。北半球でも,飛ばずに陸上を生活の場にする方が餌を得やすかったり天敵に見つかりにくかったりというメリットがあった場所では,飛べない鳥もいます(例:ヤンバルクイナ)
- Q.生殖隔離とは? 形態も遺伝子も違っても同種?
- 種という概念にはいろいろあって,進化学の最先端の議論では「種という実体はなく,たんに分類上の操作概念に過ぎない」という意見もかなり支持者を集めていますが,少なくとも現在のところ,生物学の主流派は生物学的種概念を認めていて,2個体が同種であるかどうかは,雑種第1代が子孫を作る能力をもっているかどうかで決まります。したがって,形態や遺伝子が多少違っていても,交配種に繁殖能力があれば同種と見なすのがふつうです。
- Q.肥満遺伝子があっても体質を変えることは可能?
- レプチン欠損とかレプチンレセプター欠損といった場合は困難ですが,セットポイントが違うとかβ3アドレナリンレセプター遺伝子がTrp64Arg変異型だという程度なら環境因子の影響も大きいので必ず太るとは限りません。
- Q.言語の違いも環境による?
- これはなかなか深い質問です。環境適応が直接言語に影響したことを証明するのは困難ですが,現在見られる地域間の言語の違いは,それを話す人々の遺伝的な近縁関係をかなり反映していると考えられます。気候の変動や環境条件の違いによって人類集団の分布できる範囲が決まり,また移動が起こってきたことで,現在の人類集団の遺伝的な近縁関係が決まってきているのですから,その意味では,言語の違いも環境によると言えます。例えば以下の本が参考になります。
●鈴木秀夫(1988)「気候の変化が言葉をかえた」(NHKブックス607)
●J. グリーンバーグ著,安藤貞雄訳(1973)「人類言語学入門」(大修館書店)
- Q.古細菌,化学合成細菌の詳細?
- 第2回の講義では説明に不明確な点があったかもしれません。ほぼ同じものを指すのですが,古細菌は,系統的に他の生物の分岐より古い時代,おそらく30億年以上昔に,生物の共通祖先から分岐した一群の生物を指します。硫黄泉などの高温・強酸環境でも生存できるものなど,おそらく原始地球の環境に適応したものが,特別な場所で生き残り続けてきたと考えられています。化学合成細菌とは,太陽エネルギーでなく,硫化水素,硫黄,メタン,アンモニア,亜硝酸などを酸化させる反応で生じるエネルギーを使って生きているという意味です。これも,原始地球の環境に適応するには必要なことでした。例えば以下の本が参考になります。
●黒岩常祥(2000)「ミトコンドリアはどこからきたか?」(NHKブックス887)
- Q.環境に適さない個体はなぜ子孫が少ないのか?
- 早く死ぬからというのが理由の1つです。適応度という概念を説明しましたが,逆に,多くの次世代に寄与する子孫を残した種類の生きものがその環境に適応していたのだ,と考えるわけです。
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