東京大学 | 大学院医学系研究科 | 国際保健学専攻 | 人類生態学教室TOP | 2nd
生態学第3回
「生物多様性を生み出す環境条件」(2001年4月26日)
トップ | 更新情報 | 研究と教育 | 業績 | 計算機 | 写真 | 枕草子 | 著者 | 目安箱 | 書評 | 生態学目次
最終更新:
2001年10月15日 月曜日 00時00分
全部一括して読む | 前回へ
講義概要
- 環境条件
- 定義:
- 時間的空間的に変化し,生物がそれらに対して違ったやり方で反応するような,非生物的な環境因子
- 例:
- 温度,相対湿度,pH,塩分,流速,汚染物質濃度
- 考え方:
- 生物種それぞれにとって,その条件でその種が最大限の能力を発揮するような最適な濃度あるいは水準が存在
- 温度と個体の関係〜温度との関係による生物の分類
- 温血動物 vs 冷血動物
- 主観的で不正確
- 恒温動物 vs 変温動物
- 区分が曖昧
- 内温動物 vs 外温動物
- より正確「自分の代謝を利用して体温調節のためのエネルギーを生み出すものを内温生物(endotherm),体温調節を外部の熱源に頼るものを外温生物(ectotherm)と呼ぶ」内温生物は鳥類や哺乳類,植物や菌類や原生生物は,ほぼすべて外温生物(例外はある)
- 外温生物における熱交換:体内の代謝,地表との熱伝導,他の生物との放射,空中への放射,太陽光線の直接放射,雲などを介した反射的放射,太陽熱で暖められた岩などからの放射,風による空中への熱放出など,外部環境の影響をダイレクトに受ける
- 時間と温度
- 生理学的時間(physiological time)
- 外温生物の代謝時間は,外部環境の温度によって変わって来る。そのため,外温生物を調べるときは,時間と温度を組み合わせた「生理学的時間」で考える必要がある。
- 例(day-degreeという次元)
- 例えば,ある種のバッタは外気温20℃(成長可能な閾値より4度高い)では成長に17.5日かかるが,外気温30℃(成長可能な閾値より14℃高い)だと5日で十分。4 x 17.5 = 5 x 14 = 70(=日・温)という次元で考える
- 刺激としての温度:冬を越さないと芽が出ない種は多い→低温曝露が発芽刺激として必要(一定の波長の光が同じ役割を果たすこともある)
- 順化(acclimatization):外温動物の温度への反応は,過去に経験してきた温度によって影響を受ける。例えば,数日間25℃で飼ったカエルは,数日間5℃で飼ったカエルに比べて10℃に置いたときの活動量が低くなる。こういう現象が実験室条件で見られるとき順応(acclimation)と呼び,自然条件で見られるとき順化(acclimatization)と呼ぶ。
- 高温:
●生物にとって酵素が活性を失って危険なほどの高温環境では,生物は生存できない
●高木が生えるところとしては夏は世界最高温度のカリフォルニア「死の谷」は,昼間の気温が50℃にも達する。desert honeysweetという多年生草本は急速な蒸散によって葉の温度を45℃以下に保ち,かつ極めて急速な光合成が行われている。
- 低温
●氷点下1℃未満におかれると死んでしまう生物が多い。
●植物の多くは冬になると水分を減らして硬くなり耐寒性を増す。
●10℃未満におかれると膜構造が壊れて寒冷障害を示す植物もある(熱帯性の観葉植物など)。
- 内温動物:内温動物は温度を効果的に調節するが,そうするために大量のエネルギーを消費する。
- 内温動物にとっての環境温:考えるべき要因としては,緯度の違いと季節差,高度の多様性,連続性,微気候,地中温度,といったものがある。
- 温度,分布,豊富さ〜垂直分布と水平分布の違い
- 水平分布
- 内温動物については,近縁の種で比べると,Allenの法則(高緯度地方ほど突起部が減る)とBergmannの法則(高緯度地方ほど大きい)が概ね成り立つ。つまり,高緯度地方は寒いので,放熱しにくい形になっている。
- 垂直分布
- ケニア山の例。低いところではアカシアの木が生える暑いサバンナとなっておりゾウのような大型草食動物が生存できるが,高いところは降水量が少なく寒冷で土壌も豊かでないので木本が生育せず,ハイラックスのような小型の動物しか生息していない。
- 温度の影響まとめ
●致命的な温度条件が分布を限定するかもしれないが,そこまで広がろうとするのは時々である
●分布は最適でない条件の影響を受け,繁殖,死亡などに影響する
●最適にちょっと足りない条件は種間関係を変えることで分布に作用
●上記のメカニズムが多様性をもたらす。寒冷地では最適でないが生きられるような温度範囲が狭いので,多様化はしにくかったと考えられる
- その他の条件:地表環境の水分=相対湿度,土壌中または水中のpH,塩分,流速,干潟のゾーニング,汚染物質濃度など(時間の都合から詳しい話は省略した)
- 生態的地位(ecological niche)
●Hutchinson (1957)の考え方
●温度,湿度,流速などその生物の生存に必要なすべての条件の組み合わせ(複数次元空間として理解される)をいう
●非生物的な条件のみでfundamental nicheは決まるが,天敵がいたり十分な個体数を維持できる空間がなかったらrealized nicheとはなりえない。
フォロー
- Desert honeysweetを見たい。
- カリフォルニア大学バークレー校のCalPhotosというDigital Libraryのプロジェクトから参照できます(一覧)。
- 「死の谷」に外温動物は?
- 至適温度が37.5℃,砂の中を泳ぐように移動できるMojave fringe-toed lizard (Uma scoparia)のような,高温環境に適応したトカゲの類が生息しています。しかし,このトカゲも44℃あたりを超えると生存が難しいため,昼間は砂の中の湿ったところにいるようです。
- 極地方に外温生物は?
- 魚類や甲殻類,藻類などが生存しています。これらは氷点下でも体液が凍結しないように特殊なタンパク質をもっているといった,低温条件への適応をしています。
- 外温生物の「生理学的時間」のベースは,なぜ成長可能閾値との差であってピークとの差でないのか?
- 成長可能閾値より上なら,外温動物の成長速度がほぼ温度に比例して増加するためです。厳密にいえば緩やかなS字状の関係ですが,直線とほぼ一致します。バッタだけでなく,外温動物の成長はすべて基本的に「生理学的時間」で考える必要があります。
- ヒトが生存できる閾値は?
- ヒトは,服を着るとか,建物を作るとか,火を使うといった文化的適応手段が使えるので,氷点下70度の世界にも行けますが,裸だったら案外弱いものです。痩せた人なら,裸で動かずに2時間,5℃の外気に曝されると,意識がなくなる可能性が高いです。下北半島のニホンザルが北限のサルとして知られるように,ヒトを含む霊長目は熱帯起源なので,内温動物の中でもあまり低温環境への適応はしていないようです。
- 内温生物と外温生物の生存可能温度幅の差は?
- 基本的には内温生物の方がさまざまな環境下で安定して生存するには有利なのですが,外温生物の方が歴史が古いので,厳しい環境に適応して特殊な進化を遂げたものがいます。1つの種でいえば,一般的には内温生物の方が生存可能温度幅は広いと考えていいと思います。
- 外温生物でない植物は?
- 例えば,フィロデンドロン属の花はその代謝熱によって,比較的一定温度に保たれています。
全部一括して読む | 次回へ