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【第1369回】 人口学会1日目(2023年6月10日)
- 7:00起床。ホテルの朝食バイキングを食べてから南山大学へ出発。
- 事前登録していたので受付はスムーズに済み、9:00から企画セッション3「感染症と人口動態の数理」に参加。広い部屋だが開始時刻には出席者は10人に満たなかった。以下メモ。
- 最初の発表者は宮崎大学の今さん。変動環境下での繁殖遅延の数理モデル(リンク先は要旨)。17年ゼミはなぜ成熟の遅い個体の成熟を待つのか。Tuljapurkar (1990) PNASなど先行研究。離散時間の2種競争モデルで、未成熟個体数のうちηの割合だけ成熟が遅れ繁殖も遅れるとし、ηが0に近いときは、二種の生物が共存する安定平衡点はないことが示された。繁殖を遅らせている個体が存在する種1が有利とはならない。ηが0のときはRickerモデルになってλ>2では振動してカオスに至るので、密度依存によって自発的に振動が始まり繁殖遅延が適応的になるかを検討。λが2より少し大きく(約2.5264よりは小さく)2周期解をもつときは周期点を求めることができる。図の領域Aでは繁殖を遅延しない種2のみ残る平衡点に達し、領域Bでは種2の2周期解が安定し、繁殖遅延する個体をもつ種1の2周期解が不安定になるが、逆に領域Cでは繁殖遅延する個体をもつ種1の2周期解が安定し、種2の2周期解が不安定化する。つまり領域Cのようなパラメータ範囲では繁殖遅延が適応的になる。面白いが、集団サイズが小さいときにηが十分0に近いと、実数としては繁殖遅延する個体はほぼゼロになりそうだが、それでも安定周期解をもつというのは面白いなあ。ただ、分子的なメカニズムとして小さいηが維持される仕組みはちょっと考えにくいように思うが。
- 2人目は大泉さんで「多地域レスリー行列の理論と日本の人口減少における解析への応用」。TFRに地域差が大きく、移動も地域差が大きく、人口減少も地域差が大きいので、多地域レスリー行列モデルを使って、出生、死亡、移動の相互作用の、年齢ごと、地域ごとの人口減少への影響を考察する、という研究。先行研究はInaba (2017)による一般化レスリー行列とか、ロジャースモデルとか。定式化美しい。安定都道府県分布が得られた2020年の年齢別繁殖価のグラフをみると沖縄が突出して高いが、安定年齢分布は東京が最大。当然移動の影響だろう。ただ、fij(a)はレスリー行列の要素であって、出生と移動の複合指標となる点に注意。外国人流入へも同様のモデルを適用できる可能性はあるが、データ不足。日本のデータだけで、多地域レスリー行列に未知の流入パラメータ+qを加えることで、移民の影響を都道府県別に見ることができる。selective migrationとかdifferential mortality between migrants and sedentsみたいな話は入っていない。モデルとして追加することは可能だが国勢調査レベルではデータがないとのこと。
- 3人目は江夏さんで「タイムラグや自由境界をもつ感染症モデル。基本はSIRとして、個体の空間移動と感染潜伏期間としてのタイムラグを含むモデル。感染潜伏期間τは、ここでは発症と感染力をもつかどうかを区別していない(その前提として死亡率もSとIで同じdとしている)ので、モデル上は感染力をもつまでの時間であって、発症ではない点に注意(だから感染潜伏期間と書かれているのだろう。普通、潜伏期間というと感染から発症までの時間なので)。tという時間変数だけでなくxという位置の変数も考える。偏導関数(xの二階偏導関数を含む)を求めている。移動境界h(感染者の許容量は検疫・隔離に依存する)もモデルに入れている。局地的な感染者密度と移動が関連する。移動に関しては拡散方程式を使う。先行研究はなかなかない。未知関数が2つ以上あるときは解析手法自体がなかなかないので、解の挙動に迫ることが難しい。今回は特殊解としての進行波(traveling wave)が存在するかを分析したDu and Lin (2010)を紹介。速度c0-(c0t)^(-1)で右向きに移動するSには病気が追いつけないとか。
- 4人目は國谷さん。「構造化感染症モデルを利用したCOVID-19の疫学的考察」。ワクチンの最適配分問題と集団免疫割合の推計という2つの研究。ワクチン接種によりSEIR→XWYZへコンパートメントが移行するモデル。感染率減少効果、死亡率減少効果を考えている。k1、k2をかなり高く見積もった先行研究のパラメータを使っているが、現実には重症化、入院、死亡を減らす効果ははっきりしているけれども、感染率減少効果はあまり期待できない(これまで目にした論文でも報告書でもあるにしてもlow confidenceと書かれていることが多い)と思うがなあ。モデルでは、1回目接種と2回目接種の効果の違いに依存して最適接種間隔は変わる(2回目効果が大きいほど最適間隔は短くなる)ことが示されていた。k1=k2=0のときのl1<l2のとき、というのが現実に近いと思うなあ。2番目のモデルでは時間変化するβを新規報告者数の推移データから推定し、自然免疫割合、ワクチン接種による免疫割合の推移を計算し、ワクチン最適配分問題にアドレス。
- 5人目が守田さん。「ネットワーク上の感染モデルの基本再生産数の計算」。R0の拡張としてType reproduction number (T)を考える。タイプ別に、そのタイプの二次感染者数が平均何人かという。集団が大きいときは接触形態をwell-mixedとするのが非現実的なため、ネットワーク構造を考える。ネットワーク上の各個体の次数を考え、次数ベースで平均場近似をして基本再生産数がβ+εα+√{(β+εα)^2-4εαβ}に比例することが示された。ネットワーク構造による違いとか。
- 昼は理事会で、午後は死亡のセッションを聴いた後、会長講演、75周年記念座談会、総会、懇親会と出席した。会長講演は大変面白かった(メモはとったが、別ファイルにしたので公開はしない)。座談会は総務委員会が文字起こしして記録として残り、たぶん人口学研究で公開されるはず。総会は大変スムーズに終わった。懇親会はたらふく食べてビール飲み放題で太ったかも。
- ホテルに戻ってテレビをつけたらドラゴンズが0-1でイーグルスに連敗したようで辛い。
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