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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『人類の子供たち The Children of Men』

書名出版社
人類の子供たち The Children of Menハヤカワ文庫
著者出版年
P.D. James (青木久惠[訳])1999



Jul 15 (thu), 1999, 19:33

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

原書の出版は1992年である。表紙カバーに,First Published 1993 in Japan by HAYAKAWA PUBLISHING INC.と書いてあったが,これは日本でも英語版が売られていたということだろうか。

ともあれ,本書はミステリ作家として有名なP.D. Jamesが書いた,近未来ディストピア小説である。奇しくも先日読んだ大石圭と同じく,もしも世界中で子どもが生まれなくなったら? というテーマで書かれている。問題解決を目指して真っ向から戦う人が描かれない点は同じだが,ではまったく希望を失った人が描かれるのか,というとそうでもない。しかも,中盤以降の展開は,大石圭とはまったく反対といってよい。1992年といえば,いわゆるスカケベック論文が出て,世界中で精子数減少が話題になった年であるから,著者がそれをヒントに物語を構築したであろうことは,十分に考えられる。

キリスト教がバックボーンにある世界を描いているせいか,時折登場人物の考え方が腑に落ちないことがあるし,いまひとつテーマがはっきりしないのだが,著者の想像力はなかなかのものである。


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