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【第1877回】 人類生態学研究会(2018年6月30日)
- 8:15新千歳空港発の飛行機で羽田へ。京急と都営地下鉄を乗り継いで本郷三丁目へ。人類生態の集会室を借りて11:00から12:20頃まで門司さんと研究打ち合わせ。
- コンビニで買った握り飯で昼飯を済ませ,13:00から人類生態学研究会。以下例によって自分のための適当なメモ。
- 最初の演題は日本の女子大学生におけるカドミウム曝露とテロメア長との関連という話。吉永さんの弟子。テロメア概論から。末端複製問題からテロメア長は細胞老化の指標と疑われていること,テロメア短縮は全身的な機能低下の指標と疑われていること。先行研究ではネパール(ティーンエイジャー対象)と米国で尿中カドミウム濃度とテロメア長に有意な(だが散布図からすると怪しい)負の関連があることがわかっている。日本では尿中カドミウムレベルがネパールや米国より4倍くらい高いので,テロメアにも影響出ているのでは? 生活習慣は共変量として調整。都内看護大学女子学生73名を対象として尿,血液資料採取,質問票調査で生活習慣を把握。80%が19歳。喫煙習慣ありは1人だけ。受動喫煙は過半数あり。食品摂取頻度調査も実施した。尿中カドミウム定量はICP-MSで。モリブデン酸化物の干渉を数学的に補整した。先行研究に比べると尿中カドミウム濃度(クレアチニン補整)は1/3程度で低い。理由は米を食べない人が多かったから? 最近の国内流通米のカドミウム濃度が低下しているから? テロメア長は専用キットでDNAを抽出し,リアルタイムPCRで測定。relative T/S ratioを測定。平均±SD=1.34±0.45。19歳以下と20歳以上では有意差無し(80%が19歳なら当然では?)根菜摂取頻度2群間(週3回以下と4回以上)では有意差あり。4回以上食べる群の方が長い。根菜類の抗酸化作用? 重回帰分析実施。従属変数はテロメア長,独立変数は尿中カドミウム濃度と共変量として年齢2群,根菜摂取頻度2群,BMI,受動喫煙2群,飲酒習慣2群,カフェイン摂取量。カドミウム濃度の有意な関連はなかった。■先行研究で見られた有意な(散布図からすると怪しい,とフロアから何人も指摘があったが)関連は交絡によるものだった可能性。しかし本当はカドミウム曝露がテロメア長に影響するとしたら? 他の要因に由来するテロメア長変動が大きいのかもしれない(抗酸化成分,先天的個人間変動,他の化学物質への曝露等)。■尿中カドミウム濃度のバラツキはどうだったんだっけ? 今後はテロメア長に影響する他の因子も含めた多面的評価を実施することと,短縮率を計算するための追跡調査を企画。(→質疑での遠山先生のツッコミが厳しかった。久々にガチな研究の世界におけるencourageを思い出した。それだけ期待されているということだからめげずに頑張って欲しい)
- 2人目はミャンマーにおける妊娠期の重金属曝露が出生アウトカムと新生児の白血球テロメア長に与える影響の発表。既に発表されている。博士論文。環境中重金属のうちAs,Cd, Pbなどは胎盤経由で胎児にも影響すると考えられている。テロメア長を図ることで細胞の生物学的年齢を測るという商用サービスが既にある。先行研究ではAsの影響はいろいろ。CdやPbは短縮を促進する効果,Seは短縮を防ぐ効果があるといわれている。ミャンマーは2000年以降,水の砒素汚染が起こっている。しかし出生前曝露の影響は未知だった。2016年8月から12月まで,ミャンマーの砒素汚染地域にある3つの病院からANCに来た妊婦を対象にしたbirth cohort study。ヘルスセンターでAdvocacy and Training後,質問紙,母のスポット尿,飲料水をまず調べ,産後に出産アウトカムや新生児の白血球のテロメア長等調べた。曝露レベルはICP-MSで測定。飲料水についての情報がある493人のうち,27人の尿サンプル採取(?聞き間違いかも)。質問紙で得たバックグラウンド情報は419人ある。飲料水中重金属濃度のデータがあるのは248人。尿中重金属は,Asはそんなに高くないがCdは日本に次いで高かった。Cdが高いとLBWという関連があった。AsもCdもテロメア長と負の相関があったという結果。Seも測ったが有意な影響は無かった。
- 休憩を挟んで3人目はかつて留学生として中国から来ていた方の発表で,中国農村部でのプライマリケアの質:「mystery patients」からのエビデンスというタイトル。現在の所属は四川大学のSPH,国際保健研究所とのこと。1950-70'sの中国農村部のヘルスケアは"classic socialist"の時代。コミューンベースのCMS確立。裸足の医者がどの村にも。1980-90'sは豊かになったがコミューンはダメになって農村部のヘルスケアは崩壊。保険も無い。2000'sからヘルスケアリフォーム。NCMS開始。が,健康状態の改善に寄与したというエビデンスは無い。2009年以降,ヘルスケアリフォームのニューウェーブ。しかし農村部でのデータは乏しい。現在のプライマリケアの質評価(standardized patient method)。3層のプライマリケア医(郡病院,市街地ヘルスセンター,村の診療所)。2015年6月に施設と医師を調査,その後で他の項目を順次調査。standardized patientsは役割を割り振られた患者のこと(地元の先生とかをリクルートするらしい)。下痢の例と狭心症の例,SPによる質評価。購入薬の質も評価。診察時間は10分弱。下痢で来院した患者に対して訊くべきことを訊いていない例がある。ガイドラインには小児の下痢には抗生物質を与えないようにと書かれているが,39%が与えている。質が低い。その原因は? 知識が無いのかインセンティブが無いのか。Know-Do-Gapがある。オーバートリートメントは問題。
- 4人目は民間シンクタンクに就職した卒業生で,演題は「フィールドワーカーの視点をもって働こうとしてきた四半世紀」。NRI(100個くらいのプロジェクト)→JMARI(認知症ケア対象)→大正製薬で仕事中。2005年-2014年まで東大で医療人材開発,その後埼玉県立大でも仕事。(1)セルフメディケーション税制(複雑な制度)。医療費控除の一部。市販薬(1700品目くらい,税控除対象として指定されている2割くらいの医薬品)をたくさん買うと税控除を受けられる。多様なステークホルダーが関係。国会議員は最後は応援団のようになってくれた。生活者を対象にした調査から適用下限とか考えて去年制度成立,5年間施行。今年の3月の確定申告で初めての申告。医療費控除749万人のうち税制利用は2.6万人。7万人サンプルで得た結果からすると,4000円くらい還付を受けている。(■この話,かかりつけ薬局との関係は? 後で訊いたら,直接は関係ないそうだ。下手にやると利害対立しそうだし,連携取った方が絶対に良いと思うが)(2)都道府県のよりよい地域医療計画のために(大学での話)。地域医療構想→地域医療計画。その側方支援。東大の医療人材育成の講座で実施。2014年6次計画の分析→7次計画の課題抽出と民間ガイドライン(RH-PAC)策定→フォローアップ。シンポジウムなどでフィードバック。今年3月までに出揃って4月から動いている。今年からは市町村レベルでも策定(■あれ? 医療法には市町村レベルの計画はなかったと思ったが。むしろ地域包括ケア関連なのか? 国保の広域化の影響は? という質問が学さんから出たが今後検討するという話。後で本人に訊いたら確かに医療法にはないので市町村が自主策定しているのだとのこと)。凄い霞ヶ関パワポみたいな発表。模擬タウンミーティングでPIのアリバイづくりで無く,救急に対して本気で意見を出して貰った。今年度K市地域医療計画策定した。今後PDCAでアップデート。現場視点を大事にしたいというのが人類生態で学んだこと。
- 5人目は杏林大学の苅田さん。バンコクの粒子状物質による大気汚染の健康影響:2000年前後の調査結果から。チュラロンコン大学の研究者と始めた共同研究。年間平均TSP (Total Suspended Particle)がバンコクは東京やニューヨークよりはずっと高く,ジャカルタと同レベル。メキシコシティなどよりはマシ。既に7本の論文を出した。対照はアユタヤ。PCD自動車排ガス測定局が1時間ごとに測定していて,日データは公表されていて,1時間ごとのデータは貰いに行けば貰える。呼吸器自覚症状調査(自記式ATS-DLD-78のタイ語版を作った。バックトランスレーションもした)で調査。バンコク中心部から外縁部に居住するバンコク市警察官(N=1603)とその妻子。回収は530世帯。呼吸器症状は4つの症状(持続性咳,持続性痰,喘鳴,息切れ)と社会経済因子,生活習慣因子を説明変数として多重ロジスティック回帰で分析。喫煙の影響が大。痰は勤務地も有意に効いている。妻の症状は,咳は居住地が有意に効いている。息切れは年齢も有意に効いていた。警官本人には居住地は効かない。子供は人数があまり取れなかった(男児85,女児84)。呼吸器症状が凄く高いので話題になった。持続性咳が男児14%,女児16%という。バンコクの交通警官78人と一般警官60人とアユタヤの一般警官68人を対象に,質問紙とスパイロメータで調査した結果,スパイロメータは1秒率とV.25に有意差があった。年齢と勤務地がこれらの値に影響していた。(勤務地が呼吸器症状に影響するということは,労災的な視点なのか? とすれば,二酸化窒素とか放射線のように個人曝露レベルをモニタして,それが直接症状と関連しているならば,個人曝露レベルが何によって決まってくるのか調べたらいいのではないか? ……と思って尋ねたら,PMについてそんなデバイスは存在しないのだそうだ)小中学生の呼吸器症状を調べるため,バンコク4地区とアユタヤ1地区の10〜15歳722人を対象にATS-DLD調査票と肺機能検査を実施。関連はあまり明確ではなかった。約10年後,PM2.5が世界規模で問題になっていた。北アフリカ=西南アジア=中国というラインの汚染が酷くてタイは比較的マシ。ただし他国と違って週末でも下がらない。リーマンショック後は低下傾向らしい。近年の交通事情としては,タクシーは1992年にメータ制登場。トゥクトゥクは2002年に新規免許付与停止。バイクタクシーは客はヘルメットを就けて後部座席に載せる。運転手のPM2.5曝露調査をした。タクシーやバスやトゥクトゥクの運転席近くに機材を置いて測定しながらGPSで位置追跡。トゥクトゥクのPM10濃度は他より高かった(■これ,なぜ累積曝露でなく平均曝露しか見ないのだろうか?)。20年後の節目,次の調査を計画中。それとは別に火山灰健康影響に関する4ヶ国国際共同研究をしている。このプロジェクトチームは半数が女性研究者。SCOPUSのデータでは日本は男性研究者の方が1人当たりの論文発表数が少ない。女性は少数精鋭で頑張っている。affirmative actionを希望,という最後の話は,苅田さんがいろいろな学会で力を入れている男女共同参画の話。
- 最後は高坂さん。ボリビアのアイマラ農牧民のswaddlingについて。swaddlingとは赤ん坊をぐるぐる巻きにすること(実はモンゴルとか世界のいろいろなところにある風習で,アイマラ特有ではない)。標高4000メートルくらいの0.6気圧環境に居住しているので高地適応している。バレルドチェスト。女性が大変よく働く社会。ビルムみたいな肩掛け袋にぐるぐる巻きにした乳児を入れて運んでいる。世界いろいろなところで行われている。16:40頃研究会終了。
- 教室の近況などの説明を聞いたあと,同窓会総会が17:00頃終わって,これから懇親会。
- 17:30からイタリアンレストランで1次会,20:00頃から人類生態の集会室で2次会。22:30頃現役の若者を残して解散となったが,例によって昔話も交えつつ真面目に議論が盛り上がる良い会であった。こういう空間ってなかなか無いと思うが,神戸でも作っていけるだろうか。そういう意味では「中澤ゼミ」ではなくやはり研究室名を掲げた方が良く,さりとて国際開発とか環境疫学という名称は意味が狭すぎるので,やはり神戸でも人類生態という名前を掲げていきたい。英語名は勝手にLaboratory of Sustainable Development and Human Ecologyと名乗っているのだけれども。
- 今日のドラゴンズは負けだったらしい。ガルシア投手が乱調で,打線も2安打に抑えられては勝てない。救いは高橋周平選手が左投手から打ったタイムリーヒットくらいか。夜は息子のアパートに泊めて貰う。アルゼンチンとフランスの試合は,2点リードしてから若干フランスの攻撃が雑になったように見えたが,そこに至るまでの怒濤の3得点のスピードと精度は凄かった。
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