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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『熱帯雨林』

書名出版社
熱帯雨林岩波新書
著者出版年
湯本貴和1999



Aug 10 (tue), 1999, 17:55

中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website

マレーシアやアフリカの熱帯雨林で林冠の研究を精力的に行っている著者ならではの,熱帯雨林生態学の入門書。他の章の生々しさに比べ,歴史的な成立を説明する第2章はやや面白みに欠けるのが唯一の欠点か。

tree towerやwalkwayの迫力溢れる写真に圧倒されながら第1章を開くと,林冠の研究手法が臨場感たっぷりに語られる。ともかく木登りの大切さがよくわかる。こういう,研究者の生の声が語られている本は貴重と思う。第3章で3次元構造の重要性,第4章で森林生態系を支える種多様性ということが具体例とともに語られ,第5章にかけて,なぜ熱帯雨林は種多様性が高いのか,という謎を説明するための仮説が紹介される。第6章が本書のメインテーマと思われるが,マレーシアのフタバガキ林などで一斉開花がなぜ起こるのかという謎が提示され,それを説明する仮説がいくつか紹介された後,現時点で得られているデータからはどの仮説がもっともらしいか,というテンポラルな結論に至る。第7章は熱帯雨林と人間について,環境問題についての章である。6章までのピュアな生態学指向からやや離れて,プラクティカルな論調である。これら全体を通じて,著者湯本さんの熱帯雨林への愛が伝わってくる文章であり,好感がもてた。

ちなみに第7章で紹介されている,生態系のトップダウン効果であるが,つい先日のNatureに載った,南カリフォルニアのコヨーテを頂点とする生態系は,陸上生態系における例として該当するのではなかろうか。


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