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【第1858回】 人口学会(2025年6月8日)
- 無事に博多に着き、モーニングセットで朝食を済ませてから人口学会会場の福岡大学に七隈線で移動。以下メモ(なので内容は保証しない)。
- 9:00からは死亡のセッションに参加した。
- 京大・岡田さんの発表。Farringtonアルゴリズム(CDCが採用している準ポアソン回帰、https://doi.org/10.2307/2983331)ではないアプローチとして、階層ベイズによる死亡推計(Alexander et al. Demography 2017)の応用+時変回帰。3県のパタンから全国の死亡率行列(2000-2019)、都道府県別年齢別のランダム効果、2011年東日本大震災の調整(岩手、宮城、福島)。死亡はポアソン分布に従う尤度、平滑なβの過程、などの過程。2000-2019への適合モデルを、COVID-19パンデミックがなかった場合の2020-2022の死亡にprojection。βの差分一定と仮定、Ψは2019年と同じ値を使用。2014-2019で感度分析。それと現実の値を比較した結果、2020年時点では10-29歳で観測死亡率>予測。1-9歳、80歳以上では観測<予測。2021、2022年には超過死亡あり。高齢層の超過死亡は2020→2021→2022とどんどん上がっている。若齢層は都道府県間差が大きい。大都市ではモデルの予測値の方が過小評価になった。コメントとしてソースコードと.RDataを公開して欲しいという要望。.RDataでは保管していないが.csvで公開はできるだろうという返事。
- 次は逢見さん。2019年までの年次とインフル死亡のデータを使った重回帰の外挿と実測(この部分が人口動態統計の死因別死亡ではなく、たぶん総死亡だった)の差を超過死亡とした。2020年を基準とした相対的な月別年齢調整死亡率をみると、2024年も夏場に死亡が増えている。冬のインフルエンザ超過死亡(直線と重回帰外挿との差)が増えていて、それ以上に実測死亡は増えている(COVID-19によると考えられる。夏場も増えている)。この方法で推定された超過死亡は2021-2024の4年間で男女計60万以上でスペイン風邪を超えた。報告されたCOVID-19による死亡が多い月には超過死亡も増えている。時系列で相関をみると0.5-0.94と中等度から強い正の相関(ピアソン? で良いのか? 死亡だから前の月と当月は独立と考えて良い? これが超過死亡が主にCOVID-19に占められると考える根拠だと思うので、たぶん重要な点)。急性心筋梗塞とその他の虚血性心疾患による超過死亡が、心不全などに比べて大きい。
- 次が石井さん。JMD(月別に拡張し月別生命表を求めた)で年次別・月次別・死因簡単分類別にLee-Carterモデルを当てはめ、得られたktを季節ARIMAモデルで予測(2011年だけ東日本大震災の影響があるため別扱い)。2023年には13万人死亡が予測を上回る。寄与が大きいのはCOVID-19。他には心疾患、がん、自殺などが超過死亡に寄与している。第7波から第9波の期間に、月別生命表で得られた平均寿命が期待平均寿命を大きく下回った。年齢別死亡率でみると、90歳以上の乖離が大きい。第9波になると、女性ではがん、男性では心疾患の寄与の方がCOVID-19より大きくなっているが、死亡数で見ると、男女ともCOVID-19が最大。
- 次は岩澤さん。2020年以降の死亡数の変動と関連事象、というタイトル。人口動態統計以外に、超過死亡の背景に何があってどんなデータが使えるのか? を考えてみたという報告。2019年の死亡率を基準とした相対変化を超過死亡と定義。感染状況、防止措置、ワクチン接種、医療逼迫、受診控え、体力低下、病院の外で何があったか? といったことを考えた。死因別で比べると、COVID-19の他には、老衰と誤嚥性肺炎の超過死亡が顕著。ワクチン接種が増えても超過老衰死は増えない。コロナ死亡が増えると超過老衰死が増える。ワクチン接種が広まる前は感染防御で感染者を減らすことで死亡を防げたが、ワクチン接種が広まってからはCFRが下がったが感染防御が甘くなり感染者が増えて死亡が増えた。医療体制は救急搬送が2020-21は減少、2022-23は増加。2023年からコロナは定点になったが、そこから計算した感染者総数を使った。もしCFR(だと思う、なぜか値がなかったから自分で計算したと言われていたが、時間遅れをどう仮定するか、感染者数の報告漏れをどう考えるか、といった点でいろいろな推定方法はあるが、感染者数と死亡者数からの単純な計算値ならいくらでも公表されていたデータがあったと思う)が下がらなかったら80万人以上死亡していたはず、という計算。救急搬送における転送者数と転送回数と救急搬送時間は2022年に急増。これを医療逼迫と考えると2023年にも増えている。夏に増えていたが熱中症との関連は高くなかった。消防庁のデータでは、症状不明が増えていた。患者調査の結果は、75歳以上は循環器、消化器、目の疾患での外来受診は少し減っていた。高齢者の体力は一時落ちたが戻った。死亡の場所は病院以外の場所がコロナ前から増える傾向にあり、続いていた。警察による死体取扱数の推移では、2022年以降、「その他の死体」の取扱数が激増した。データがどんどん散逸しサイトが閉鎖されたりするので、研究者がデータを整理して記録する必要がある。
- 別府さんの発表は、COVID-19の複合死因分析。死亡個票は医師がオンラインで提出した死亡診断書または死体検案書データの文字情報なので、簡単には扱えない。医療情報専門家にコード化、データクリーニングなどをしてもらった。2020年以降の全死亡の99%マッチングできた。COVID-19の記載された死因欄は、2020-1年ではI欄ア(直接死因)が6割を超えていた。2022年以降は4割以上がII欄(直接には死因に関係しないがI欄の傷病経過に影響を及ぼした傷病名等)。COVID-19はI欄アに記載されるとI欄イ~エは無記載が多い。II欄に記載されるときは他にも複数の欄への他の死因の記載がある。記載がII欄の場合、原死因がCOVID-19となるのは半数以下。他の原死因となるのは、0210、09207、09303、14202などの慢性疾患。I欄アにCOVID-19と書かれている場合、他の疾患は肺炎、誤嚥性肺炎など。II欄にCOVID-19と書かれている場合、他に出てくる死因は肺炎、誤嚥性肺炎、老衰など。記載欄による年齢分布の差は顕著ではなく、どの記載欄でも高年齢の死亡が大きかった。
- そのままA707に残って「政策」セッションを聞く。
- 最初は増田さんで、民主化と少子化対策効果の国際比較。パネルデータを使ってTFRを目的変数とする回帰モデル。Democracy Indexという指標はEIUという団体が公表している(Ourworld in Dataにも入っている)。民主化が進んで(かなり高い)ある水準を超えると少子化対策が効果的だが、民主化が遅れていると必ずしも効果的でない。民主化がある水準を超えると幸福度も増加する。内生性についても調べたが、逆因果はそれほどなさそう。質問してみたが、宗教の影響はまだ考慮しておらず、今後そういった要因は含めていく予定とのこと。
- 次の報告は慶應の堀口さん。公的年金財政のマクロ計量モデルによる分析というテーマで、まず社人研モデルに基づいて死亡率の変化がマクロ経済や公的年金財政に及ぼす影響を評価し、家計貯蓄率の推計方法を見直したモデル(高齢化が進むと家計貯蓄率が低下すると考えられることから、家計貯蓄率の対数を目的変数、65歳以上人口割合の対数、2015年ダミー、2020年ダミーを説明変数としたモデルで回帰分析をすると、65歳以上人口割合の対数の係数が約-2.4で統計的に有意な負の関連があったことが示されている)を提案し、改良してみたという話。詳細な配布資料があったので細いメモはしない。
- 次は可部さんでアジアの高齢化と年金対応という話。アジア(日本はむしろ人口構造の変化や年金制度導入の時期がヨーロッパに近いので除く。今回扱うのは韓国、台湾、シンガポール、中国、タイ)とヨーロッパ(スウェーデン、フランス、ドイツ、イタリア、UK)、アメリカの比較。財政方式に賦課方式と積立方式があるが、どちらも長期安定した財政収支を維持することは難しい。正解はない。まだ高齢化していないアジアの国ではどうなるのだろう?
- 最後は四方さんで、日本における世代間所得移動の推移、というテーマ。JGSSとSSMを使っている。世代間所得弾力性(IGE)は、子の所得の対数を親の所得の対数で線形回帰した係数β(親の所得が1%上昇したとき、子の所得はβ%上昇)。2SLSを使用して係数推定。
- 次は2階に移動してランチョンセミナー。睡眠時無呼吸症の教育講演だったが、ランチが豪華で驚いた。人口学会ではたぶん空前絶後となりそうだが。
- 午後は出生のセッションに参加。
- まずは小島宏さんで、20世紀末の大学生における性的行為の関連要因:異性・同性・セルフ、というタイトル。若者の「草食化」(sex recession)への注目。同性との性的行為はフランスで割合が高い報告あり。1981年の第2回青少年の性行動調査の個票データの分析。「日欧性行動・意識・価値観比較調査」(2000年)の個票データとの比較して解尺。二項ロジスティック回帰から、バイトと自慰との関連、宗教ありでは同性との性的経験と自慰経験と正の関連あり。実家の雰囲気が悪いことは女性の性的経験と正の関連、といった結果。
- 次はUNFPAの大橋さん。セネガルとケニアの近成要因という話。2003-2023年。DHSデータを使用。Stoverのモデルを適用。ケニアでもセネガルでもTFRは長期的には低下している。法定婚姻年齢の引上→晩婚化、近代的避妊具利用率の上昇(ケニアでは6割弱、セネガルは既婚者25.6%、未婚者40.1%に過ぎない。産後不妊期間はどちらの国も短縮傾向、教育を受けた女性の割合も両国とも上昇。ケニアはほぼ100%。人工妊娠中絶率はケニア48/1000(サブサハラで最高)、セネガルは16-17/1000(サブサハラで最低)と大きく違う。ボンガーツモデルを当てはめて、Cm、Ci、Cc、Caを推定。出生率低下パタンが継続していることがわかった。
- 次は梁さん。香港の少子化について。人口政策は1960-70年代はUKと同じだった。核家族化、晩婚化、家族計画としてIUDとピルの普及。1970年代の婚姻法の改正の影響。離婚の権利の拡大。1971年までの香港には2つの婚姻法があった。1つはヨーロッパ人向けの一夫一妻、もう1つは華人向けの一夫一妻多妾。『大清律』
- 次は謝さん。台湾の出生と結婚におけるテンポ効果、というタイトル。台湾は寅年が避けられ、辰年が好まれる。TFRと出生数の推移をみると、1980年代から3回は寅年が少なく辰年が多いが、それより前はそんなに顕著ではない(→最近できた「伝統」?)。1950年代は卯年の方が高い。台湾社会の干支イメージでは、寅年は性格が凶暴、卯年は可愛い、辰年は優秀、巳年は腹黒いなど(何か出典あるだろうか? そんなに共通イメージがあるとも思えないのだが)。婚外子割合の推移を見ると、最近上がってきたが、2010年寅年に婚外子が増えていた。1990年代の寅年も婚外子が増えていた。双春年(立春が2回ある年)は結婚数が少ない。2000年と2011年は縁起の良い年ということで結婚が増えた。出生コーホート別パリティ別の出生の推移を見ると、第2子のところで寅年が少ないのが顕著。第2子は計画的に生む? 面白いなあ。この台湾の経験から考えると、来年の日本の丙午では第1子が主になっていてそもそも第2子は稀になっているので、出生は下がらないのでは? というスペキュレーションも面白い。干支は旧暦、TFRは西暦での計算だから、そこは丁寧に見たほうがクリアになるのでは? という指摘。昔はテンポ効果がはっきりしないのは、有効な避妊法がなかったからでは? という指摘もあった。なるほど。
- 人口モデル・応用のセッションに移動するか少し悩んだが、このまま出生(2)を聞くことにした。たぶんこちらが先に終わるので、終わり次第A705に移動しよう。
- 出生(2)の最初の演題は萩原さんで、日本女性における不妊治療と仕事の両立というタイトル。不妊治療は大きな負担なので、既婚女性において、仕事と不妊治療の両立は難しいという仮説の検証。不妊治療を受けている女性だけを対象とした先行研究が多いが、それは出産意欲が強い人だけに偏ったデータになっているはず。データは社人研の出生動向基本調査の夫婦調査を利用。既に妊娠した人は除外。子どもを持とうと思っていない人も除外。不妊治療について、現在不妊治療中が1、それ以外を0とした。就業状態をアウトカムとした多項ロジットモデルで分析。不妊治療をしていると、無業よりは非正規就業しやすいという結果。正規就業と自営業については関連なし(といっていたが、自営業の係数の方が非正規就業より大きく、標準誤差が大きいから有意になっていないように見えるので、自営業が内包しているものが多様なのか、サンプルサイズが小さいのかではないか?)昨年も今年も働いている人に限ると、正規就業に比べ、非正規就業に有意になりやすい(こちらは自営業の係数は正だが非正規就業の係数より小さく、有意でもない)。出生動向基本調査の夫婦調査では、「自営」のカテゴリは、「自営業主・家族従業者・内職」だけれども、別に職種として専門職、管理職、事務職などの区分がわかるし、労働時間も聞いているので、その組み合わせで自営業を区分できるのではなかろうか? 開業医や開業弁護士を家族従業者や内職と分けられるのでは? と質問しようと思ったが時間切れだった。
- 次の演題は鎌田さんによる奈義町の報告。TFRが2.95(町が単独、単年で計算した2019年の値)ということで世界で注目された。夫の職業が保安(自衛隊員)か運輸生産建設であると結婚年齢が低く多子世帯になりがち。全国より結婚年齢は若いが晩婚・晩産化は進んでいる。2005年は1.68だが2020年に2.3。古いタイプの要因分解をすると、結婚要因が大きい。2010年以降は30代の出生力が上がっている。住宅施策や子育て支援の拡充により移住者増加(出産しようと思って移住してくる人が多いdifferential migrationがあるなら当然か)、保安関係で早婚が多い、ただし政策効果は頭打ち。
- このセッション最後は小西さん。1995年から2023年の結婚出生力の経時変化というタイトル。ARTによる出生が最近では1/10近くなっているが、ARTがなかったとしても9/10にはならないのではないか? という仮説。伊藤・坂東(1989)の方法。伊藤・坂東は離散時間で和分モデルだが、稲葉さんと共同研究したモデルなので連続時間モデルになっているようだが。回帰直線の負の傾きは年次ごとにそれほど変わらない。ARTの利用は増えているが、大まかな年齢パタンは変わっていない。20-25歳で結婚した女性の5年間の期間合計結婚出生率は2000年頃から継続して減少傾向。パリティ1でより顕著。たぶん結婚理由が変わってきているのでは? 結婚コホートごとにみるのが良いのかどうかは不明。
- A705に移動したが、最終演者の最後のところしか聞けなかったのでメモはなし。
- ということで、すべてのセッションが終わり、新幹線で神戸に帰還した。ドラゴンズがマリーンズに3-0で勝っていて、ホークスに3連敗したけれどもマリーンズには3連勝で勝率5割という、まあまあの交流戦になっている。
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