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東京大学で行った「人口学」の講義資料(2003年度/2004年度プレゼン/2004年度配布資料)も参照されたい。
出生は,移動がなければ,人口変化に正の寄与をする唯一の人口動態であり,「人口変化」と同じ次元の現象である。つまりは,人間の集団の複雑な営為が引き起こした結果として見える現象を対象としているわけで,単一の側面だけでは説明しきれないのが当然であり,その理解には多面的及び学際的なアプローチが必要となる。
しかし一般に,例えば,「日本の少子化はなぜ起こったか?」「少子化を改善するにはどうしたらよいか?」などと政策的問題設定が行われる際に,この多面的アプローチの必要性が意識されることは稀である。多くは社会経済的側面からだけの対策が立てられているようである。仕方ない面もあるのだが,少子化対策などがうまく行かない原因の一端は,そこにあると思う。ここで「仕方ない」という理由は,多面的アプローチをする専門家が不足していることだ。
日本に限らず,世界中を見渡しても,人口学者の多くは社会経済的側面からのアプローチを主としており,生物人口学の専門家は数えるほどしかいない。では,生物学者の方はどうかと見れば,分子生物学が花盛りであり,個体以上のレベルを対象とする研究は,相対的に手薄である。生態学や人類学の中では,生物人口学的な研究をする人もいるわけだが,人類学会の発表を見ても大半が遺伝か形質か考古で,生態とか人口といった研究はごく稀である。それゆえ,生物人口学的な知見の集積が足りないということはいえると思う。逆に,産婦人科学的な,不妊治療,生殖医療といった観点からアプローチされる医師の方々には,社会経済的側面や文化的側面が相対的に不足していたり誤解があったりすることがまま見られる。
この小論の目的は,出生という現象をまるごと理解するために,如何に多様なアプローチが可能でありまた必要かということを広く世に示すことにある。筆者の力不足により不十分ではあるが,意気込みだけはご理解願いたい(但し未完である)。
シカゴ学派とイースタリンの論戦(「子どもの相対価格」は不変か可変か?)のような経済学的な言説も考慮する必要がある。「人口転換理論」にやや詳しく説明した。
現象レベルで出生の要因分解をしようという,最も人口学的なアプローチである。
これまであげた出生へのアプローチの多くは,人口学が個体群レベル以上の学問として発達してきたこともあり,個人差をほとんど意識してこなかった(もちろん,年齢による層別化はされていたし,社会経済的属性に着目された研究もあるが,それは常に層別化として導入され,個人差として扱われたことはなかった)。しかし,生態学における個体差への着目(Individual Based Modelなど)をあげるまでもなく,遺伝要因あるいは環境要因によって,さらに偶然のばらつきによって,出生力には個体差があることがいまや明確であり,個人差を避けて通ることはできない。最近になって発展している,個人間のばらつきを考慮した分析法として,ここではハザード解析を紹介する(Wood et al., 1992)。
ノンパラメトリックなモデル(カプラン・マイヤの方法など)とパラメトリックなモデルが存在する。後者の多くは,指数分布,ワイブル分布など,数学的性質が良く知られた経験分布を当てはめるもの。etiologicalなプロセスをモデル化するのが今後の方向性として望ましい。
Coale and TrussellのMとm,及びHadwiger関数を使って,戦後日本の出生力を分析した結果を,山口県立大学看護学部紀要に発表したので,そのドラフト[PDF形式]と参考資料を掲載しておく。
r(a)/n(a)=M*exp(m*v(a))という形で定義する。
断面研究でヒトの数を数えることで計算できる指標は,以下の通りである。ただし,ここにあげた略称のうち,MISGとRBMは著者が勝手につけたものであり,一般的でない。
1 Fertility rateは一般に,分母が再生産年齢にある女子人口であることから,かつては特殊出生率と訳されていたが(分母が総人口であるbirth rateに対して「特殊」なので),近年ではどちらもたんに出生率と訳される。TFRは,ASFRが不変ならば,女性が生涯に産む子どもの数の期待値,すなわち完結出生力に理論的には一致するが,偶然変動によってばらつくことがわかっている(中澤,大塚 1997)。
2 「人口学用語辞典」には「異なった人口の出生率を比較する目的で…よく用いられる」とあるが,TFRなどでも人口構造の影響は除かれるため,標準化死亡率とは違って実際に論文などで使われることは希である。
3 CWRは、出生の指標でありながら、データとしてはセンサス等による年齢別人口のみを用いる点が特殊である。社人研の2023年地域別将来推計人口では、地域レベルの安定した出生の指標として、「子ども女性比を0-4歳人口の20-44歳女性人口に対する比と定義する。通常、子ども女性比は15-49歳女性人口に対する比とするのが一般的であるものの、15-19歳と45-49歳の年齢別出生率は非常に低く、これらの年齢別人口が今後相対的に大きくなる市区町村において0-4歳人口が過大になる可能性があることから、20-44歳女性人口に対する比を用いる。」としている。社人研でも、前回(2018年)の地域別将来推計人口までは、子ども女性比の分母は、広く使われている15-49歳女性人口であったし、丸山(2022)人口学研究は、分母人口として15-49歳が今後も良いと考えられることを示している。山内(2009)はリレーショナルモデルの適用を提案している。社人研が地域人口推計のために作成した換算式は、Excelのワークシートとして公開されており、内閣府が地方自治体に配布したので、さまざまな自治体でTFR推定に用いられている(郡山市など。神戸市は独自に改変している)。池(2024)には、TFR≒CWR☓7という「経験式」が示されており、日本の地域人口やインドやロシアの人口データでそこそこ良い近似になることが例示されている(Hauer ME et al. (2013) Indirect Estimates of Total Fertility Rate Using Child Woman/Ratio: A Comparison with the Bogue-Palmore Method. PLoS ONE, 8(6): e67226でも検討されているが、集団によっては必ずしも7倍が最適ではない。Hauer ME et al. (2013)の方法はエチオピアの大学の研究者によるインドの地域別出生推定にも使われている)。日本のデータを使ってCWRの7倍とTFRの関係を描くRコードを実行すると、この図ができ、そこそこ良い近似であることがわかる。先行研究としては、統計局が2008年カンボジアセンサスをサポートした際に作られた説明文書で紹介されているように、Rele (1967)(注:ただしフランス語の本であり、原文が公開されてはいないので、Rele (1987)の方がアクセスしやすい)がGRRとCWRの間に線形の関係があり、GRRと出生性比を使ってTFRに換算する方法を提案したのが先駆けであるらしい。統計局の資料は平均寿命によっておよその死亡水準が示せることに着目し、平均寿命ごとに異なる線形回帰係数を使うことを提案している。この文書もCWRについて利点や欠点が詳細に説明されているので参考になる。また、Schmertmann CP, Hauer ME (2019) Bayesian estimation of total fertility from a population’s age–sex structure. Statistical Modeling, 19(3): 225–247は、CWRからTFRをベイズ推定する方法をアマゾンの原住民の小集団などで検討している。この論文によると、Rele (1967)が提案した式は、TFR ≒ 7.14・CWR - 0.06とのことである。
断面研究だが過去の人口について遡及聞き取りを行えば,以下の指標も計算できる。なお,ここでもPPR, DMRを除けば略称は一般的ではない。
基本的には遡及聞き取りデータの場合と同等である。コホートについての漏れのないデータが得られるが,反面,研究に時間と費用がかかるのが欠点である。なお,下記の指標のうちWTFRという略称もまだ定着したものではない。
長い時間軸での人口再構築特有の問題(資料からの脱落,資料の記録形式の変化)があるが,基本的には遡及聞き取りやフォローアップと同じ指標が使える。
その資料が得られた調査のフレームによって,上記の指標のどれかが使える。多数のデータが得られるという利点があるが,資料の取り方や質に不均質性がある可能性があることに注意せねばならない。
Dr. James William Woodによる。文献は,Wood, J.W. (1980) Mechanisms of Demographic Equilibrium in a Small Human Population: the Gainj of Papua New Guinea. Ph.D. Dissertation, The University of Michigan.など。
大塚柳太郎教授をはじめ,我々のグループによる。文献は,Ohtsuka, R. and T. Suzuki [Eds.] (1990) Population Ecology of Human Survival: Bioecological Studies of the Gidra in Papua New Guinea. Tokyo: University of Tokyo Press.にまとまっている。その後の展開としては,Nakazawa, M. and R. Ohtsuka (1997) Mathematical Population Studiesがある(業績を参照)。
文献は,河野稠果・岡田實[編] (1992) 低出生力をめぐる諸問題,大明堂。厚生省のWEBページにも資料多数(たとえば,「少子化に関する基本的考え方について」とかご意見募集「少子化問題」など)。
Correspondence to: nminato@med.gunma-u.ac.jp.