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生態学第8回
「捕食行動と被食捕食関係」(2001年6月7日)
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2001年10月14日 日曜日 23時57分
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講義概要
- 捕食行動
- 行動生態学のテーマ。最適採餌理論(Optimal Foraging Theory)とか。
- 捕食行動は,被食者と捕食者両方の個体群動態(個体数とその分布の変化)に影響する。
- 食物の幅(食餌幅,食域)と組成
- 消費者(=捕食者)は,単食(monophagous),少食(oligophagous),複食(polyphagous)のどれかに分類される。植食動物は単食,寄生虫は少食,真の捕食者は複食であるものが多い。しかし例外はあって,タニシトビ(Rostrahamus sociabilis)という鳥はほぼ完全にタニシしか食べない。
- 食物の好みとバランス
- 少食や複食の種でも,食べられる被食者に好みがある。
- 例えば,White pine,Red pine,Jack pine, White spruceという4種類の松について,同じ量が同じように植えられていても,シカの食害にあった量はJack pineが最大だった(Horton, 1964)。
- しかし,実際には被食者の現存量に応じてバランスのとれた摂食をしている
- 食物の好みのスイッチング
- 多くの消費者の好みは固定しているが,環境条件によってがらっと変わることがある(スイッチング)
- 被食者が集中する場合や,より豊富な被食者を捕食する効率が良い場合におこる
- 食物の幅(食餌幅,食域)と進化
- 単食(monophagous)や少食(oligophagous)の利点は,1つあるいは少数の被食者に特化してよくfitしているために,摂食効率がよく,捕食者間での種間競争を避けられること。
- 複食(polyphagous)の利点は,量に応じて被食者を選択できるので,個々の被食者の量が変動してもそれほど影響を受けないこと。
- 被食者捕食者共進化?
→被食者が毒をもつとか,変な形とか刺などいろいろ防御するので,すべてを食べられる捕食者はいない。何らかの形で特化する。単食や少食の捕食者が増えると,被食者は新たな防御を獲得し,それによって捕食者も多様化するような進化があるかもしれない。単食の利点は
- 最適採餌理論(OFT)
- この理論によれば,捕食者が食物の幅(食餌幅,食域)を拡大すると,平均探索コストが減少し,平均追跡・処理コストは増加する。この結果,最適な食物の幅(食餌幅,食域)は,探索コストの減少が,追跡・処理コストの追加による損失の増大より大きい最後の被食者を端として含むものになる。捕食者が増加して,全体的に被食者数が減ってくると,探索コストが増大するので,最適な食物の幅(食餌幅,食域)は,1つずつ被食者を加えながら増大する。
- 数式とグラフで説明することも可能だが,ここでは省略する。要望があればフォローする。
- 被食捕食関係のダイナミクス
- 種間競争のモデルと同じLotkaとVolterraが開発したモデル(Lotka-Volterra Model)で表現されるのが最も単純な場合。もちろん,もっと複雑な場合もあるが,ここでは割愛する。与えるパラメータが適当なら,フェーズのずれた振幅になるのが有名。
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フォロー
- 被食捕食関係のダイナミクスについてもExcelのワークシート希望。
- このExcelのワークシートを使えば,いろいろな数値で試すことができます。
- タニシトビってどんな鳥?
- Duke大学湿地センターに写真と説明文がありました。絶滅の危機に曝されているそうです。猛禽類は最上位の捕食者なのがふつうで被食者になることはほとんどなく,彼らの数が減るのは,被食者の減少や繁殖に適した空間の減少,あるいは環境内分泌攪乱物質の影響などによる繁殖能力の低下,といった理由が考えられています。
- シカの好みは1匹ずつ違う?
- 好みという言葉が悪かったのかもしれませんが,捕食行動の説明で話した,食物の好み(diet preference)というのは,その種に遺伝的に備わった性質を想定していて,1匹ずつのvariationとは(あるとは思いますが)別の話です。
- 3種間の被食捕食関係はより複雑か?
- もちろんです。たとえば,クロレラ(生産者)とミジンコ(第1次消費者)とタモロコ(第2次消費者)の関係なら,ミジンコはクロレラを食べるだけでなくタモロコに食べられるので,各々の種の個体数変化についての微分方程式は3本になります。また,1種類の被食者を2種の捕食者がshareしているような場合は,被食捕食関係と種間競争が混ざった複雑な関係になります。
- スイッチングについて詳細説明希望(ヒトにあるか?)
- 被食者に対する好みのスイッチングは,異なるタイプの被食者が異なる生息環境に住んでいて,消費者が,もっとも捕食効率が良くなる生息環境に集中するような場合に起こります。また,豊富な被食者を捕食するときにもっとも効率が良くなるときにも起こります。捕食者が特定の「探索イメージ」を発達させた結果とも言われています(Tinbergen, 1960)。個々の捕食者が徐々に好みのタイプを変えるのではなく,好みのタイプが違う捕食者の割合の変化のために種としてのスイッチングが起こるのだという説もあります。ヒトは,かつて採集と昆虫食だった段階から,狩猟と肉食を始めたときに1回目のスイッチングが起こり,農耕を開始して穀物を主食とするようになったときに2回目のスイッチングが起こったと考えられます。さて,現代のヒトはどうでしょうか?
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