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書評

最終更新:2019年2月13日(水)


旧書評掲示板保存ファイル/書評:『洗たくの科学』

書名出版社
洗たくの科学裳華房
著者出版年
花王生活科学研究所1989年



May 01 (tue), 2001, 21:11

りりぃ <d2e09116.tcat.ne.jp> website

ポピュラーサイエンスというシリーズで200頁足らずの本である。何か洗濯について基本的なことが学べるだろうかと読んでみた。合成洗剤メーカーが書いた本というのもたまには読んでみたくなったので。


確かに合成洗剤発売以来のメーカーの努力の跡が読みとれる。洗剤の量を如何に減らしていったか、助剤としてどのようなものを配合すればより良い、より満足感のある洗濯が実現するかを追求していった過程も読みとれる。それらを説明した上で、後半はユーザへの製品の使用方法、ベストな洗濯の仕方の教育とか説明と言った類になっている。でもどうだろう?肝心なことがすとんと抜けている感が否めない。だって、p.112<そのほか、催奇形性や発がん性などの特殊毒性もないことが多くの試験の結果から明らかになっています。>こうだけ言われてデータも何も文面には示されていないで、これを鵜呑みにする人が果たしているだろうか?その前の下りには、<欧米諸国の中には台所用洗剤で食器を洗ったあと、すすぎをしないでふき取るだけの人も多くいるそうです。日本では考えられないことですが、こんな使い方をしても大丈夫だということなのでしょう。>私は、少なくともそんな人は米国で見たことはないが、何年も滞在すれば見れたのだろうか?随分昔にヨーロッパ以外の国でまるでぼろ切れのような布で皿を拭いていた人は見たことがあるが、あの人達も濯いではいた。


更に不思議なのは、p.110~111では、お決まりの半数致死量が登場して、市販洗剤の安全性の解説が始まる。体重50kgの人に換算すると300g~500gを食べると半分くらいの人が死んでしまうかもしれないということが予測されるそうである。もっと食べても死なない人もいるのだろう。逆に半数致死量に達する前に死んでしまう人もいるだろう、とも読みとるべきだ。解説は続く、<こんなにたくさんの量を食べることは現実に難しいことです。しかも、1/10くらいの少量でも食べると吐いてしまうという性質(催吐性)がありますので、ますます現実には食べることは困難です。>市販洗剤の半数致死量は食塩、アルコールなどと同じで「実際無毒性」に分類されるそうな。ふ~ん、何か矛盾しているのですよね、「吐く」っていうのは、生体が受け付けないってことなんじゃないかなぁ。しかも、食べ物では無いものを、食べ物の如く安全と言わなければならない理由もないと思う。本当にメーカーが安全性を謳うなら堂々と実験データを開示すればいいと思う。食品でも飲み物でもないし、現実に食べられないものを、何百グラムまでどうのこうのと説明する必要はないのでは?食器を洗ったら充分濯ぐことと教えればいい。どんなに良い物だって使い方を間違えれば害を及ぼすことだってあるのだから。ユーザに対して真の信頼関係を築きたいのなら、負の情報もきちんと説明すべきだと思う。その上でより安全かつ適切な使い方をメーカーと消費者で模索すればいいじゃないか。そんなに伝えられない、隠しておきたいことなのか?と、現実で起きていることに説明がつかないことが多すぎてこれでは不安を買うばかりだ。ただ、この本が出されてもう13年が経とうとしている。消費者教育の方もこの本よりは現実的な方向に向かおうとしているのではないだろうか?多くの人に気付かれ出してもはや隠し切れない部分がありすぎる。



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