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生態学第12回
「人間化された生態系」(2001年7月5日)

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最終更新: 2001年10月14日 日曜日 23時54分

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講義概要

  1. 人間化された生態系
  2. 生態系の見方
  3. 生態系の機能図
  4. 都市〜従属栄養的な系の代表
  5. 雑木林:ヒトが手を入れることで極相林への遷移を妨げ,かえって多様性が維持される。
  6. 耕地・牧草地
  7. 統合系

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コンパートメント図利用の利点,不利点は?
利点は,講義で触れたように,複雑な関係が絡まりあった状態を見やすく表示するということです。不利な点というと,本当のシステムに対して,何らかの単純化をせざるを得ないということでしょう。が,科学による理解というのは,現実を何らかの意味でモデル化することなので,この単純化は多かれ少なかれ仕方がない面をもっています。
エネルギーフローがいまいちよくわからない。
生態系において,物質は土壌及び大気から植物または動物に入り,他の動物や菌類を経由して(通らないこともある)また土壌または大気に戻るという形で循環していますが,エネルギーは,物質とともに移動しながら,つねに外界に熱として放出されますし,無機物になった段階で放出しきったと思っていいので,一方向に流れるだけで循環しません。そのため,生態系におけるエネルギーの流れは,エネルギーフローと呼ばれます。
自然生態系を利用して二酸化炭素とかを減らしても,ヒトが生きている限り地球環境は悪くなる一方では?
そこまで悲観しなくても,適正規模の人口を保つ限り持続的生存は可能と思います。
どんな生物でも生きることを最優先するのではない?
絶滅に至らないような形質をもった生物種の組み合わせが生き残ってきていると考えられます。短期的に,個体レベルでは生きるのに不利なように見えても,遺伝子レベルで考えれば違うこともあるのです。このことを説明するには古来いろいろな仮説が提唱されてきています。現在では種の利益を個人の利益より優先するという説明ではおかしいことはわかっていますが,常にこれが説明原理だと言い切れるようなものはまだ定まっていません。
閉鎖生態系としての入り口がない水槽は自分で作れる?
クロレラとミジンコとワムシくらいなら,フラスコ程度でうまくできそうですが,金魚となるとなかなか難しいと思います。
今朝,畑の横の道を通ったら,たくさんのミミズが道路の上で干からびていた。ミミズは+の走地性があると習った気がするが,なぜあんなに多くのミミズがわざわざ道路に?
土中の酸素が減ってくると地上に出るという説と,モグラに捕食されるのを避けるため,地中にモグラと似た振動があるのを感じると地上に出るという説があります。どちらが正しいのか,どちらも場合によって正しいのか,またはどちらも間違っていて第3の説明があるのかは,わかっていません。地上に出たときに太陽が出ていると紫外線が当たって動けなくなるそうです。
都市が従属的な生態系ならば,ほぼ自給自足で成り立つような農村などがあった場合は独立している?
完全に自給している農村ならそうですが,服とか工業製品をまったく取り入れない村は現代の日本などにはないと思うので,独立しているといえるかどうかは微妙です。もともと,生態系の中で物質循環はある程度完結しているべきなので,都市を生態系とみるのは特別なのです。
陽樹と陰樹のところで,なぜ陽樹は枯れて陰樹ばかりになるのか? 陽樹の方が高ければ陽樹ばかり育つような気がする。そもそも陰樹ばかりになるのは悪いことか?
樹木にも寿命があります。アカマツは理想的な状態ならかなり長く生きていますが,数百年経つと必ず枯れますし,普通はそれよりずっと前に,虫害や大気汚染などさまざまな要因で枯れてしまいます。それゆえ,森林に生える樹種を考えるときには,幼樹が生きられるかどうかが重要になってきます。アカマツ林の林床でシイ,タブなど陰樹の幼樹は成長できますが,アカマツの幼樹は成長できませんから,いつかは陰樹に取って代わられ,シイ・タブなどの高木の林床ではやはり陰樹の幼樹しか成長できないので,陰樹だけで世代交代が行われ,山火事などの擾乱が起こらない限りずっと同じ景観が続く,極相林と呼ばれる状態になります。裸地から一年生の草本からなる草原となり,そこにススキなど多年生の草本が入ったあと,潅木や陽樹が育ち始め,多種からなる陽樹の林を経て最終的に極相林に至るというこの一連の変化は,遷移と呼ばれます。遷移は自然に起こることなので,いいも悪いもありません。
遺伝子組換え食品の消費者に対するメリット,デメリットは?
遺伝子組換え食品といってもいろいろあって,その種類によって影響は違います。厚生労働省医薬局の遺伝子組換え食品ホームページが参考になりますが,大きく分けると,(1)ラウンドアップ耐性大豆のように,作付け可能な場所を増やすことと除草の手間を減らすことを通して生産段階での利便性を上げることを目的として開発されたもの,(2)フレイバーセイバートマトのように保存性を高めることによって流通段階の手間を引き下げることを目的としたもの,(3)Btトウモロコシのように作物に害虫抵抗性をもたせて生産段階での手間を省くことを目指したもの,(4)ペクチンを多く含むトマトや,低アレルゲンイネ,コレラ予防バナナ,βカロチンを多く含むイネといった,食品としての付加価値をつけたもの,があります。このうち(4)は直接消費者にとってメリットとなりますが,(1)から(3)は生産者にメリットをもたらすことを通して,食品の価格を下げることで消費者にメリットとなります。デメリットとしては,昭和電工トリプトファン事件のように,予期せぬ突然変異によってヒトに対して毒性をもたらす可能性があることと,生産の根幹を遺伝子組換えができる一握りの大企業に握られてしまうことによるリスクを覚悟しなければならないこと,などがあります。

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