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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『インド放浪記 インドの風に吹かれよう』

書名出版社
インド放浪記 インドの風に吹かれよう自費出版(全国の大学生協に置かれているらしい)
著者出版年
谷口太聖1998



Jul 28 (wed), 1999, 10:45

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

東大生協の書籍部をふらふらしていたら目に留まった。黄色い表紙の,280円の本である。お世辞にも印刷などきれいとはいえない。が,粗削りな迫力がある。また,手書き文字が入ることによって,例えば117ページの宇宙語のようなことが可能になるのは衝撃であった。著者は慶應義塾大学数理科学科の学生である。

内容的には40日間のインド一人旅をネタにした紀行文的エッセイが約半分,残りが,「種々の旅」と題した国内旅行記と,「キミの横顔」「雨の日の訪問者」と題した思いつきノート,「キミの横顔(谷口太聖1stアルバム)」「20年間のしるし(谷口太聖2ndアルバム)」と題した歌詞集と,3つのあとがきからなる。インド一人旅で彼が考えたことは,藤原新也さんの「インド放浪」などあまたの先人のインド紀行文に比べると,別に特異な点があるものではない。むしろ,考え方の立脚点が固定しているような印象を受ける。さまざまなインドの今日的事実と,その表現に織り込まれているユーモア感覚は優れていると思うのだが,何か読み終えてから不満が残るのである。この不満は何なのだろうか? 考えてみると,どうも著者がインドへの愛を語ることに逡巡しているところにあるようだ。著者は,時速100キロ以上でクラクションを鳴らしながら疾走するバスに乗って肝を冷やし,高いチェスの駒を売りつけられ,アメーバ赤痢で苦しみ,とインドの苦しみを描くことには熱心である。じゃあインドが嫌いなのか,というと,どうもそうではないようだ。結局は死体を焼いた灰やら排泄物やらが流れているガンジス川に,インド人とともに頭まで浸ってしまい,あまつさえ気持ちよいとさえ感じてしまうのである。このときの著者自身の気持ちを自問し,掘り下げてくれたら,本書はもっと深いモノになったのではないか。あとがきに全国に恥をばらまく云々とあるが,ある意味では,本書の内容では「恥」にはなっていない。性愛以外の愛を語ることに照れてはいけない。

本書で凄いと思ったのは,「種々の旅」内の「ロケットはゆっくり飛んだ」である。著者は高校一年の時に,種子島でのH2ロケット打ち上げを見るために,衝動的に名古屋から種子島まで行ってしまったのである。もちろん授業などはさぼっていったのであろう。その行動力には脱帽する。高校1年のときの自分はといえば,せいぜいママチャリを転がして東京から吉見百穴まで行く程度,電車でも関東地方をうろうろする程度の行動力しかなかった。

思いつきノートには面白いネタもあればつまらないネタもある。玉石混淆である。理学系研究科の三沢計治。さんのWEB日記に視点が似ている。三沢。さんのWEB日記の愛読者なら,是非買って読むべきである。歌詞集は,若さを感じる作品が多い中,117ページの宇宙語は出色である。どういうふうに歌っているのだろう?


Nov 10 (wed), 1999, 18:17

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

著者のWEBサイトを見つけた。<http://www.hc.keio.ac.jp/~fr971417/>である。著者にメールを出すと,この本は無料でくださるそうだ。
らしいや。


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