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【第789回】 歯科で治療してから出勤(2021年7月6日)
- 6:15起床。81.60 kg,97%,36.1℃。
- 旧専門家会議とか沖縄県における高山先生とか,なぜ権限がない人を責めるのか。その発言を切り取って都合が良いときだけ言い訳に使う権力執行者を責めないとお門違いであろう。そうやって見識ある人を追い詰め,見放されてしまうと,結局自分たちが損をするのに。長野県における田中康夫さんもそうだったが。田中さんといえば,今度の横浜市長選に出るというニュースがあった。横浜市民にあの格調高い言葉が届くかどうかだな。
- 歯科で診て貰ったところ,元の歯が割れていてもう使えないので,抜歯するしかないとのこと。傷が塞がったら両側の残っている歯にブリッジを架けるという方針だそうだ。インプラントよりその方が良いのだろうか。
- Woolf SH et al. "Effect of the covid-19 pandemic in 2020 on life expectancy across populations in the USA and other high income countries: simulations of provisional mortality data"(BMJ,2021年6月24日)は,USAと他の高所得国における2020年covid-19パンデミックの平均余命への影響を,予測される死亡率データのシミュレーションに基づいて評価したというタイトル。Lee-Carter法を使った論文かと思ったが,Human Mortality Databaseのトップページの枠内でCOVID-19に対応するために提供されているShort Term Mortality Fluctuation(STMF; 38ヶ国について2000年から2021年途中までの毎週の年齢0-14,15-64,65-74,75-84,85+の死亡率が男女別及び男女計について出ている)のデータを使って,2018年と2020年の年齢群別死亡率比を出して,それを2018年の年齢5歳階級の簡易生命表のmxに掛け,qx=(mx*n)/(1+mx*ax)として2020年のqxを出して平均余命を計算する,という割と単純な方法だった(ただし,推定誤差を考えるため,qxの推定値に10%の誤差があると想定し,5歳階級のqx推定を50000回シミュレーションしているので,計算時間は掛かっていると思われる。計算コードはPythonで書き,Python 3.9.1で実行したとのこと)。もちろんSTMFの中で2019年以降の死亡率はLee-Carter法で推定していると書かれているので,実はLee-Carter法を使っているのだが,そこはHMDに任せているわけだ。USAの他に分析した国は,オーストリア,ベルギー,デンマーク,フィンランド,フランス,イスラエル,オランダ,ニュージーランド,ノルウェー,韓国,ポルトガル,スペイン,スウェーデン,スイス,台湾,UKとなっている。台湾を国として認めていない国も多いが,と断った上で,台湾のデータを分析しているのは,HMDとSTMFに台湾が入っていることと,COVID-19の影響を低く抑えることに成功している国として当然であろう。イスラエルは2016年まで,ニュージーランドは2013年までの簡易生命表しかHMDに入っていないので,2018年のデータは,それぞれの国の統計資料から直接とったそうだ。なお,高所得国だけれども死亡率データが不完全なため,オーストラリア,カナダ,ドイツ,イタリア,日本は分析に入れられなかったと書かれているが,STMFを見ると,今ではオーストラリアとドイツとイタリアも入っていた。彼らが分析をしたときは入っていなかったのだろうか? 日本は週単位の死亡データを公表していないので,この方法を日本について適用しようと思ったら,個票データを目的外利用申請して自分でSTMFに相当するデータを求めなくてはならないが,そこさえクリアすれば後の計算は簡単なので,人口学の修論とかには良いかもしれない。主な結果はVisual Abstractsを見るとわかりやすいと思うが,他の先進国に比べ,USAはCOVID-19による平均寿命への影響が大きく,USA全体では1.87年の短縮だったけれども,ヒスパニックでは3.88年,黒人では3.25年も短縮していたということだ。Editorialがこの論文について,COVID-19がUS社会に内在していた脆弱性を明らかにしたとコメントしているように,この論文のフォーカスはUSAなのだが,他の先進国の推定結果も平均値だけでなくそれぞれ詳しく示して欲しかったところ。たぶんニュージーランドや台湾のようにCOVID-19抑え込みに成功した国と,フランスやUKのように影響が大きかった国では大きな違いがあったのではないかと思われる。
- メールボックスに學士會会報が届いていた。山内一也「ウイルスの存在する意味」は鳥瞰的な視点で書かれ流石であった。荒木仁志「環境DNAに基づく新・生態学の夜明け」は北海道の魚類の生態について環境DNA研究が最近明らかにしたことを列挙していて面白く,文中紹介されていた『環境DNA:生態系の真の姿を読み解く』(共立出版)にも興味が湧いた。電子本があれば間違いなく買ってしまったと思うが,紙媒体しかないようなので迷っている。でもこういう本は紙媒体で手元においておきたい気もする。長澤丘司「なぜ骨髄のみが血液細胞を造れるのか? ―造血幹細胞と造血を支える微小環境(ニッチ)の解明―」は骨髄のCAR細胞が作る微小環境が造血幹細胞が機能して血液細胞が作られるために必須であることがわかってきた経緯を時系列で説明されていて興味深かった。造血のメカニズムについて最近のレビュー論文を探してみたところ,Brown G "Hematopoietic Stem Cells: Nature and Niche Nurture"(Bioengineering,2021年5月15日)が目に付いた。後で読もう。
- どらほー。今日はシーソーゲームの末に大島選手とビシエド選手の連続タイムリーヒットで3-2と勝ち越し,この1点のリードを又吉投手とライデル・マルティネス投手が守り切ってドラゴンズ勝利。まずい守備で2失点(自責点1)だった大野投手は気の毒だったが,前橋では以前の雨の日に大敗した苦い記憶があるので,今日はそれを払拭できて良かった。
- 基本的なことだが,2つほど説明しておく。1つは自然実験である。『わかる公衆衛生学・たのしい公衆衛生学』の感染症疫学の章で詳しく説明したが,John Snowが1854年のロンドンのコレラ大流行時にした分析が有名である。Snowは,1849年のコレラ流行時に,1つの共同井戸を使っていたサリー・ビルの住人12人が感染して亡くなったのに,その井戸の水を使っていない隣の建物ではコレラ死者が出なかったことから,飲料水がコレラの原因であると発表していた。しかし,当時ロンドンの公衆衛生を掌っていたチャドウィックやファーは瘴気説を信奉していたので,サリー・ビルにだけ瘴気がこもっていたとしても説明がつくSnowの事例は飲料水が原因である証拠にはならないとした。ファーは,もし水が原因であるという証拠を示したいなら,住居の標高,生活圏,仕事が同じなのに飲み水だけが異なる2つの集団を比べなくてはいけないが,そんな実験はロンドンではできないと主張した。ところが,1854年のコレラ流行時,これを示すのに絶好の状況がたまたま存在していた。テムズ川南岸に給水していた水道会社のうち,S&V社はテムズ川下流からの取水を続けていたのに,ランベス社は1852年に上流に取水口を移していて,しかも16の教区はこれら両方の会社から複雑な配管を通って給水を受けていて,まさしくファーが仮定した条件が満たされていたのだ。Snowは各戸の水道水の塩分濃度を測ってどちらの水道会社からの給水かを判定し(下流の水の塩分濃度が4倍高かった),給水会社別にコレラ死者数を合計して,S&V社から給水を受けていた人々のコレラ死亡リスクが4093/266516と,ランベス社から給水を受けていた人々の死亡リスク461/173748の5.8倍もあったことを示すことによって,飲み水がコレラの原因であることを証明して見せたのである。これは研究者が条件を設定して行われた実験ではないが,自然に比較したい条件だけが異なっていて他の条件が同じグループができていた状況を捉えて比較することにより,実験と同等の比較可能性をもって研究が実施できたという意味で,典型的な自然実験と言える。COVID-19についても自然実験のアイディアはこれまでにもいくつか指摘されていて,例えばUKではロックダウン後に閉鎖されていた学校が再開する時期の違いが地区別の再流行時期の違いにつながるのではないかというアイディアが提案されていた。同様に,もしこのまま五輪が強行されてしまい,かつ,東京で五輪の学校観戦をする自治体としない自治体が混在していたら,典型的な自然実験となり,それぞれの学校で五輪後の在籍児童生徒数当たりの新規感染者数を比較することで,学校観戦がCOVID-19流行に寄与したかどうかを疫学的に明らかにすることができるので,学校観戦をさせた自治体にはその責任を問うことができるし,一律に学校観戦を取りやめにしなかった都教委の責任も追及することができる。このロジックが理解できたら(子どもでも分かると思うが),少なくとも学校観戦をさせる自治体や教育委員会はなくなると思うが,誰か伝えてくれないだろうか。もちろん,それ以上に,熱中症リスクを考えるだけでも,夏の東京でスポーツ大会をするのは救急医療崩壊のリスクが高いし,それに加えてCOVID-19の新規感染者数も増加中な現在の状況でオリパラを強行したら,必要な医療が受けられなくなる人が多発することは目に見えていて,それでも強行しようというのはテロに近い悪行だと思うが。
- もう1つは,感染症の病原体は変異を重ねると弱毒化するという説が必ずしも正しくないということだ。おそらく,長期的な宿主寄生体共進化の話とEwaldの説の半分が混ざって信じられているものと思う。前者は,エボラウイルス感染症やマールブルグ病,高病原性鳥インフルエンザなどの新興感染症に強毒のものが多いという経験的事実から補強されていると思う。マラリアでも遥か昔からヒトを宿主にしてきた三日熱マラリア原虫よりも,この数千年以内にヒトを宿主とするようになった熱帯熱マラリア原虫や,もっと最近にヒトを宿主とするようになった二日熱マラリア原虫の方が強毒である。しかし,それまでヒトを宿主としていなかった病原体がヒトを宿主とするようにホストスイッチした新興感染症のすべてが強毒性かというと,必ずしもそうではない。2009年の新型インフルエンザは新興感染症だったが,メキシコとUSAの一部で例外的に(おそらく合併症のために)季節性インフルエンザよりやや高い致命リスクが観察されたのを除けば,致命リスクは季節性インフルエンザより低かった。定性的には,強毒過ぎると宿主であるヒト個体群の存続を難しくするので,異所的に様々な毒性の変異株が流行している場合,毒性が低い株の方が生き残りやすく広まりやすいと考えることはできる。Ewaldの説は,直接接触や飛沫で感染する場合,症状が軽くて感染宿主が動き回れる方が感染力が高くなることから,感染力と病原性に逆相関が生じると主張し,毒性別に病原体の種類を数えると弱毒の病原体が圧倒的に多くなっているのがその証拠であるとしているのが半分である。残り半分は,媒介動物がいる感染症の場合,毒性が弱くても強くても病原体の種類数に差は無く,それは患者が重症で動けなくても(あるいは動けない方が)蚊による吸血など媒介動物との接触が容易であり,感染力は高くなるからと考えられるという説である。実は媒介動物がいる場合だけでなく,衛生状態が悪い生活環境で暮らしている集団の場合の糞口感染する感染症も,症状が強くて下痢などによる病原体の排出量が多いほど感染力が高くなると考えられるので,病原性と感染力はむしろ正の相関をもつ可能性があり,強毒化した変異株が優占していくかもしれない(それを防ぐには衛生状態を改善して病原性と感染力の連関を絶てば良い)。COVID-19の場合,手を介した接触感染,咳やくしゃみや大声による飛沫感染,発話に伴うマイクロ飛沫が換気の悪い環境で浮遊し感染するなど多くの経路があるが,いずれも感染者が動き回る方が感染しやすいはずであり,一見,感染力と病原性には逆相関があってもおかしくはなさそうである。ところが,COVID-19の感染の半分は発症前に起こっているので,その分に関しては病原性とはまったく関係が無い。従って,弱毒株が優占するような淘汰圧は強くは掛からない。実際,B.1.1.7ことアルファ株やB.1.617.2ことデルタ株は,元株に比べて1.4~2倍かそれ以上の感染力をもっているにもかかわらず,病原性はさほど変わらないか,むしろ若者の重症化リスクは高いという報告さえある。そう考えると今後の変異株がさらに強毒化する可能性は否定できない。それを防ぐためには,なるべくウイルスのコピー数を少なくとどめ,同一宿主内に複数系統のウイルスが入って組み換えが起こるのを防ぐために,多くの人が集まって感染を広げるような機会は避けるべきである。とくに世界中から人が集まるようなイベントを実施したら,新たな強毒株が生まれる可能性も少なくない。
- 以上2つの理由により,オリンピック強行は論外である。さらにいえば,五輪憲章の冒頭に掲げられているフェアネスが徹底できてこそ,特別なスポーツ大会としてのオリンピックの意義があるので,来日日程やレギュレーションなどにおいてきわめてアンフェアな東京五輪にはアスリートが人生をかけて挑む意義などカケラもないと思う。各競技のワールドカップがフェアな条件でできていれば,そちらの方が価値が高いのではないか。商業主義に堕したオリンピックはアスリートの側から見限ってしまう方が良い。米国テレビネットワークの放映の都合から7月から8月の開催に固定されて以降,オリンピックは各国の国威発揚のための巨大商業イベントに成り下がっていたが,これまでは形の上では平和の祭典とかフェアネスを重視するということになっており,その共同幻想を参加者が支えてきた。しかし誘致段階から嘘だらけで,スポンサーの制限も緩和しすぎて多くの企業が利権に群がっている状態であることが明白であった上,COVID-19パンデミック下では到底フェアな開催条件は達成できないし,海で行う競技では糞便性大腸菌群に曝露する可能性があるなど参加するアスリートの安全さえ確保できない東京五輪では,さすがにその共同幻想を維持することは不可能ではないだろうか。アスリートの方で,このバカバカしい巨大商業イベントには参加する価値がないから参加しない,とNoを突きつけて欲しい。そうなればIOCだって強制参加させることはできないのだから,オリンピックは中止せざるを得なくなるだろう。その責任を追及して,いったんIOCを解体させた方が良い。
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