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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『脳と生殖[GnRH神経系の進化と適応]』

書名出版社
脳と生殖[GnRH神経系の進化と適応]学会出版センター
著者出版年
市川眞澄,岡 良隆,小林牧人,武内ゆかり,束村博子,西原真杉,朴 民根,前多敬一郎,村上志津子,森 裕司1998



Apr 09 (fri), 1999, 17:45

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

これは凄い本である。本体5243円+税と,決して安い本ではないが,それだけの価値はあると思う。

GnRHとは,ゴナドトロピン放出ホルモンの略語であり,間脳の視床下部から分泌される神経ペプチドである。1971年にヒツジとブタから発見されたが,哺乳類のみならず,現在では原索動物のホヤにもあることがわかっている。長い進化の過程で保存されているということは,それだけ生存に重要だということである。生体内においてさまざまな役割を果たしているのだが,これまで日本語でまとまって書かれた本はなかったように思う。著者グループは1990年から活動しているGnRH研究会の中心メンバーであり,かなり新しい知見までおさえてあり,仮説まで踏み込んで書かれた良質な科学書である。文献リストも充実しており,役に立つ。もちろん進展著しい分野であるがゆえ,1999年現在の知見からすると不足の点もあるが,それは仕方ないことであろう。参考のため目次を転記しておく。

I GnRH序論
II GnRHニューロンの神経生物学
1.GnRHニューロンの個体発生
2.GnRHニューロンの回路形成と可塑性
3.GnRHニューロンの形態学的・電気生理学的特徴
III GnRHと受容体の比較生物学
1.脊椎動物におけるGnRH分子の多様性
2.GnRH受容体の分子構造と発現の多様性
IV GnRHニューロンと生殖生物学
1.生殖の神経内分泌調節
2.脳のGnRHと性行動
3.環境因子と生殖機能──GnRHパルスジェネレーター活動の修飾

最後に総索引がついているのもこの手の本では重要である。ただ,もしこれがただの索引でなく,簡単な説明のついたGlossaryとしても機能するようになっていたら一般読者にもとっつきやすくなるのではないかと感じた。まあ,一般書ではないからいいのかもしれないが。

個人的にとくに大きな関心をもって読んだのはIV部である。IV-1を読んでからIV-3を読むと,著者が違うから仕方ないにしても,IV-3でオピオイドニューロンに触れられていないことや,NPYニューロンの作用に触れていないこと,レプチンの作用についてあまりに短くしか触れていないことにやや不満を感じる。著者によっていつまでの論文をreferするかという態度に違いがあるということだろうか。なお,これらを総合的にレプチンを軸として論じた,最近のBiology of Reproduction誌にいくつか出ているレビューは良く書かれていたが,基礎知識としてIV-1を読んでおいたことはとても役に立った。


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