最終更新：2019年2月13日（水）
| 書名 | 出版社 |
| ベクター -媒介- | ハヤカワ文庫 |
| 著者 | 出版年 |
| ロビン・クック[著]，林克己[訳] | 2000年 |
中澤 <k1-1.humeco.m.u-tokyo.ac.jp> website
おなじみジャックとローリーの監察医コンビが活躍するシリーズもの。本作品では，森博嗣の犀川助教授シリーズみたいなラブコメが（あそこまでひどくないが）入っているけれど，あくまで本質はハードボイルド監察医ジャックが医学絡みで悪事を企む奴らに対して，ローリーたち監察医務院仲間や，ストリートバスケ仲間の協力を得ながら，体を張って戦いを挑み，やっつけるという，勧善懲悪ストーリーである。
今回の悪役は，テロを企むスキンヘッド集団と，彼らに炭疽菌とボツリヌス菌を生物兵器として提供しようとする旧ソ連出身の不遇なタクシー運転手である。著者のあとがきによると本書は，生物兵器のおそろしさを伝えようという趣旨らしいので，それには成功していると思う。話のテンポが良いのでそこそこ面白く，一気に読める。ただ，例によって悪役が今ひとつ頭が悪いので（きっとクックには，頭が悪いから悪事を働くのだという信念があるのだろう），もっとサスペンスを盛り上げられたネタであるにもかかわらず中途半端に終わっているようにも感じる。
巻末のこれまでに訳出された作品リスト（訳者による）を立ち読みすると，これからどれを買おうかというクック初心者にはいいかもしれない。なお，本書の訳文は会話文も含め，こなれていて読みやすかった。