山口県立大学 | 看護学部 | 中澤 港 | 公衆衛生学
精神保健の問題についての学生諸氏からのコメント
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(注)以下のコメントは,『精神保健福祉法第32条,または審議中の保護観察法について,あなたはどう思うか書いてください。』という課題への回答です。多少文章は変えています。
- 自己負担増も嫌だが国の負担が大きくなると困ることも理解できる。国が悪いと決め付けることもできないので自己負担増は仕方ない。
- 精神病の進む(? 精神病の有病割合が上昇しているということ?)日本にとって,これ以上の負担はきついと思う。今でもつらいが税金等の負担が増えるのも苦しいので少しくらいの医療費負担も仕方ない。(主旨は上の回答と同じか?)。
- 精神病は退院,通院しなくなっても,いつ再発するか分からないし,そのために長い期間病院を利用することになると思う。そうなると負担が大きくなり,患者の社会復帰もさらに難しくなるだろう。国を中心とし,都道府県,市町村,地域にかけて理解を深め,彼らの医療費にともなう負担を軽減できるような社会にするべきだと思う。
- 精神医療は治療に要する期間が長いことが多く,退院しても再入院というケースも多い。治療費に関して,何よりもまず精神障害者の社会復帰のシステムの構築が重要であると考える。うまく社会へ戻ることができないために再び精神を患い,再入院するケースが考えられるからである。社会の理解が国や都道府県,そして患者自身の負担を軽減し,この法律もより円滑に機能するのではないかと考える。
- 第32条に関しては公費通院医療費の増加要因である公費通院制度の適用対象などを明確にしていく必要はあるが,精神病の場合,はっきりと診断するのが難しいので,明確にしていくと対象者である人も診断によっては対象外になることもある。確かになし崩し的に弱者切り捨てを生む危険はあるし,見る人にとっては第3条の考え方に反しているという見方もあるが,本当に精神病の疑いがあるという人だけがこの公費を同じように使用でき,まだ疑いの低い人には疑いの多い人よりは少ないが公費の医療費を少し使用できるようにすれば第3条の考えに反することもなくなるのではないか。(中澤注:そもそも認定されないとこの制度は適用されないので,疑いとかではなく,精神病であることは間違いないわけです。問題は,精神病の人が風邪を引いた場合に,風邪の治療が公費でなされるべきかどうか,ということです。あるいは,痴呆の人が転んで怪我をした場合に,外科的な治療が公費でなされるべきかどうかということです。)保護観察法については,自分が地域社会でいつも監視,保護がされていると思うと嫌だが,それによって地域の人が安心できるし,保護することでその人は「今,落ち着いているので大丈夫」など精神面を知ることができるし,その人にとっても保護する人との話が良い面に出てきてコミュニケーションなどのきっかけになる。しかし,地域の人にあからさまに監視・保護するのはよくないと思う。
- 精神障害者の就労はある程度法律で保証されているといってもまだ難しい現状も存在する。そのため,金銭的な問題で患者が受診を見送ることがないように医療費を控除することは必要と思う。
- 精神的障害が現れる原因は社会に問題があると思う。法律を制定する前に,何か違う角度からの働きかけが必要なのではないか。対象者への対応も考慮すべき。案はないが自分自身考えていきたい。
- 精神病は誰でも患者になる可能性がある。だが,重度の精神病患者(統合失調症など)はテレビで特集されるなどして社会的に特別視されている部分も多い。だから,本人や家族の苦労や負担を軽減するためにも医療費は公的負担すべき。
- 医療費削減自体反対。人の健康や福祉に関することをお金(財政)のために(本人に)負担させるなんて嫌だ。
- 第32条は難しい課題と思うが,自己負担増によって弱者切り捨てはよくないので,今後様々な視点から考える必要があると思う。
- 第32条については急に変更されては困ると思う。通知1枚で変更を知らせるのではなく,ちゃんと説明の場をもつ必要はある。講義で紹介された精神科医の日記をみたが,本当に経済的に厳しい状況におかれている人には逆効果になってしまうと思う。
- 課題とは論点がずれるが,まず精神保健福祉法32条が規定する精神科医療費の公費負担制度を知っている人間がどれくらいいるか,2002年10月の運用規定変更についてはどれくらいの人が知っているか,つまり精神障害にかかわる情報の少なさ,議論の閉鎖性に問題を感じる。精神障害者に対する一般市民の理解はここ数年ほとんど進んでいないと思う。近年だけでも佐賀のバスジャック事件,池田小事件などが起こるたびに精神障害者の犯罪防止は議論に上がるが,裏を返せばそのような大事件のときしか一般市民の目に精神障害者が触れることはないと言っても過言ではない。そのため一般的には「精神障害者」=「何をしでかすかわからない者,犯罪者」というイメージが定着している。このイメージのままで現在審議中の法案が通り,犯罪を犯した精神障害者が地域で保護観察処分になったとしたら,その地域の住民はその人を受け入れることができるか? と考えると,保護観察者へのなり手も(どのような人がなるのかわからないが)少ないと思う。司法医療分野を確立したいということは理解でき,このような議論を行うことにも意味はあると思うが,精神障害者医療,福祉分野においては,議論し,改善すべき問題は他にも山積み(具体的に書くにはここでは紙幅が足りないのでやめる)。この法案の審議を機に浮き彫りになった,現在の精神障害者医療,福祉分野における問題をもっとオープンな場(これもどこだかは難しい)で話し合い,一般市民が「精神障害者」と「犯罪者」を同一視しない程度の理解を最低でも育める環境をつくってゆくべきではないか。ただし,今述べたことは中長期的な取り組みが必要なことであり,すぐには変えることができない。本来議論の順番はこちらが先に来ることが望ましいと考える。現在の保護観察の議論は,どうも司法医療分野に偏りすぎているような気がする(与党のプロジェクトチームは精神保健医療,福祉改革も並行論議しているようだが十分ではない)。「情報提供と公開」がこの分野ではより重要な課題と思う。(保護観察が機能するかどうかもここにかかっているのでは?)ちなみに,厚労省社会援護局保健福祉部企画課発表により平成14年度障害保健福祉部関係予算では,精神医療対策の充実,強化が謳われている。その中で精神医療費の公費負担が平成13年度よりも2億6千万円上積みされ,467億4千万円となっている。32条の運用変更は不況下の合理化,効率化の意味合いがあるのだろうが,医療強化,充実という方向性と矛盾する。「通知」で済ませるべきことではないと考える。
質問としては,「精神保健福祉法第32条がよくわかりません」というものが多かったが,講義で話したし,配布資料にも載せたので,それを良く読んで欲しい。この問い方ではどうわからないのかがわからないので,答えを期待して質問するならば,どこがわからないのか,何をわかりたいのかを明確にされたい。
Correspondence to: minato@ypu.jp.
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