今日は一日,最近溜まっているデスクワークを仕上げる予定。通常デスクワークといえば座り仕事のことをさすからコンピュータでの作業も含むのだが,ここでいうのは,まさに机の上で紙と筆記用具を使ってする仕事のことだ。つまりは,採点2科目(うち1科目は昨日からの続き)と人口学会の論文の査読である。研究室のぼくの机には論文だの本だの書類だのが積み上げられていて,作業スペースがまったくないので,集会室で作業をするつもりである。居室に誰もいないときに電話が来たりすると困るけれど,居室ではデスクワークができないのだから仕方がない。
コンピュータでの仕事もある。10月にある学生実習の実習先への依頼の手紙を打つことと(もちろん手紙だけでは駄目で,近いうちに打ち合わせにいかなくてはならないだろうが,まず手紙を打っておくのだ),それに先だって来週月曜に行われる実習ガイダンスの案内文作りと,来週月曜にさっそく当たっている教室ミーティングの資料作りである。手紙くらいは新幹線で打っても良いが,これらも結構暇がかかるから,たぶん水曜日のうちに終わらせるのは苦しいだろう。
タスクに優先順位をつけるのは難しくて,有能な人なら巧みに自分の論文書きを上位にもってこられるのだろうが,それができないあたり,ぼくは自分が不器用だなあと感じる。コンピュータで仕事をしていると,興味の対象を広げるのは実に容易なので,現実逃避をしがちなのも,困りものである。何とかしなくちゃなあ。時間があったら,2ヶ所ほど外出したいところもあるのだが。
娘のせいで一旦起きる羽目になったのは5:00前だったが,眠さに負けて2度寝した。さすがにぼくでも3時間ではもたない。そういえば昨日の中学生の質問リストに,人間は何時間眠る必要がありますかとかいうのがあったような気がするが,たぶん人によって違うし,同じ人でもライフステージによって違うし,起きているときの活動によっても違うから,何ともいえないように思う。最近のぼくは,平日は5時間,休日は7時間くらい眠っているが,これは休日は昼間子どもたちと身体を使って遊ぶからだ。たぶん,睡眠時間の分布をとると,短い方なのではないだろうか? もちろん年齢でコントロールしなくてはいけないし,そもそも睡眠時間の分布が一峰性(unimodal)であるという保証はなく,二峰性(bimodal)かもしれないから,「短い方」などという言い方に意味はないかもしれないのだが。閑話休題。
そういうわけで目が覚めたら6:40で,既に娘は卵かけご飯を食べおえていた。今朝は4人とも卵かけご飯である。というのも,昨夜仕込んだ米は,妻が食文化研究会に参加して持ち帰った,あきたこまちの無洗米なので,実に美味なのだ。まさに銀しゃりといいたくなるような艶といい,風味といい,かなり上等な米だと思う。こういう米を保温して味を落とすには忍びないし,「フリーズしてチーンよー」というのもエネルギーの無駄に思えるので,米だけを弁当箱に詰めてもっていくことにした。生協食堂にもっていっておかずと汁物だけ注文するという手もあるし,コンビニでおかずを買うという手もある。おかずの一品が揃っているのは,最近リフォームされて空調完備になった第二食堂なのだが,あそこの欠点は遠いことだ。本郷キャンパスの端から端まで移動するのは,けっこう面倒だ。まあ,なりゆきに任せることにしよう。ともかく,味噌汁担当のぼくが寝坊したので,味噌汁がないのが残念だったが,満足な朝食だったといえよう。
満足感につつまれつつ娘の相手をしていて,ふと時計をみると7:30を過ぎていた。当然あさま2号には乗れず,今朝は8:05発あさま504号である。長野では比較的空いていたが,上田で満席となった。どうも,上田からとか佐久平から,関東へ通勤している人が多いようである。長野県から東京への新幹線通勤者は何百人もいる筈だと知事が言っていたが,きっと上田や佐久平から通勤している人が多いのだろう。などと考えながら,高中正義のMP3ファイルを聞いていたら,知らぬ間に眠っていた。目が覚めたときには高崎だった。手紙でも打つか。
フローラ上野ブックガーデンを通ったら,いつの間にかレジで代金3780円を払っている自分を発見した。収穫は,家森幸男『「長寿食」世界探検記』(講談社),黒岩常祥『ミトコンドリアはどこからきたか』(NHKブックス),飯田辰彦『蘇るおいしい野菜』(宝島社新書)である。ぼくがここで本を買ってしまう理由は主に3つあって,(1)毎日通ること,(2)立ち読みして文体が自分の感覚にフィットするかどうか(本が呼ぶかどうか)を確かめられること,(3)現金で払えること,である。(2)と(3)はオンライン書店にはないので(いかにすぐれた書評でも立ち読みの代わりにはならない),(1)の条件が満たされる限り,ぼくはこの店で毎月10冊以上の本を買い続けることになるだろうと思う。ちなみに家森さんの本は怪しいものではなく,24時間尿(読者からご質問いただいたので解説しておくと,例えば窒素出納を調べるには,一日に摂取した食物と,排泄される窒素量を調べなくてはならない。窒素は尿素の形でかなり尿中に排泄されるので,24時間ずっと尿を容器に貯めて,それをよく混ぜて窒素濃度を測り,24時間で貯まった尿量を掛けて尿中に排泄された窒素の一日の総量を計算するのである。ふつう途上国のフィールド調査で24時間蓄尿するのは不可能とされているのだが,著者たちは排泄された尿のちょうど40分の1ずつを保存していく二重構造の尿カップを開発して,不可能を可能にしたということだ)を世界中で採集して回り,食事調査をしたという研究紀行文である。この本自体は駆け足すぎるように見えるが,きっともっと詳しい個別事例が論文あるいは報告書になっているのではないかと思われる。これってすごい栄養学研究だよなあ。PubMedでYamori Yを引いてみなければ。
研究室に着いてメールを開くと,ProNASのTOCが届いていた。今回も結構面白そうな論文があり,pdfをプリントしてしまった。何度も書いたような気がするが,人類生態学に絡んだ研究の進展を全部カバーしようとしたら,読むだけで時間がなくなってしまい,自分の研究ができなくなってしまう。大抵の論文はabstractを読むだけになるのだが,後で探すときの便宜を考えてpdfをプリントしているのだ。紙資源の無駄なような気もするが,現在のところ,両面印刷を妥協点にしている。
WEBページへのアクセスログを参照する主な目的は,(1)新たなリンクが張られていないかをチェックする(張られていたら,もちろんそこへコメントを見に行くのだ),(2)妙なアタックがないかをチェックする,の2つなのだが,少なくとも後者はサーバ管理者の義務であるように思う。その際,全体の半分以上を占める検索エンジンのロボットのアクセスが見えてしまうと鬱陶しいので,最近いい方法を思いついた。grepでフィルターを掛けてしまうのだ。例えば,tail -2000 /var/log/httpd-access.log | grep -v netfilter | grep -v moget | grep -v InfoSeek | grep -v Lycos | w3mとやれば,大部分のロボットのアクセスは見ないで済む。もっともロボットに偽装したアタックがあったら困るが,今のところそういうものがあるという情報は流れていないのでいいだろう。ちなみにw3mはVT100端末互換モードでのテキストブラウザとして実に有用である。
採点は1つ終わり,手紙は書き終えたが,やはりデスクワーク完了というわけにはいかなかった。雨のため外出もできなかったが,まあ仕方あるまい。帰りは終電一本前。雨のせいか水曜日のせいか知らないが空いていて,上野駅から座れたので,ProNASからダウンロードした論文の一つである,Yamazaki, K. et al. (2000) Parent-progeny recognition as a function of MHC odortype identity. Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 97: 10500-10502.を読んでいる。マウスは,自分とMHC(Major Histocompatibility Complex;主要組織適合性抗原群)の型が異なるマウスとペア形成しがちで,それがフェロモンによるということは以前から示唆されてきたが,この論文では,そのフェロモンが胎生9日目から発現していて,親子の認知に効いていることが示されている。マウスの新生仔は,自分とMHCの型が同じ母マウスの臭いを選び,母マウスは自分の産んだ新生仔を選ぶ傾向があるというのである。MHCの一塩基置換でも認識するということだから,かなり鋭敏といえると思う。最近,フェロモン研究は実にホットなテーマで,Nature Genetics最新号に載った論文によれば,ヒトにもフェロモン受容体をコードする遺伝子が残っていて,鼻の粘膜,肺,脳で発現するという話だ。マクリントックが他人の月経周期に影響するフェロモンの存在を示してから2年間経つが,いよいよヒトの行動への分子レベルの影響を考えなくてはいけない時代になってきたのかもしれない。