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2020年東京オリンピックは秋開催に!

更新:2018年9月19日

これまでにも何度も書いてきたが,2年後の東京オリンピックを7月下旬から8月上旬に開催することには断じて反対である。返上するか,5月のゴールデンウィーク頃に前倒しするか,9月末から10月辺りに延期するべきである。今から返上すると現場の人が大勢困りそうだし,前倒しは物理的に難しいだろうから,結論としては9月末から10月辺りに延期するしかない。以下理由を述べる。

そもそも東京が手を挙げるべきではなかった

そもそもオリンピックを東京で開催すること自体に一分の理も無い。石原慎太郎氏が都知事だった頃に言い出し,2016年オリンピックに立候補して2009年に当時の鳩山由紀夫首相が演説をしに行ったときにも,ぼくは勝ち目が無いから止めた方がいいと書いているが(つまりこのときの批判の主眼は招致活動が無駄遣いだという点にあるが),人口密度が高いのに道路が整備されておらず普段から渋滞がひどくて自動車より自転車の方が早く目的地に着けるような町で,余計に人が集まるようなイベントをするのは根本的に間違っている。しかも,地方から東京に行くとわかるが,空気がまずい(15年前のディーゼル規制によって多少改善されたとはいえ,大きな緑地以外では深呼吸はあんまりしたくない)。そもそもスポーツ大会をするには向いていない場所なのである。

東京一極集中を避けるべきという理由と,酷暑の東京での開催が選手の健康を蝕むという理由で,久米宏さんも当初から反対しているし,せめて10月開催にすべきと主張しているが,まったく同感である。しかし,2015年の時点では10月に開催すべきと主張し当時の下村文部科学大臣とやりあってくれていたアントニオ猪木氏は,今年のレスリング関係者との対談ではすっかり牙をもがれてしまったようだ。

ちなみに,渋る鳩山由紀夫首相を無理矢理口説いてコペンハーゲンに送り込んだ,と石原慎太郎知事時代に副知事だった猪瀬直樹氏が自慢していたが,その話を聞いたときに「東京で開催することには一寸の理も大義もない」と書いているから,ぼくは一貫して東京オリンピック開催には反対してきたと言って良かろう。2013年に2020年オリンピックの招致活動が展開されていた頃は,高梨沙羅さんまで担ぎ出すなとか,東京都はオリンピック招致より先に,花粉対策を含む大気汚染対策や子供が外で安心して遊べる環境作りと,アウトブレイク中の風疹対策を進めるべきとか書いていた。しかしまともに条件を考えたら東京が選ばれるはずはないと思っていたので,オリンピックを招致したいなんていう寝言を言う前に,東京都は和歌山県並みの対策をすべきと甘く見ていた。

大嘘をついて招致してしまうとは想像を超えていた

他の候補都市が次々と辞退し,物凄いカネをかけた上に,汚染水は完全にアンダーコントロールだとか(2016年3月時点でも毎時53万Bq以上の放出があったし,海洋汚染もかなりのレベルで残存していてとてもアンダーコントロールと言える状況では無かった),「この時期の天候は晴れる日が多く、且つ温暖であるため、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候である」だとか大嘘をつきまくって(最近いろいろなところで指摘があったが,例えばこのLiteraの記事2014年6月のJapan Timesの記事参照),仕上げに滝川クリステル氏の「お・も・て・な・し」パフォーマンスで招致に成功してしまったのは予想外だった(参考:2018年2月3日のJapan Timesの記事)。たぶん広告代理店筋が描いた筋書きなんじゃないかと思うが,後は野となれ山となれで,とりあえず開催都市に選ばれてしまえばどうにでもなると思っていたのだろう。

本当はいまでも東京が返上して,オリンピックは商業主義と訣別して永久にアテネで開催する方がいいと思うが,たぶんこれから返上するとアスリートも含めて物凄く多くの人が困ると思うので,最低限の対策として10月に延期しなくてはならないと思う。久米さんが指摘している点に加えて,熱中症の多発で救急がパンクするのではないかというのが最大の懸念だ。

救急対応を考えたら7月末から8月上旬は無理

2017年5月末に書いたが,8月の東京の平均最高気温32℃という暑さは,WBGTでいえば28℃を超える可能性が高く,「激しい運動は中止」しなくてはいけないレベルなので,まず第一にアスリートが熱中症になるリスクがある。さらに,海外からの観光客も含む観客が激増する中でオリンピックなどやったら,ただでさえ多い8月の熱中症による救急搬送数が激増するに違いない。救急がパンクするという事態は物凄く危険なことで,その可能性が高いことがわかっているのに敢えてそこでイベントを計画するのは自殺行為に他ならない。2017年7月7日には細菌性食中毒もピークに達する時期という指摘も含めてメーリングリストにも投稿したのだが,一人からしか応答がなかった。マラソンの早朝スタートくらいでは全然対策にならないことも書いた。先月も反対論を書いた

もちろん,有給無給を含めボランティアであるか(『ブラック・ボランティア』の著者である本間龍さんが以前から指摘されているように,こんなに商業主義で金を集めたイベントでボランティアの美名を借りた労働力搾取は犯罪的だと思うが)被雇用者であるかを問わず,運営スタッフは,厳しい作業環境でも責任感から我慢して作業を続けてしまう可能性が高いため,より熱中症のリスクは高いと思われる。いったい何人の救急対応が必要になるのか想像も付かない。

熱中症のリスクが高いという視点を踏まえると,実は(有償の場合も含めた)ボランティアであるのかと,雇用であるのかには,大きな違いがある。雇用されれば労働基準法と労働安全衛生法に守られるし,作業中に熱中症になったら労働者災害補償保険(労災)の適用になる可能性が高い。労災が適用されれば,熱中症になったときの医療費や後遺症が残った際の補償を受けることもできる。ところが,ボランティアはやりたくてやっているという建前だから,自分の面倒は自分で見なければならず,すべて自己責任であり,労働基準法が適用されないから長時間の仕事を課せられる可能性もあるし,熱中症になっても労災が適用されない。医療費も自分もちだし,後遺症で休職したら自己都合によることになってしまう。スポンサー企業からの動員が始まっているという話もあるが,そうやって動員される会社員たちは,間違ってもボランティア休暇を貰ってボランティアとして参加するなどというハイリスクなことをやってはいけない。動員ならば動員らしく業務命令として従事すれば,熱中症になったときも労災認定される。熱中症というのは実は恐ろしい病気で,II度以上の場合は早急に入院治療しないと命に関わるし,後遺症もある。それが高い確率で起こることが予見できていながら医療保障がない状態は,公衆衛生的に看過できない。

日本救急医学会が,熱中症に関する緊急提言を出している。提言された対策内容としては日本生気象学会の「日常生活における熱中症予防指針Ver.3確定版」とか環境省の熱中症環境保健マニュアルと変わらないのはやや残念で,せっかくの救急医学会提言ならば,もう1歩踏み込んで,暑いときの屋外活動を制限しないとどれくらい救急出動が増えて救急システムに負荷をもたらすのかという予測まで提示して欲しかったところだし,もっといえば,東京オリンピックが7月末から8月にかけて開催されてしまった場合に考えられる最悪のシナリオまで示して10月開催を提言して欲しかった。たぶん救急医学会ならそれができるだけのデータは持っていると思う。もちろん,本来は,救急医学会以上に,環境省と厚労省と文科省が協力してリスク予測と対策提言をすべき行政の仕事である。残念ながらこのままではそういう動きはしてくれそうにないが,厚労省が率先して音頭をとるべきだろう。

救急がパンクして受け入れる病院が足りないばかりか,道路や公共交通も渋滞や混雑が激しくなることが予想されて,満足に医療機関にかかることもできないという事態は避けたい。このまま7月から8月に開催したら,何が起こるかわからない。遅らせることなら,IOCさえ了承してくれて,米国テレビ網などに違約金を払うか何かすればできるはず。どんなに美辞麗句を費やしたとしても,商業主義に支配されたスポーツイベントを,何千人,何万人という防げる死亡を犠牲にして強行することは許されないと思う。

例えば,組織委員会からIOCに対して正式に「招致の時は嘘をつきましたが酷暑でスポーツ大会を運営できる環境ではなく,強行すると多数の熱中症等の被害者が出る可能性が高く,そうなったらオリンピックの長い歴史に泥を塗ることになり,致命的なイメージダウンになるため,強行できません。賠償金が必要なら払いますから9月末~10月に延期させてください」とお詫びしたら,延期を許してもらえないだろうか。IOCやスポンサー企業(世界に13社しかないワールドパートナーの中にはコカコーラも入っているし,パナソニック,トヨタ自動車,ブリジストンと日本企業も3社入っている)にまともな理解力と判断力をもった人がいれば,聞く耳はもってくれるのではなかろうか。

お願いだから,9月末か10月に延期してください。

【2018年7月29日,2018年7月23日の鵯記「東京オリンピックは10月に延期すべき」より採録し再構成;同年8月1日追記;同年9月19日,労災関係追記】


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