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【第551回】 今日から3日間はグローバルヘルス合同大会(2020年11月1日)
- 7:00起床。77.90 kg。
- 今日から3日間はグローバルヘルス合同大会がオンライン開催される。明日は3限に講義もあるし,名谷キャンパスに出勤して参加するつもりだが,今日は在宅で参加する。登録者にアカウントとパスワードが配布され,タイムテーブルから参加したいセッションをクリックするとZoomウェビナーに繋がるというスタイル。この規模で運営に業者が入ると予算規模は千数百万円という感じらしい。
- 基調講演1から。うーん,NZや台湾に比べたら日本のガバナンスもダメだったので,ダメダメをダメと比べてどうする? という気もする。マスクの違いが決定的だというなら,日本が欧米ほど酷い状況に陥っていないのはガバナンスの差では無く,文化と国民の意識や態度の違いに過ぎないという話なのではなかろうか。10月8日のNEJMのEditorialには触れていたが,それに先立つ7月のLancet Infectious DiseasesのEditorialにも触れて欲しかったところ。良いガバナンスのためにはアカデミアでの議論をオープンにするだけでは不十分で,infodemic対策を積極的にしなくてはいけない,という主張まで触れて欲しかった。実際そうだと思うし。
- 次は4学会の大会長による,合同大会記念フォーラム。セッションごとにいったんウェビナーから退出し,タイムテーブルをクリックして参加し直さなくてはいけないのは,今日の午前中のようなプレナリーな状態だと若干面倒に感じるが,複数同時進行しているときは仕方ないか。フォーラムトップバッターは熱帯医学会の大会長ということで金子明先生だったが,ヴァヌアツのマラリア対策の話なのは意外だった。
- (以下メモ)ラピタ人とともにヴァヌアツに入り込んだマラリアが当時は大きな問題であって,アネイチュム島で対策したMDAと蚊帳配布とその薬剤処理と早期診断・治療,コミュニティベースのサーベイランスシステムを作って,それが今でも維持されているという話など。いったん根絶に成功し,その後時々アウトブレイクがあったり,災害からの避難があったりしたが,高度なcommunity participationがあれば30年以上sustainableという。世界の状況をみると,2004年頃には180万人/年の罹患があったが,最近は50万人/年くらいになっている。ただし2015年頃から増え始めている地域がある。SATREPSに採択されてアフリカで研究しているが,小さな子どもなどハイリスクな年齢層で蚊帳が使われていないという状況がある。30年前と違って蚊帳は溢れているが,魚を干すのに使われていたりして,マラリア対策になっていない。COVID-19パンデミックによって,熱帯アフリカでは直接影響は少ないのだが,ケニアでも受診控えやマラリア検査減が起こっている。その病気の認識と対処行動が重要。
- 次の演者は国際保健医療学会の大会長の中村安秀先生。格差が顕在化するなかで地域の自立を夢みる:国際保健医療学の視点からのCOVID-19,というタイトル。島尾先生の国際保健医療学の定義の紹介から。
- (以下メモ)温故知新・現地に学ぶ等『地域保健の原点を探る:戦後日本の事例から学ぶプライマリヘルスケア』の紹介。9月14日のLancetに,COVID-19によって格差がより広がったという報告がある。環境改善など良い影響もあった。PHCからUHCへという流れの話。Health Volunteerが活躍するPHCは素晴らしいので,PHCの再構築が必要という。今後のちゃんぷーるの必要性。『社会的共通資本としての医療』(2010)にも学際的アプローチの重要性は書かれている。
- 次は渡航医学会大会長の南谷先生。渡航者が激減したことと,その副次的影響の話。渡航医学会は6月と7月にビジネス渡航者のためのPCR検査のガイダンスを発表している。医療通訳のオンライン化など。この報告の中で,ブラジルのCOVID-19の状況をサンタクルスの西国先生がオンライン報告される予定だったが回線が切れてしまったとのことで(後でつながって,ファベーラでは感染者が多いが,ハイソな地区に暮らしていた駐在員などでのCOVID-19感染は知られていないと言われていた),そのスライドも南谷先生が紹介された。死亡者の多くを低所得層が占めているというグラフがあった(「死亡率」ではないと思うが)。ファベーラの住民は医療アクセスが悪い。サンパウロはサッカースタジアムなどに仮設病院を作り,高く評価されている。
- 最後は国際臨床医学会の大会長の中田先生。オリンピックと平和,遠隔医療,インバウンド・アウトバウンドの医療など,学会活動の紹介。Society5.0とかGlobalization3.0とかCPS (Cyber-Physical System)とか,うーん……。まあ,こういうマクロな話が国際臨床医学会のスコープなのだろうか? テニス選手やラグビー選手のウェアラブルセンサーを使った研究の紹介は,スポーツ医学っぽいが。健康・スポーツプロジェクトというものがあるのだそうだ。映像とAIを使ったスポーツ活動中のCOVID-19感染予防プログラムというものも紹介された。もしかしてハマスタのあれもこの学会絡みか? と思ったが,神奈川県の発表を見ると,学術団体は絡んでないようだ。さすがにそうか。
- 最後にグローバルヘルス合同大会2020の大阪宣言というものが発表された。まだ各大会長からの挨拶が載っているページなどには掲載されていないが,そのうちどこかに公開されるのだろう,たぶん。
- 昼休みはランチョンセミナーがあるのだが,とりあえず流しながら昼食(レトルトカレーを電子レンジ加熱し,ご飯に掛けて食べただけだが)にする。武田薬品提供のワクチンの話。日本はhesitancyが多く接種率も低いという,よく知られている話から。インフルエンザワクチンは「凄く良く利くとはいえないワクチン」の筆頭でありながら,今年は接種希望殺到。疫学という切り口でワクチンの有効性を考えてみる。小児インフルエンザワクチンについての厚労省研究班での"Test-negative design"による検討結果。記述疫学や生態学的研究ではエビデンスレベルが低いという話から始めていて鮮やかな導入。次はワクチン有効率の定義が1引くRRであることを丁寧に説明された。次に研究デザイン別のRRの計算の仕方(症例対照研究ではその近似値としてのOR)を,数値例を挙げて丁寧に説明された。疫学入門の講義だな,これは。その後が本題で,ワクチン有効性の研究では,RCTではなく,症例対照研究の一種であるTest-negative designが世界標準になっている理由を説明された。RCTが有効でない理由は,インフルエンザウイルスの株の多さと季節性のせいで,得られる結果が,時・場所・対象集団に特異的なものになってしまうことと,倫理的理由。コホート研究がダメな理由は接種者と非接種者がもれなく等しく追跡されないという理由と追跡だとアウトカムがILIになってしまう限界が挙げられていたが(2000年代初めに6歳未満小児のワクチン有効性は25%という結果が出たがILIで評価したことが批判された),それ以上にself-selection biasがあるよな,当然。Test-negative designは,シーズン中にILIで受診した患者に確定診断をし,陽性,陰性それぞれについて,ワクチンを打ったかどうかを尋ねるという一種の症例対照研究で,現在はこれがインフルエンザワクチンの有効性評価では世界標準になっている。考えてみればそれしかやりようはなさそうだ。現在確定診断の世界標準はrealtime RT-PCRで,厚労省研究班として日本でもそれをやっている。確定診断を実地臨床で使われている迅速診断にしたら,簡単にできそうだが,それだと有効性が過小評価されるし,実地臨床での医師が検査をオーダーするかどうかが症状に影響されるため選択バイアスが生じるという問題が起こるので,実地臨床データをそのまま使うことには問題があり,今日の演者である福島先生が入っている研究班ではRT-PCRでやっている。これまでの結果では,ワクチン株と流行株のマッチが良ければ有効率は50%を超えていたが,最近はマッチしていなくても有効率が70%近いことがあった。なぜそこまで効かないか? について大きな理由は,接種していなくてもある程度既存免疫があることだ(研究している人は何人かいるが,まだ確たる指標がない)というのが福島先生の意見。birth cohort effectは年齢の効果ではなくて出生年次の効果と言うべきだろうと思ったが,大筋とてもわかりやすいセミナーだった。
- WHO西太平洋事務局の葛西先生による基調講演2は,王道というか,COVID-19の疫学情報を追ってきていれば常識になっている話が中心だった。太平洋島嶼国の早期からの入国制限の有効性についてはあまり触れられなかったし,NZや台湾のelimination成功例についても触れられなかった。
- Little Creaturesのライブ,17:00頃やっていた曲の演奏が物凄い。この3人でなくてはできない音楽。
- ドラゴンズは森下投手に完封負けを食らったようだ。0-3。
- 20:00から84SII/III-2組のオンライン同窓会に参加した。フランスやタイ在住の参加者もいて,大変久しぶりに顔を見たが,話し方とか変わってないなあ。
(list)
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