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個別鵯記

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目次

【第1851回】 日本人口学会1日目は健康寿命の企画セッションと理事会・総会とシンポジウムと懇親会(2018年6月2日)

6:30起床。3本の電車を乗り継いで浦安へ。浦安駅からバスで明海大学へ。9:00頃到着し,企画セッションの演者と挨拶。

企画セッション(2)「健康寿命についての包括的討論」

企画セッション(2)「健康寿命についての包括的討論」はそこそこ盛況で,タイトル通り多角的に(幸福度の話とかまで)いろいろな議論ができて良かった。欲を言えば,もう少し多くの自治体関係者の参加があって,現場の方々はどのようなものを求めているのかを言っていただけると良かったが。

大雑把にいえば,「健康」の意味を問い直す必要があることと,いろいろなデータといろいろな計算方法に基づく健康寿命は(意味するところはそれぞれ違うが)それぞれ意義があるので今後も並立していくので良い,という辺りが議論の着地点になったので,終了時間が近づいた頃に思いつきだが組織者・座長権限で,「主観的健康寿命」とか「自立健康寿命」とか「無障碍健康寿命」とか,それぞれ違う名前を付けたらいいのではないか? と言い放って閉会にしてしまったが,別の閉じ方もあったかもしれない。

昼休み,理事会,総会など

昼は弁当を食べながら理事会,その後は総会があり,広報委員長の継続が確定してしまった。会員なら誰でもウェブサイトのメンテ作業に参加したいという方がいれば大歓迎するので,是非お申し出いただきたいと思う。

優秀論文賞,普及奨励賞,学会特別賞の表彰式と受賞講演では,大塚さんが特別賞を受賞され,東大人類と人類生態の話をされたのが感慨深かった。

シンポジウム「生きることと幸せ」

これからシンポジウム「生きることと幸せ」が始まる。

『進化から見た「生」と「死」の役割』
●最初の演者は社人研の大泉さん。数理人口学者で,発表タイトルは『進化から見た「生」と「死」の役割』。遺伝子は進化論でどう扱われているか。ドーキンスの『利己的な遺伝子』がこの40年間ベストセラーになっている。生物の基本の1つとして言えるのは,一生を終えても消えないもの,が遺伝子ということ。現存している人は,それまで失敗しなかった遺伝の産物。もし25歳で次世代を産むことが続いてきたとすると,祖先を辿っていくと750年前には11億人いたことになってしまう。しかし共通祖先がいる(祖先にオーバーラップがある)ため,そうはならない。ミトコンドリアイブ。共通祖先は人種の壁どころか種の壁も越える。ダーウィンの進化論。ヘッケルの反復説。共通祖先をもつ人々がもつ遺伝形質を遺伝子プールとみることができる。その意味で,ドーキンスは「個体は遺伝子の乗り物」と言った。生物の中には繁殖と共に死を迎えるものが珍しくない。1回繁殖生物と多回繁殖生物の違い,r/K戦略,ESS等々,よく知られている話(講義でも喋っている)で,進化から見ると,生とは自分たちの遺伝子を次世代に運ぶ乗り物であり,そこでの幸福とは我々の遺伝子にとっての幸福であり,遺伝子の存続にとって有利であることを意味する,ことと,死とは,次世代に自らの遺伝子を有利に残すための副産物であったり,場合によっては遺伝子の継承に不適格なものを排除するメカニズムに過ぎないのかもしれない,という,想定の範囲内の着地点であった。
▼これは,しかし遺伝子の「幸福」ってのはレトリックに過ぎないし,そもそも,ドーキンスの話自体,進化において継承されていく主体を個体から遺伝子にずらすといろいろな現象がうまく説明できるという,ある意味レトリックだから,普通にいう「幸福」とは絡まないよなあ。
『「生きること」の生物学的な意味と「幸せ」の感じ方:生活不満足度のライフ・ヒストリー』
●2人目は影山さん。生きることを進化的に考えると「適応」概念は外せない。キリンの首が適者生存の例。さまざまな「適応に即した性質」ヒトの行動動機は適応など考えていないが,無関係ではない。ただし過去の環境。経済学では効用の最大化ということがよく言われるが,それは幸せになりたいということ。幸せを求める行動は適応的か? 既存の幸福度研究の結果から考えると,所得向上,社会的地位向上,教育レベル上昇,健康,結婚などは幸福度と正の相関あり。孫をもつことははっきりしていない(研究が少ない)。子供をもつことは幸福度と負の相関があるという研究もある。年齢によって適応行動は異なる。孫をもてと子供に要求するとか。生命価値(value of life,Kageyama and Kuhn 2018):ある年齢でそれ以降どれだけ繁殖に貢献できるかを表した値,と定義すると,それは年齢依存。生命価値が高い時期は大事な時期なので,死亡率が低い。それが再生産年齢の死亡率が低い理由と考えることができる。"Ache life history"に載っている狩猟採集民の死亡率から年齢と生命価値の関係を計算する。年齢別死亡率はバスタブ型になっている。死亡率が低く生命価値が高いのは20〜50歳。暴力も大きな死因。20〜50歳に何をすべきか? この時期に適応に即した行動をとらない機会費用が大きいので,適応行動を促す動機が大きくなるはず。適応行動に沿っていない際の不満が大きくなる? これまでの幸福研究では,他の要因が一定なら幸福度や満足度の底になる年齢は40歳前後なのはそのせい? 幸福度や人生満足度は本当にU字型か検証してみた。データはBHPS(UKのパネルデータで,入手が容易=メールで依頼しネットで入手できる=で期間が長い)。7件法のリッカート尺度で生活満足度を尋ねている。Waves 6-10と12-18。オブザーベーションは153,905。固定効果OLSモデルで解析。年齢区分を16-20, 21-40, 41-60, 61歳以上に区分。子供を産むだけではなく成熟するまで育てることを含めてreproductionと考えた年齢区分。5歳階級の分析もした。社会経済因子はは共変量としてコントロール。reproductive ages(21-40と41-60)で所得を得ることの満足度への効果が正で有意。5歳階級でみても同様の傾向。結婚の満足度への効果も前期reproductive ageで最大。年齢自体の効果は61歳以上で大きくなる(不満が浅くなる)。子供をもつと幸福度が下がる理由は金銭的な負担(Kageyama and Matsuura 2018)。それに加えて,子育てのためにもっと頑張る必要が生じるから?
▼うーむ,これってOLSでいいのかなあ。サンプルサイズが大きいからp値は小さくなるだろうけれども。生命価値というワーディングも引っかかるなあ。最後の話も全体の傾向ではなく,子供が産まれたことで幸福度が上がった人と下がった人を分けて考えた方が良いのではないかなあ。社会サービスや地位とかサポートによって違いそうだし,7件法の尺度の増減だけであれこれ言っていいのかなあ。ちょっと暴論だと思うが,それで論文通るのだなあ。狩猟採集民も多様だからAcheを代表と考えていいのか疑問だし。公開シンポジウムで人口学がここまで荒っぽい学問だと思われてしまうとちょっと困るかも。
ここでいったん休憩。
『日本の有配偶女性の幸福度格差―専業主婦 vs 働く妻、学歴上方婚の妻 vs 学歴下方婚の妻―』
●3人目は拓殖大学の佐藤さん。結婚している女性の「幸せ」に格差があるのではないかという話。専業主婦VS働く妻,夫より学歴が高い妻VS夫より学歴が低い妻。人は古来パートナーを見つけて家庭を築くことによりさまざまなリスクに対処してきた。経済面だけでなく生活面でもベネフィットがあることがわかってきた。「幸せ」は低下傾向にある。働く妻が増加。OECD諸国ではたいてい女性の方が男性より大学進学率が高い。男女の進学率の差の年次変化をみると,大きく縮小した。2016年には数パーセント。そこで夫より学歴が高い妻(学歴下方婚)が増加。かつては学歴上方婚が多かったが,最近は学歴下方婚が増えた。そこで幸福度を比較。データは消費生活に関するパネル調査(JPSC)。1993-2014年。幸福度は「あなたは幸せだと思っていますか。それとも不幸だと思っていますが」で質問し5段階リッカート尺度で回答。非常に単純な質問だが,安定性,有効性,一貫性,多国間比較可能性にほぼ問題ないことがわかっている。幸福度の平均値の比較をした。固定効果OLSやランダム効果OLSを使っても結果は変わらない。働く妻の方が不幸。家事育児時間の男女比を見ると専業主婦は十数倍だが働く妻も7倍。子供がいない方が子供がいるより幸福度の平均値が高くなっている。第1子出産後幸福度が低下した人ほど第2子を産まないことがわかっている。日本だけではなくドイツの研究でも同様な結果が出ている。家事育児負担軽減が幸福度上昇,ひいては出生率上昇につながると考えられる。世代間の幸福度の違いは,世代間の女性就業率の違いを反映しているという仮説。バブル崩壊前後の学卒の有配偶女性の比較。相対的に幸福度が高い層である子供なし働く妻が大きく増加。Blinder-Oaxaca分解すると子供なし働く妻の増加は幸福度増加に寄与していたことがわかった。学歴下方婚,学歴同類婚,学歴上方婚の変化をみると,学歴下方婚が増えてきている。そこでは,妻専門・短大卒=夫高卒の比率が最も大きい。大卒の妻の比率は実は低い。学歴グループ別就業状態をみると,下方婚の妻の方が就業率が高い。正規雇用比率も高いが,そんなに大きな差ではない。妻が正規雇用でバリバリ働いているわけではない。Beckerのいう夫婦間分業メリットを十分に生かせていない可能性がある。下方婚の妻の所得は少しだけ高いが夫の所得がきわめて低いため,下方婚の世帯所得は低い。幸福度も低い。
▼それ下方婚云々ではなくて,世帯所得が低いことが幸福度が低い原因なのでは? タイポロジーとして不適格じゃないかなあ。子供がいると平均値が低いという話だったが子供がいても幸福度が高い人と低い人がいるだろうから,それを分けて何が違うのかという向きの分析はしていないのか? と質問したら,していないとのことであった。加藤彰彦さんの質問は鋭いなあ。子供がいない人は新婚が多いんじゃないかという。子供がいないからではなくて,たんに新婚だから幸せという可能性もある。
『人口史料が語る「生きることと幸せ」?! 〜 究極のパネルデータに見る前近代庶民のライフコース 〜』
●4人目は黒須さん。人口の歴史が語る「生きることと幸せ」。究極のパネルデータにみる前近代庶民のライフコース。18-19世紀農村部日本で,より豊かな農民はより幸せなのか? という問題設定。経済指標(世帯の持高)→幸せ指標(人口行動において規範・理想とされる行動ができる人が幸せと考える=寿命の短い村で長生き,福祉のない社会で結婚し世帯に守られる,子孫繁栄,etc.)福島県中通りの下守屋と仁井田のデータ。究極のパネルデータとして人別改帳(宗門改帳ではない)を用いる。毎年,世帯ごとの本田と新田の石高,世帯住民,人口動態が記録されている。これを速水融先生が開発された「人生の時刻表」で整理すると,各世帯の細かい歴史が眼前に甦る。小説のように一人一人のライフコースがわかって大変面白い。話をわかりやすくするため,石高のトップ20%(16石以上)と底20%(無高)で区分してみると,トップ層が子供数が多い。55歳まで生き延びた人たちがいつ死ぬかをみるとトップ層が長生き。子供や孫の数も石高が高いほど大きい。多変量でイベントヒストリー解析(次の年までに死亡が起こるかどうかをアウトカムとして)をすると持高は死亡への係数が1未満,男性の初婚,再婚は石高が高い層で無高の1.7倍程度。トップ層の女性は結婚しなくても守られている。ユーラシアプロジェクト(MIT PRESSで3冊出ている)で社会経済的地位と世帯内関係がどれくらい人口動態に影響するかを7地域で比較研究。ヨーロッパでもアジアでもどちらも重要ということがわかった。誰が一緒にいるかが重要。social mobilityを考える必要がある。上昇できないと絶家する。結論はまだ出ていない。検討続く。
▼前近代でなくても,少し前の途上国の村でも長老は希少で尊敬されていたからな。子孫繁栄の件は,英国貴族データでは70歳を超えて長生きなほど低出生だったという逆の話があったはずだが(Westendorp, 1998)(世界規模でも2000年に論文が出ている)。たぶん生業のタイプが大きく影響していて,福島の結果が示すのは,農民は家族が多いほど働き手が多くなるので高い石高とfitしているというだけの話ではないのか?

今日は残すところ懇親会のみ。懇親会場で大会企画委員会の顔合わせがあり,幹事になった井上さんという若い方がPCに強いとのことで,来年のタイムテーブル編集は手伝って貰えそうで嬉しい。申し込みページをutf8化して欲しいという要望を受けたが,Perlのスクリプトではどうにもうまく行かなかった過去があるので,いっそこの際php化してしまおうかという気もする。21:20頃までいろいろ飲み食いしながら喋って閉会時刻になったので新浦安まで歩き,京葉線で東京に出てから再び息子のアパートへ。

今日もドラゴンズは大敗したようだ。ガルシア投手がいきなり3点を失い,盒脅平選手のタイムリーツーベースでいったんは追いついたものの,大田泰示選手とレアード選手にホームランを打たれた後,追いつく力はなかった。バファローズに苦戦したドラゴンズが,パリーグ首位を争うファイターズに簡単に勝てるわけはないとわかってはいたが,それにしてもファイターズは強いなあ。

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