山口県立大学 | 看護学部 | 中澤 港 | 公衆衛生学
公衆衛生学−8.物理化学的環境要因
参照
▼テキスト第4章の一部
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▼物理化学的環境要因のヒトへの影響を調べることは,疫学研究にも含まれてはいるが,より専門的には,生理人類学と呼ばれる学問分野でよく行われている。日本の学会でいうと,日本生理人類学会(http://www.jspa.net/。第15巻以降の英文誌は全文公開されている)とか,人類働態学会など。やや古い本だが,佐藤方彦「人間と気候」(中公新書)は生理人類学の入門書としてお薦めできる。
内容
- 物理化学的環境とは
- ●生物(organism)にとっての環境(environment)とは,それ自身を取り巻くすべてのものをいい,環境には生物的環境(他の生物)と非生物的環境(温度,降水量,土壌中化学成分など物理化学的条件)があるが,このうち後者を物理化学的環境という。ヒト以外の生物は,物理化学的環境条件によって居住可能な場所がだいたい規定されてしまうが(*),ヒトは周囲に自らの生存に適した環境を一時的に作り出したり,外部環境を大規模に改変したりすることで,本来の物理化学的環境条件が生存に適していない居住場所にまで,その生息域を広げてきた。
* もっとも,ヒトを宿主とする寄生生物や,人為的環境を生息環境とする生物は,ヒトの生息域の広がりと同時に自身の生息域も広げてきたわけだから,生物的環境と物理化学的環境は独立ではない。
- ●ヒトに影響を与える要因として捉えるときは,気温,湿度,気流,輻射熱,気圧,音,光線,放射線などが物理的環境要因といえ,化学物質を化学的環境要因という。
- 物理的環境要因
- ●温熱(温熱指標については,兵庫教育大学潮田研究室のウェブサイト内のページ「温熱指標いろいろ」[=http://www.life.hyogo-u.ac.jp/hitomiu/onnetu.htm]が詳しい)
- ●騒音
- 不快や邪魔に感じたり聴覚障害を起こしたりする好ましくない音を騒音という。
- 測定は騒音計による。物理量としては音圧だが,周波数によってヒトの感じ方としての音の大きさは違うので,通常は聴感補正回路Aを通った騒音レベルdB(A)で表される。騒音レベルが変化する場所では等価騒音レベルLeqを計算するのが普通。積分騒音計を使えば自動的に計算してくれる。
- 人体への影響:130dB(A)くらいになると耳に疼痛を感じ,鼓膜損傷のおそれ。85dB(A)以上の騒音に繰り返し長期間曝露すると騒音性難聴(NIPTS)が起こる。初期にはNITTSが起き,4000 Hz付近の音が聞こえにくくなる。
- ●放射線
- 放射線には電離放射線(被照射物をイオン化する性質が強い放射線)と非電離放射線(その性質がない放射線)がある。
- 非電離放射線には可視光線,赤外線,紫外線,電波などの電磁波がある。
- 電離放射線には,γ線,X線などの電磁波と,α線,β線,中性子線などの粒子線がある。
- 測定単位は3種類を区別する必要がある。放射線源の強さはベクレル(Bq),被照射物に吸収されるエネルギー,即ち吸収線量の単位はグレイ(Gy),被照射物が生物であるときに生物への影響の強さを含めて考える線量当量の単位はシーベルト(Sv)である。放射線障害防止の立場からはSvが重要。
- 人体への影響:電離放射線は生体影響が大きい。これには急性影響と慢性影響があり,細胞の壊死などの急性影響が起こるのは,ある閾値以上の強い電離放射線に曝された場合だが,発ガンのイニシエータ作用などの慢性影響には閾値がなく,弱い電離放射線でも起こる可能性がある。もっとも,我々は,きわめて低いレベルの電離放射線には日常的に曝されている(自然放射線源からの平均年間線量当量は1人あたり約2.4 mSv)。
- 化学的環境要因
- ●化学物質と人体
- 侵入経路:経口,経気道,経皮など。
- 量反応関係:通常シグモイドカーブ。テキストp.125の図4-15を参照。
- 毒性及び毒性試験:一般毒性試験(急性毒性試験,亜急性毒性試験,慢性毒性試験),特殊毒性試験(催奇形性試験,内分泌撹乱化学物質試験,発ガン性試験,突然変異試験[エームステストを含む]),代謝試験,一般生物学試験などがある。試験結果から,許容1日摂取量(ADI)や耐用1日摂取量(TDI)が決められる。その他,環境基準や許容濃度,有効量など,適用場面に応じて特別なコトバで基準値が定められる。
- 参考:ダイオキシンのTDI(http://www1.mhlw.go.jp/houdou/1106/h0621-3_13.html)
- ●化学的環境要因
- 健康と直接関係する物質:大気,水,食物に含まれる栄養素,医薬品,食品添加物,発ガン物質など。
- 健康に間接的に影響する物質:温室効果ガスなど
- 健康と無関係な物質:不活性ガスと呼ばれる。窒素やアルゴン。
- 新しい物質
- ●喫煙と健康に関して考えるべき要素
- 主流煙と副流煙
- 数十種の発ガン性物質
- ニコチン
- 受動喫煙
- 健康増進法(栄養改善法に受動喫煙規制を付け加えて2002年夏に採択され,2003年5月から施行されている)
Correspondence to: minato@ypu.jp.
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