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生態学第5回
「生存と死亡の生態学」(2001年5月17日)

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最終更新: 2001年10月14日 日曜日 23時59分

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講義概要

  1. 生命の生態学的事実
  2. 個体とは何か?
  3. 単一体(unitary organism)とモジュール体(modular organism)の生物
  4. モジュールのカテゴリ
  5. モジュール体での「生命の生態学的事実」
  6. 個体数を数える
  7. 生活史を見る
  8. いろいろな生活史:図示(1年生か多年生か,一生に一度だけ繁殖してその後死ぬsemelparousな生物か,繁殖しても死なず何度も繁殖するiteroparousな生物か,による区分)
  9. いろいろな生命表(計算方法や考え方は難しいので,わからない学生が多ければ来週フォローする予定)
  10. 繁殖戦略と生存曲線:図示(生存曲線の形が,ヒトのように矩形化した上に膨らんだタイプか,対数軸での直線に近い,つまり生活史を通じて死亡率がほぼ一定の植物に多いタイプか,それとも魚のように生まれてすぐに大量に死んでしまうために大量に産卵する,下に膨らんだタイプか,という話)

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リンカーン法について詳細説明希望
正確には一般名称を「標識再捕獲法(Mark-recapture methods)」というのが普通のようです。基本的アイディアとしては,ある集団からn1匹の動物を捕まえてマークをつけて放し,暫く待ってそれが完全に元の集団と交じり合った頃を見計らってもう一度n2匹の動物を捕まえたとき,そのうちm2匹にマークがついていたとすると,元の集団全体の個体数がN(未知)だとすれば,n1/N = m2/n2という比例関係が成り立つと考えられるので,N = n1n2/m2と変形すればNが推定できるというものです(実際には統計的な理由によりN = (n1+1)(n2+1)/(m2+1)-1とします【Petersenの方法】)。チンパンジーなど個体識別ができる場合はマーキングは不要で,1回目にn1個体,2回目にn2個体を観察して,m2個体が重複していたら,上と同じ式で全個体数Nが推定できます。マーキングと再捕獲を繰り返すことで推定精度を上げる方法がいくつも考案されています(例えばSchnabelの方法,BurnhamとOvertonの方法など)。マークとしては,鳥だったら番号を付けた足輪とか,蛾だったら捕獲場所ごとに違う色の何色かのペンキで点をつけるとかいった方法があります。2種類のマークAとBを使えば,マークAが消えた確率は,Bが付いている個体の再捕獲率を,それ自体とAとBの両方が付いている個体の再捕獲率の和で割った値として推定できます。マーキングが死亡率や行動に影響を与えてしまうとまずいので,そうならないような注意が必要です。また,捕獲される個体が偏らないようにするために,捕獲装置の質や量にも注意しなければなりません(例えば目の粗すぎる網で昆虫をトラップすると小さい個体の数を過小評価してしまいます)。また,この方法は基本的に最初の捕獲と再捕獲の間で他の集団との出入りがなく出生や死亡も無視できるくらい小さいという意味で「閉じた」集団であることを仮定していますが,実際にはそうでないのが普通です。Jolly-Seber法など,これを補正するための方法も考案されています。
豊富さの指標(index of abundance)とは?
相対的な集団サイズを示すもので,いろいろな値が考えられます。絶対値を示すものではありません。ショウジョウバエの豊富さの指標は,例えば,標準的な餌を使った誘引トラップで毎日捕獲される数として得ることができます。また別の例としては,捕獲船のトン数・日数当たりのクジラの捕獲数は,クジラの豊富さの指標になります。絶対値はわからなくても,長期間同じ値を調べれば,変化の傾向を知ることはできるので価値はあります。
生活史による生物分類
出生と死亡との関係でいえば,生物の生活史は5つのパタンに分けられます。一年生の生物(図のa〜d),世代が重なる一生に一度しか繁殖しない生物(図のeとf,例えば17年ゼミ),個体間に繁殖期のずれがあってずっと子を産みつづけるようにみえる一生に一度しか繁殖しない生物(図のg),世代が重なる,一生のうちに何度も繁殖する生物(図のhとi),ずっと繁殖しつづける生物(j,例えばヒト)です。
生命表と平均余命について
x歳平均余命とは,x歳以後平均してどれくらいの期間生存するのかという値ですから,x歳以降の延べ生存期間の総和(Tx)をx歳時点の個体数(lx)で割れば得られます。延べ生存期間の総和は,年齢別死亡率qxが変化しないとして,lx(1-qx/2)によってx歳からx+1歳まで生きた人口Lx(開始時点の人口が決まっていて死亡率も変化しないのでx歳の静止人口と呼ばれます)を求め,それをx歳以降の全年齢について計算して和をとることで得られます。ヒトの人口学では年齢別死亡率からqxを求めて生命表を計算するのが普通ですが,生物一般について考えるときは,同時に生まれた複数個体(コホート)を追跡して年齢別生存数としてlxを直接求めてしまう方法(コホート生命表)とか,たんに年齢別個体数をlxと見なしてしまう方法(静態生命表,偶然変動で高齢の個体数の方が多い場合があるので平滑化するのが普通)がよく行われます。ヒトの場合は個体数変動が大きいので,現在人口しかわからないような無文字社会での短期的な研究でも,年齢別人口を少なくとも2回調べてその差から年齢別死亡率を推計し,あくまで死亡率から計算します。
生存曲線のType IIについて
Type IIの動物はヒドラなどです。年齢別生残数の自然対数をとった値の年齢別生残数で重み付けした平均値の符号を逆転させたもの(死亡エントロピー指数)が0.5になります。Type Iの実験室のショウジョウバエとか先進国のヒトなどは死亡エントロピー指数が0に近く,Type IIIの牡蠣とか魚などは死亡エントロピー指数が1を超えます。
草食動物と肉食動物で生存曲線が違う?
食性との関係よりも産仔数との関係がはっきりしています。産仔数が多い種は若齢での死亡率が高いため生存曲線の形はType IIIに近くなり,逆に産仔数が少ない種は多くの個体が高齢まで生きて皆同じような年齢で死ぬ「生存曲線の矩形化」が起こってType Iに近づく傾向にあります。
単一体にはモジュールはないのか?
単一体の場合,ある意味では,生殖細胞は体細胞とは別のモジュールと考えていいと思います。
obeliaってどんな生物?
和名はオベリアクラゲというようです。生活史の中で,ポリプ状の無性世代とクラゲ状の有性世代が世代交代します。The double life of obelia(MICROSCOPY UKという英国の顕微鏡写真に関する団体のサイトにある文章)写真(アイオワ州立大学のサイトから)生活史(シカゴ大学のサイトから)などが参考になります。
参考書,推薦テレビ番組の紹介希望。
第1回に回覧したものの他に,もうじき発売される(2001年5月30日刊行予定),鷲谷いづみ「生態系を蘇らせる」NHKブックス,916,227ページ,税別920円,ISBN4-14-001916-6はお薦めです。いろいろな環境に生きる生物を見たい方にお薦めするテレビ番組としては,NHK総合の月曜夜20:00-20:43「地球!ふしぎ大自然」がいい感じです。チンパンジーに関していえば,TBS系日曜夜20:00-21:00「どうぶつ奇想天外」で時折放映されますが,それを監修している西田利貞教授(京都大学)は世界でも5本の指に入るチンパンジー研究者で,物凄く貴重な映像が出ることもあります。
食虫植物の捕虫嚢に昆虫以外のもの,例えば牛肉を入れたらどうなるか?
やってみた事例を知らないので確かではありませんが,タンパク質を分解する酵素を分泌しているわけですから,消化されると思います。

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