Latest update on 2021年7月4日 (日) at 18:43:39.
【第466回】 散歩(2020年8月2日)
- 6:20起床。78.85 kgという値を叩き出してしまった。今日こそは遠距離散歩に行かないと。
- 柏野さんがtweetされていた,稲葉さんによるNPO数学月間の会での講演「SGK200729 感染症の数理モデル」,全部で2時間17分28秒という(途中5分の休憩を挟んでいるが)もので,例によって密度が濃いので,情報量が多い。前半からKermack-McKendrickの1927と1933を読み解いた話で,元々感染力は時間依存の関数としてモデル化されていたとか,初感染時と2回目以降の感染時の感受性の違いを含めた感受性の不均質性を扱っていたとか(最後の方で触れられていたように,covid-19でも想定される再流行モデルに応用できる可能性がある。マラリアもそうだが,感染後免疫がつかない感染症全般に使える。感受性がやや下がった既感染者の間で発症者が回り続けるという意味での常在化が安定解になる可能性や,それに基づいて考察される,その状態では感染阻止ワクチンよりも重症化阻止ワクチンの方が役に立つという話はimpressiveだった),改めて考えると,Kermack-McKendrickって天才だよなあと思った。
- ちなみに,Kermack-McKendrickモデルについて読み解いた結果を,稲葉さんは20年くらい前に英語でも日本語でも論文にしていて,しかも公開されている(稲葉寿(2000)「伝染病流行の数理モデル」や,稲葉寿(2002)「ケルマック-マッケンドリック伝染病モデルの再検討」や,稲葉寿(2002)「人口と伝染病の数理」応用数理,12: 294-307や,Hisashi Inaba (2001) Kermack and McKendrick Revisited: The Variable Susceptibility Model for Infectious Diseases. Japan Journal of Industrial and Applied Mathematics 18(2): 273-292。もっとも,読んでわかるかどうかというと,かなり数学の素養が無いと難しいと思う。ちなみに,ぼくが卒論を書いていたときに苦労して読んだ「多次元安定人口論の数学的基礎:古典論」という,稲葉さんが人口問題研究に書いた論文は,日本人口学会の第1回学会賞の優秀論文賞を受賞したが,あれもちゃんと理解できた人は多くないと思う)。今回の講演は,数学をやっている人向けになされたもののようで,噛み砕きすぎずに丁寧に説明されていて素晴らしいと思った。子供の臨界免疫化割合の話など美しい定式化でわかりやすく,しかもそれを人口構造と絡めるなど,稲葉さんしか思いつかない視点なのではなかろうか(それが単純な仮定を置いた場合の論理的帰結であって,事実とはたぶん異なるという留保をつける誠実さというか謙虚さが素晴らしい)。ちなみに,Kermack-McKendrick-1933は,Kermack William Ogilvy , McKendrick A. G. and Walker Gilbert Thomas (1933) Contributions to the mathematical theory of epidemics. III. Further studies of the problem of endemicity. Proc. R. Soc. Lond. A, 141: 94-122.であり,確かに全文読めるのだが,さっと見ただけでわかるような論文ではない。
- なお,理論疫学の歴史と将来についてレビューした論文は,Brauer F "Mathematical epidemiology: Past, present, and future"(Infectious Disease Modelling,2017年2月4日)が読みやすいかと思うが,残念なことにKermack-McKendrickについては元論文を独自に読んでいるだけのようで,稲葉さんの解読には触れられていなかった。同じBrauerによるBrauer F et al. "Challenges, Opportunities and Theoretical Epidemiology" Mathematical Models in Epidemiology, 69: 507-531.は,古典的な部分の記述は薄いが,不均質なミキシングとか経済効果のモデル化まで触れられていて,より広い視野でのレビューになっていて参考になった。
- BMJが#properPPEというハッシュタグを付けて,医療関係者に適切にPPEが提供されるべきという事例報告しようキャンペーンをしていた。ぼくは医療現場とは直接関係がないので何も書けないが,臨床でPPE不足に困った経験がある方は参加したら良いと思う。
- PLUS Unison.のLaughterのカバーを聴いてから,この曲,ハモリなしでは物足りなくなってしまった。無理な願いかもしれないが,リトグリ版を聴いてみたい。絶対に感動すると思う。
- Berg MK et al. "Mandated Bacillus Calmette-Guérin (BCG) vaccination predicts flattened curves for the spread of COVID-19."(Science Advances,2020年7月31日)は,Scienceの姉妹誌に出た論文。これまでBCG接種とCovid-19の関連についての地域相関研究で批判されてきたポイントに答えるための統計解析の工夫をしていて,BCG接種が義務化されている国と義務でない国で,確定患者数について135ヶ国,死亡数について134ヶ国について,国ごとのアウトブレイクからそれぞれ最初の30日間のデータから,日ごとの増加率を,線形混合モデルで分析し,年齢の中央値,一人当たりGDP,人口密度,純移動率,さまざまな文化的要因(個人主義の程度とか)の影響を調整した上でも,BCG接種が義務化されている国の方が確定患者数も死亡数も低いことが示されている。限界として,地域相関研究だからRCTが必要だとか,義務接種の国でも増加率には大きなばらつきがあるからBCG接種は魔法の弾丸ではない,と書かれているが,著者はかなり前のめりな感じだ。ただ,BCG接種が導入されたことがない国というのは,衛生観念が十分でないとかインフラ整備が遅れているといったことを含む,さまざまな公衆衛生政策も導入されていない可能性が高いし,社会格差が大きい可能性も高いし,そういったことすべての影響が調整されているわけではない以上,やはり可能性を示唆する,といった程度のものだと思う。
- 昨日Lipsitch教授のグループの研究に触れたが,学校閉鎖関係の論文は最近多数出ていた。米国科学工学医学学会(?)が学校(K-12なので幼小中高のこと)再開のためのガイダンス(2020年7月,メールアドレスを登録すればダウンロードできる)を発表したことと呼応しているかもしれない。2020年7月28日に,Stephenson J "National Academies Offers Guidance on Reopening Schools Amid COVID-19 Pandemic"(JAMA Health Forum)という,このガイダンスの紹介記事が,翌日,EditorialとしてDonohue JM, Miller E "COVID-19 and School Closures",視点としてDibner KA et al. "Reopening K-12 Schools During the COVID-19 Pandemic: A Report From the National Academies of Sciences, Engineering, and Medicine"(ともにJAMA本誌)が出ているが,原著論文としては,Auger KA et al. "Association Between Statewide School Closure and COVID-19 Incidence and Mortality in the US."(JAMA,2020年7月29日)がある。この論文はUSAで3月9日から5月7日の間のデータを使って,小中学校の学校閉鎖がCovid-19の感染と死亡を下げるのに有効だったと論じているが,時系列データを使った地域相関なので,前述のBCGの論文と同じく工夫はされているが限界も大きい。本文にも書かれているが,最大の限界は,学校閉鎖を導入する州では,同時に他のNPIsも導入するのが普通であるため,学校閉鎖の効果だけを厳密に評価するのが困難なこと。これを克服するにはCommunity Intervention Trialという方法があるが,Covid-19に対する学校閉鎖の影響を調べるというテーマだと実行は無理だろう。
- Rubin D "Association of Social Distancing, Population Density, and Temperature With the Instantaneous Reproduction Number of SARS-CoV-2 in Counties Across the United States"(JAMA Network Open,2020年7月23日)は,USAの46州211郡で対人距離,人口密度,気温と,再生産数の関連を調べたという研究。
- 個人ベースシミュレーションを使って,カナダのオンタリオでの学校閉鎖の効果を評価する論文も出ていて,Abdollahi E et al. "Simulating the effect of school closure during COVID-19 outbreaks in Ontario, Canada"(BMC Medicine,2020年7月24日)だが,発症前と発症後の両方でNPIsを組み合わせて実行しないと学校閉鎖には限定的な効果しか無いという結論で,ずっと前に出ていたUKのインペリグループ第9報と質的には同じか。
- 大学の再開についての論文も出ていて,Paltiel AD et al. "Assessment of SARS-CoV-2 Screening Strategies to Permit the Safe Reopening of College Campuses in the United States"(JAMA Network Open,2020年7月31日)という原著論文は,発症に基づいたスクリーニングでは封じ込めには不十分だが,感度70%でも2日おきに安価な迅速検査をして,厳密な行動制約と組み合わせれば,キャンパスに大学生が戻ってもCovid-19流行は抑え込めると論じているようだ。招待コメントも付いていて,Bradley EH et al. "Reopening Colleges During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic—One Size Does Not Fit All"(JAMA Network Open,2020年7月31日)は,検査は重要だとしても,この論文は行動変容やNPIsの効果を過小評価していると指摘している。
- Wolfson JA et al. "Food as a Critical Social Determinant of Health Among Older Adults During the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic"(JAMA Health Forum,2020年7月31日)は,Insights(洞察)というカテゴリの記事で,ざっと目を通した感じだと,USAでは2019年末,Covid-19流行前の段階で50-80歳の14%が食物が確保できないという経験をしていて,Stay-at-homeキャンペーンなどでそれがCovid-19流行によって酷くなった可能性があるのでちゃんと調べるべきと言っているようだ。
- Nguyen LH et al. "Risk of COVID-19 among front-line health-care workers and the general community: a prospective cohort study"(Lancet Public Health,2020年7月31日)も,Dawood FS et al. "Observations of the global epidemiology of COVID-19 from the prepandemic period using web-based surveillance: a cross-sectional analysis"(Lancet Infectious Diseases,2020年7月29日)も面白そうな原著論文なので後で読もう。
- Siemieniuk RAC et al. "Drug treatments for covid-19: living systematic review and network meta-analysis"(BMJ,2020年7月30日)はメタアナリシスで,糖質コルチコイドによる治療が有効だと示しているようだ。Supplementとして,メタアナリシスに使った文献データとRのコード(gemtcというパッケージを使ってネットワークメタアナリシスしている)が提供されている。
- 今日のドラゴンズとスワローズの試合は0-0の引き分け。梅津投手が10回を完封したが,ドラゴンズ打線も軟投派の山中投手を打ち崩せなかった。
- ハーバーランドまで歩いたら,風が気持ち良かった。これまで何度も来たのに,川崎重工のマネキンには今日初めて気づいた。
(list)
▼前【465】(もう8月か(2020年8月1日)
) ▲次【467】(出勤(2020年8月3日)
) ●Top
Notice to cite or link here | [TOP PAGE]