ソロモン諸島ガダルカナル島の子どもたちは,マラリアを媒介するファローティ・ハマダラカの吸血活動が活発な日没後にも,よく戸外に出て遊んでいる。昼間の暑さがすーっと引いて,気持ちのよい夜風にあたりながら合唱したりする楽しみは,なにものにも変えがたいとのことである。
このように住民全体のマラリア検査をしてみると,常に20%近い人がマラリア原虫をもっている。子どもは頻繁にマラリアに罹り,高熱に苦しむ。もっとも,クロロキンを内服すれば,比較的短期間で治癒する場合が多い。人々は,ハマダラカの吸血によってマラリア原虫が伝播されることは,小学校で習うので知っている。それでも,日没後に戸外に出ることをやめない。それは熱帯で暮らす上での本来的な楽しみなのだ。マラリアに罹ってもいいから夕涼みをしながら合唱をしたり井戸端会議をしたりして暮らす,という生き方と,マラリアを恐れて暑い中蚊帳の中でじっと過ごすという生き方を比べたら,たとえマラリア罹患率が高くても,前者の方が健康とはいえないだろうか?
そもそもマラリアを根絶してしまえばもっといい,という考え方は当然成り立つ。しかし,数学モデルを使って介入の予測をした結果,ここではかなり大きな住民側の負担なしには根絶不可能だとわかったし,介入の途中段階では,あまり望ましくない副作用が出てくるのを避けられない。しかも,根絶して暫く時間が経過すると,マラリア耐性遺伝子の頻度が減ってきたり,人口増加が起こって環境劣化や食糧不足の問題が出てくる可能性もある。長期間の適応の結果として成り立っている社会に対して介入することが,集団の健康に対して本当にsupportiveな意味をもつのかというと,かなり難しい問題である。
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