最終更新:2019年2月13日(水)
書名 | 出版社 |
エイズ犯罪・血友病患者の悲劇 | 中公文庫 |
著者 | 出版年 |
櫻井よしこ | 1998 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
本書は,1994年に出版され,大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した取材報告が文庫に入って,「文庫版によせて」という追記と,広河隆一さんによる解説が追加されたものである。
日本の医療が構造的に抱える問題点を端的にあぶり出した「薬害エイズ」事件の発生経緯とそれにかかわった人々の声を鮮明に描き出している,優れた取材報告である。それと同時に,エイズで死んでいった血友病患者たちの生の声とそこに至る状況を描き出すことで,これがどんなに酷い悲劇だったか,また人間の心はどれほど美しくも醜くもなれるのかを感じ取ることができる。多少,読みの甘さを感じるところもあるが,これだけの取材をすることは大変だっただろうと思うし,その結果をこうして1冊の本に読みやすい文章でまとめ,優れた資料を作ってくれたという点で,櫻井さんに感謝したい。間違いなく,一流のジャーナリストである。
なお,日本の医療の問題点に関しては,「日本の」問題にも「医療の」問題にもそのうちに(下のWEBページなどで)コメントしなくてはならないのだが,穴のないような記述をしなくてはならないと思うので,しばらく時間をいただきたい。
この本を読んだ当時,すっかり騙されてこのような書評を書いてしまったが,櫻井氏の書いていることが真実だと鵜呑みにしすぎた,あまりにも素朴に過ぎる読みだったことを,いま痛烈に反省している。
本書で批判されている郡司先生が,自らの死を意識して書き遺した『安全という幻想:エイズ騒動から学ぶ』(鵯記での言及:9月29日購入,10月25日言及,11月1日読了)を読むと,本書の記述はまるで違った意味をもってくる。これは,ジャーナリズムが思い込みとバッシングに走ると如何に個人に対して傲慢で強権的な状況を(しかも自らは安全地帯にいて)もたらすことができるのかという,強烈な事例である。郡司先生の本の記述は,裁判資料や後から見つかった録音,血液製剤からHIV/AIDSに感染した血友病患者ができるだけ広く補償を受けられるようにするために沈黙を守ってきたという郡司先生ご本人しか知らなかった事実など,具体的な証拠に基づいて書かれているので,ぼくは『安全という幻想』の記述の方が信憑性は高いと思うし,日本の医療に対して提言されている内容も,より現実を踏まえたものになっていると思う。
最近の櫻井氏はいろいろと奇妙な言動が目立つなあと思っていたが,実はこの本を書いた時点でさえ,まったく一流のジャーナリストなどではなかったのだった。当時のぼくの目は節穴だった。
本当は上の書評ごと消してしまいたいところだが,反省と謝罪のため残しておく。