Latest update on 2021年7月4日 (日) at 18:43:39.
- 変異株について
- ■RNAウイルスなので突然変異を起こしやすい。HIVよりは遅い
- ■1つ以上の変異によって感染力や病原性が変わったウイルスをvariant(変異ウイルス,変異株)と呼んでいる
- ■マスメディアでイギリス株とかインド株とか呼ばれているのは,その変異株が最初に報告された国だが,差別や偏見を助長する恐れがあるので望ましくなく,厚生労働省の資料などでは「英国で確認された変異株(VOC-202012/01)」のような書き方がされている。
- ■CDCは変異株を3つのクラスに分けていて,2021年5月7日現在該当する変異株は以下(その後WHOや日本はB.1.617系統もVOCに指定したが,2021年5月21日現在,CDCの分類ではまだVOIのままである)。
- VOI(注目すべき変異株) B.1.526 (20C/S:484K), B.1.526.1 (20C), B.1.525 (20A/S:484K), P.2 (20J), B.1.617 (20A), B.1.617.1 (20A/S:154K), B.1.617.2 (20A/S:478K), B.1.617.3 (20A)
- VOC(懸念される変異株) B.1.1.7 (20I/501Y.V1), P.1 (20J/501Y.V3), B.1.351 (20H/501.V2), B.1.427 (20C/S:452R), B.1.429 (20C/S:452R)
- VOHC(重大な結果をもたらす変異株)まだ該当無し
- ■例えばN501Yはスパイクタンパク上で変異したアミノ酸とその位置なので変異名。各変異株は複数の変異を含むことがある。
- ■変異株名としてはPango lineagesによるB.1.1.7やP.2のような命名とNextstrainによる20Cのような命名があるが,VOC-202012/01のような表記もある(VOC-202012/01とB.1.1.7と20I/501Y.V1は同じもの。いわゆる英国変異株)。501Y.V2(いわゆる南アフリカ変異株)や501Y.V3(いわゆるブラジル変異株)はN501Y変異とE484K変異を含む。B.1.617, B.1.617.1, B.1.617.2, B.1.617.3(いわゆるインド変異株)はL452R変異を含む。
- ■N501Y変異をもつと感染力が強く,E484K変異をもつと中和抗体の有効性が低くなる報告がある。
- 情報源
- (CDC) https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/cases-updates/variant-surveillance/variant-info.html
- (WHO) https://www.who.int/csr/don/31-december-2020-sars-cov2-variants/en/
- (JAMA) 2021年2月9日のViewpoint "Genetic Variants of SARS-CoV-2-What Do They Mean?" https://doi.org/10.1001/jama.2020.27124
- (NEJM) 2020年12月31日のClinical implications of basic research "Emergence of a Highly Fit SARS-CoV-2 Variant" https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMcibr2032888
- (Vaccines) 2021年3月11日の論文 "Emerging SARS-CoV-2 Variants and Impact in Global Vaccination Programs against SARS-CoV-2/COVID-19" https://dx.doi.org/10.3390%2Fvaccines9030243
- (厚生労働省)2021年4月26日付け資料4「新型コロナウイルス感染症(変異株)への対応」 https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000774322.pdf
- ワクチンは出口戦略になるか?
- ■NZや台湾は排除(Elimination)戦略をとり,かなり厳格な水際対策(重要!)をとると同時に,感染者が増え始めた時点でロックダウンなどの強い行動制限と接触追跡,検査,隔離を徹底して新規感染者ゼロが数日続いてから制限解除とすることで,長期間にわたって国内感染ゼロ状態を維持している→その状態なら行動制約不要。ワクチン接種を急ぐ必要もない
- ■ロックダウンを繰り返しても十分に抑え込めず蔓延した欧米諸国では,想定されていた中では最速で有効なワクチンが開発されたことから,ワクチン接種が進んでいる。
- ■国内で接種承認申請されたのは2021年5月8日現在,以下3つ[https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000707431.pdf]。PMDA承認済はファイザーのみ(追記:2021年5月21日にモデルナとアストラゼネカも特例承認された。ただし,アストラゼネカのものは,5月21日現在,薬事承認はされたが予防接種法に基づく接種には使えない)。
- ファイザー: mRNAワクチンで約95%の発症予防効果。おそらくPEGのアレルギーの報告あり(日本アレルギー学会報告,https://www.jsaweb.jp/modules/news_topics/index.php?content_id=546)。長期保存はディープフリーザー要。普通の冷凍だと最長2週間有効,その後冷蔵で解凍なら5日以内に希釈,常温で解凍なら2時間以内に希釈し,6時間以内に使用。2021年2月14日承認。
- モデルナ: mRNAワクチンで約95%の発症予防効果。-20℃冷凍でOK。PEGの問題はありそう。2021年5月21日特例承認。
- アストラゼネカ: ウイルスベクターワクチン。Oxford Univとの共同開発なのでUKでは多用。発症予防効果は70-80%程度。血栓形成しやすいという報告があり,EU諸国で一時使用停止になった。冷蔵で6ヶ月有効なのが利点。2021年5月21日特例承認。
- (厚労省) https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/vaccine_00184.html: 国産ワクチン開発は塩野義製薬,第一三共,アンジェス,KMバイオロジクスなどが取り組んでいるが2021年3月現在,どれも臨床試験中。実用化は2022年以降。
- ■ワクチン接種はイスラエル,英国などでは効果があったがチリでは奏功せず(BBCなどメディアが批判,BMJのNewsは,1回目接種の後対人接触が増えたせいと論じている。
- ■日本のようにワクチン確保が遅れた国や,冷蔵・冷凍運搬システムなどのインフラが未整備な途上国ではどうするか(財力の無い国にも公平に行き渡るようにCOVAXファシリティ[https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000747950.pdf]という仕組みが作られ,日本も多額の出資をしているが,ワクチン確保には明らかに国間で差がある)
- ■ワクチンの効果が落ちるかもしれない変異株(いわゆるブラジル株,インド株など)が出現したが大丈夫か?
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