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生態学第11回
「共生」(2001年6月28日)

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最終更新: 2001年10月14日 日曜日 23時55分

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講義概要

共生=symbiosis(相利共生=mutualism)
定義:互いに利益をもたらす2種の生物間の関係。
説明:共生関係にある生物の片方の種に属する個体は,他方の種に属する個体が存在するときの方が存在しないときよりも高い率で成長,生存,あるいは繁殖する。
生物の世界は,かなりの部分,共生関係から成り立っている。
共生関係の数理モデル
数式で表せば,共生関係にある種1の個体数をN1,種2の個体数をN2と書けば,
dN1/dt=r1N1(K1-N112N2)/K1
dN2/dt=r2N2(K2-N221N1)/K2となる(αは正)。つまり,種間競争の場合の「ロトカ・ヴォルテラの競争方程式」の,αの符号が変わっただけ。ただし,何か制約条件をつけないと,両種とも無限大に発散してしまう。
共生の3つのタイプ(注:日本語訳は定訳ではない)
Facultative(任意共生):共生体(symbiont)は宿主(host)から利益を得るが,依存していない。
Obligate for one partner(一方向絶対共生):片方の種はもう1方の種に依存しているが,逆はそうでない。根粒バクテリア(アゾトバクターなど)とマメ科植物の関係など。
Obligate for both partners(双方向絶対共生):互いに相手がいないと生存できない。反芻動物やシロアリと,それらの胃の中の原生動物や細菌の関係など。
下の関係ほど相互依存度が高く,距離が近い。共生こそが真核細胞の起源といわれている。
事例1:大型魚とホンソメワケベラ,ウツボとアカシマシラヒゲエビ
写真が載っているサイト(ホンソメワケベラと大型魚ウツボとアカシマシラヒゲエビ)。Facultativeな関係。hostは寄生虫を食べてもらえるし,symbiontは捕食から守られる。
事例2:ダテハゼとニシキテッポウエビ
写真が載っているサイト。エビの掘った穴に居候をさせてもらっている代わりに,ハゼは外敵が来ないか見張る
事例3:クマノミとイソギンチャク
写真が載っているサイト。クマノミが採った餌のおこぼれがもらえる代わりに,イソギンチャクは毒のある刺胞で,クマノミを外敵から守る(クマノミがやられないのは,体表の粘液がイソギンチャクのそれと似ているため)

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ヒトに共生はどのくらいある? サナダムシも共生か?
共生も寄生も種間関係であることに注意してください。ヒトは,農耕や牧畜という形で,作物や家畜と共生関係にあります。もちろん,腸内の常在菌(乳酸菌など)とは相互依存の共生関係にあります。飽食の社会だとは言っても,サナダムシとは微妙です。サナダムシは腸管という体外に生存しているわけですし,藤田紘一郎氏がいう通りなら,定義により共生となりますが,サナダムシはビタミンB12を奪うのでヒトが貧血になりやすく共生とは言い難いという指摘もあります。なお,サナダムシは腸内で1匹のことが多いのですが(複数いることもあります),雌雄同体なので単独で繁殖できます。毎日100万個の卵を産むそうです。多くの腸管寄生虫は,コンバントリンなどの虫下しを飲むことで,比較的容易に駆除できます。
イソギンチャクの毒はどのようなもので,体表の粘液が似ているとどうして平気?
種類によって違い,溶血毒と神経毒の両方または片方をもつそうです。例えば,ヒトがウンバチイソギンチャクの刺胞に刺された場合,その部分が壊死したり数週間も痛みが続くなど,ひどい症状になります。スナギンチャクのもつバリトキシンという毒は哺乳類に筋肉痛を起こさせますが,スナギンチャクを食べるアオブダイには影響しません。それで,ヒトがアオブダイを食べてバリトキシン中毒症状を呈することがあります。たくさん食べると死ぬこともある猛毒です。
体表の粘液が似ているとやられない理由は,他の生物が来たと認識されず,刺胞が反応しないので,毒が分泌されないからです。免疫とか毒を通さないとかいう俗説に根拠はありません。
共生関係にある生物は誰に教わったわけでもなく共生を始める?
共生をするという遺伝的形質を偶然もった個体は,定義により共生しない個体より生存,成長,繁殖などの能力が高いはずなので,多くの子孫を残す可能性が高いです。つまり,遺伝子に組み込まれている可能性が高いと思われます。
アリはアブラムシを外敵から守る代わりに甘い蜜をもらうそうだが,これは共生か? 言えるとしたらどのタイプか?
アリとアリマキの関係は,意外に複雑です。互いに生存に必須というわけではないので,facultativeな共生関係といえます。アリマキには敵が多く,テントウムシやクサカゲロウに容易に捕食されます。動きが鈍い上に毒もなく,栄養豊富なごちそうなのです。アリはこれら捕食者からアリマキを守る代わりに,独占的にアリマキの分泌する蜜を得ています。アリマキは夏の間単為生殖で爆発的に増えるので,数が多くなりすぎると植物を枯れさせてしまう可能性があります。そこで彼らはクサカゲロウを呼び寄せるフェロモンを分泌して,自らの個体数をコントロールしているようです。なお,アリマキの高い繁殖力の源は,菌細胞という形で共生している菌が,アリマキが植物から吸い取る炭水化物や窒素化合物を代謝て,必須アミノ酸を作り出してアリマキに供給しているからだそうです。
菌細胞については,森山和道さんのメールマガジンNetscience Interview Mailで2001年7月から配信されている中鉢淳さんのインタビュー記事が詳しくて面白いので,是非読んでみてください。

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