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公衆衛生学 (Public Health)

Latest update on 2020年2月13日 (木).


講義の目的と概要

本講義では,「公衆」,即ち,地域社会で普通に生活している人々,あるいは各種機能集団の人々の健康を保持増進するための理論と方法について学ぶ。

そのためには「健康」を定義することが必要であり,本当はそれが実に難しい。保持増進するための理論と方法といっても,社会条件や健康観が違えば違ってくるので,社会の文脈に即した理論でなければならない。だから,この講義を受ける際に常に注意して欲しいことは,その話で論じられている「公衆」はどういう集団を指しているのか,ということである。

一つだけ確かなことは,種類はいろいろであるにせよ,公衆衛生学の対象が個人ではなくて人間集団だということである。この点は多くの他の専門科目と異なるので,注意されたい。

講義の計画と内容

疫学については時間が足りないため,ごく基礎的なことだけ説明する。別途参考書などを参照し,自習して欲しい。実は疫学・生物統計学に限らず,公衆衛生学で扱うトピックはそれぞれ広大な裾野と奥行きをもっているので,本講義はあくまでも概論(とくに制度,法制,枠組み,方法論を中心にしたもの)と考えて欲しい。

後期月曜3限,B201で実施。

  1. 公衆衛生学とはどういう学問か? 健康とは何か(10/7,配付資料プレゼンテーション資料)
    ■ミニレポート課題「米国CEPHが公衆衛生学の5つのコア科目といて定めている科目は何か」■(解答)生物統計学,疫学,環境保健学,保健サービス管理学,社会科学と行動科学
    (※もう一つの課題には唯一の正解はありません。学生諸氏からの回答はBEEFでのみ参照できます)
    ■質問への回答(公開可能な分)■
    (Q1)1/7は学年暦によると火曜の振替で,1/6が月曜の振替では?(A1)1/7は,1年生は火曜の振替ですが,2年生以上は月曜の振替です。学年暦pdfを確認してください。
    (Q2)そもそも米国では公衆衛生学はどうやって生まれたのか?(A2)Yale大学のこの文書この講義録に書かれていますが,米国ではWinslowが果たした役割が大きかったと思います。1915年,Yale大学のSchool of Medicine(医科大学院)に公衆衛生学教室(Department of Public Health)(現在のYale School of Public Health)が開設された当時,米国でも公衆衛生学はメジャーではなく,十分に概念化されていませんでした。Winslowが1920年に示した公衆衛生学の定義に導かれ,人々の健康を守る学問としての公衆衛生学の今日の隆盛に至ったと言っても過言ではないと思います。
  2. 疫学・生物統計学(1)(10/21,疫学・生物統計学(1)(2)通した詳細資料配付資料)
    ■ミニレポート課題「有病割合と罹患率の違いについて簡潔に説明してください」■(解答例)有病割合とは,断面研究で得られる疾病量の指標で,研究対象者のうち研究対象としている病気をもっている人の割合であり,その集団における疾病負荷を意味する。罹患率はコホート研究で得られる疾病量の指標で,観察中に研究対象としている病気を発症した人数を,延べ観察人時で割ることで得られる,単位時間当たりの病気の発生数,即ち病気の発生速度を意味する。
    ■質問への回答(公開可能な分)■
    (Q)「疫学研究において,アプローチの違いというよりも段階の違いと考えるべき」という記述がよく理解できなかった。(A)ある病気について,ある原因からの因果関係を明らかにするのが究極目的であるとすると,一般に,(1)その病気の頻度と分布の記述→(2)観察研究(断面研究や症例対照研究からコホート研究へ)→(3)介入研究(可能な場合),と段階を踏んで研究を進めるという意味です。
  3. 疫学・生物統計学(2)(「因果関係」以降)(10/28,配付資料)
    ■ミニレポート課題「疫学研究におけるバイアスについて簡潔に説明してください。」■(解答例)バイアスとは系統的な偏りをいう。大別すると,調査対象となる標本が母集団を正しく代表していないことによって起こる選択バイアスと,標本からデータを得る際に生じる情報バイアスに分かれる。注目している原因と結果の関係がそれ以外の要因によって歪んでしまう交絡も,交絡バイアスと呼ばれることがある。サンプリングバイアスには逸話的情報や健康労働者効果など,情報バイアスにはリコールバイアスや追跡の偏りなどが含まれる。
    ■質問への回答(公開可能分)■(Q1)バイアスはないに越したことはないと思いますが,どの程度のバイアスなら研究に問題ないと判定されますか(A1)難しい質問です。厳密に言えばバイアスがあれば問題はあります。しかし,最近ではバイアスの大きさを定量する方法が提案されていて,査読者や読者は,その情報を研究結果の信頼性についての判断根拠とすることができます。京大医療統計オープンコースの第10回の5番目の動画で,未測定の交絡要因の影響の大きさを示す指標の求め方が解説されていますし,バイアスを可視化するという論文も出ています。(Q2)ITTにおいて帰無仮説「Aは効果なし」のときAa+BaをA群とすると治療効果がよく見えるのはなぜですか? とくに変化は起こらないのではないですか?(A2)京都大学医療統計の佐藤先生の資料を読むとわかりますが,帰無仮説の下で割り付けを守らない人の多くには理由があって,多くの場合は「治療が効かなかったから止めた」または「効いたから止めた」という特別な理由があって止めた人たちと考えられるので,予後が良い人がAの治療を受けがちになると考えられるためです。この資料週刊医学界新聞のこの記事も参考になると思います。
  4. 保健統計・医療法と医療制度(11/11,和泉先生)
  5. 国際保健(11/18,配付資料)
    ■ミニレポート課題「(1)ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)とはどういう概念か? (2)UHCの現状には2つの大きな問題点がある。1つは支払い可能な費用負担でという点が強調されるあまり,UHC=皆保険という誤解が広まっていることである。たとえ皆保険が実現できても,実際に通院できる範囲に医療施設がなかったり良質な医薬品が利用できない途上国の僻地の現状ではUHCには遠い。もう1つの誤解は何か? (3)UHCを推進したとき,将来起こりうる問題は何か?」■(解答例)(1)全ての人が適切な予防、治療、リハビリ等の保健医療サービスを、必要な時に支払い可能な費用で受けられる状態,という定義で,"No one left behind"がスローガンとなっている。(2)予防やリハビリが相対的に軽視されているため,社会復帰を含めた社会環境整備への努力が不足している点が大きな問題である。(3)本当に70億人以上の人に対してUHCを提供しようとしたら地球上の資源では足りないという問題が起きる可能性がある。また,健康長寿が地球上の全ての人にとって無前提に他の全てよりも優先されるべき価値であると言い切る根拠はないため(そもそも健康概念自体が文化や民族によって多様であるため),"Leave us behind"とUHCを拒否する集団が出現する可能性も否定できない。地球上のすべての物質は循環しており,感染症に国境はないため,そういう人々を放置すると,WHO的な意味での健康を希求する人にとってのリスクの元となる可能性がある。これらの矛盾は解決困難である。
  6. 地域保健とヘルスプロモーション(11/25,中山先生)
  7. 老人保健(12/2,配付資料配付資料より詳しい資料)
    ■ミニレポート課題『「サクセスフル・エイジング」という言葉がありますが,いったいどういう加齢の仕方が「成功」なのかということについては,価値観の多様性によってさまざまな受け止め方があり,誰もが納得するような定義はありません。その意味で正解はないのですが,あなたはどういう加齢の仕方が「サクセスフル・エイジング」だと思いますか? 自分の考えを書いてください。』(正解はないので解答例もありません。学生からの回答は抜粋してBEEFに掲載します)
  8. 母子保健・親子保健・学校保健(12/9,齋藤先生)
  9. 疾病統計・慢性疾患の予防(12/16,配付資料)
    ■ミニレポート課題『がんの罹患数を正確に推定するため,2016年1月から始まった制度は何か。また,その根拠法は何か』■(解答例)制度は全国がん登録,根拠法はがん登録推進法。
  10. 衣食住の衛生(12/23, 配布資料)
    ■ミニレポート課題『食品にはアスパルテーム,エリスリトール,ブドウ糖果糖液糖など,多くの甘味料が使われているが,これら3つのうち食品添加物扱いでないものはどれか』■(解答例)ブドウ糖果糖液糖は食品扱いである。(追記:講義では触れませんでしたが,エリスリトールも食品扱いです)
  11. 感染症とその予防(12/26,配付資料詳しい資料)※木曜日ですが月曜の振替授業日となっています。
    ※エボラウイルスとインフルエンザウイルスについての最近の参考文献として,髙田礼人(2018)『ウイルスは悪者か:お侍先生のウイルス学講義』亜紀書房が大変面白いのでお薦めです。かぜとインフルエンザについて公衆衛生的な視点をもった医師の視点から書かれた本として,木村知(2019)『病気は社会が引き起こす:インフルエンザ大流行のワケ』角川新書もお薦めです。
    ■ミニレポート課題『1種から4種の病原体区分と1類から5類の感染症区分が微妙に異なる理由は何か』■(解答例)病原体の区分はバイオテロ対策や病原体の適正な取り扱いを徹底することを目的としているのに対して,感染症の区分は患者の適切な治療と蔓延防止を目的としているため,それぞれの目的のために異なる区分を必要としているから。
  12. 産業保健(1/7, 配布資料※火曜ですが月曜の振替授業日となっています)

    過重労働撲滅対策特別班(かとく)について補足資料

    腰痛対策

    医師の長時間労働


    ■ミニレポート課題『労働基準法と労働安全衛生法の違いについて簡潔に説明してください』■(解答例)どちらも広い意味では労働者の健康を守るための法律だが,労働基準法が被雇用者の労働条件の最低基準を労使の合意に基づいて定めるものであるのに対して,労働安全衛生法は安全で健康的な労働環境の整備を求め,労働災害や職業病の発生を防ぐためのものである。
  13. 精神保健(1/20, 配布資料; 高齢者の精神保健に関するWHOのFact Sheet,2017年の世界保健総会で採択された高齢者の認知症への公衆衛生対応の世界行動計画と,それについての論文:Suzanne Cahill (2019): WHO's global action plan on the public healthresponse to dementia: some challenges and opportunities, Aging & Mental Health, DOI:10.1080/13607863.2018.1544213)
    ■ミニレポート課題『精神病床への入院は他科への入院とは異なる特徴がいくつかある。簡潔に説明せよ。』■(解答例)他科の入院には基本的に患者本人の同意が必要だが,精神病床の場合,他科と同様の任意入院だけでは制度として不十分である。本人に病識がないなどの理由で同意が得られなくても治療が必要な場合に家族等の同意により入院させる「医療保護入院」や,1名の精神保健指定医が患者の医療及び保護のために入院が必要と認めれば家族等の同意も不要で精神病院管理者の権限で入院させることができる「応急入院」に加えて,自傷他害の恐れがある患者については,やはり同意不要で,(社会防衛のため)都道府県知事の権限により,2名以上の精神保健指定医の判定で入院を強制できる「措置入院」と,1名でも精神保健指定医が自傷他害の恐れが著しいと判定すると72時間以内に限って入院を強制できる「緊急措置入院」がある。
    □(質問)Q1「認知症の内訳として血管性とアルツハイマー型の割合は逆ではないのか?」A1「使ったデータが古いままで申し訳ありません。厚生労働省の資料にあるように,かつては血管性の方が多かったのですが,近年はアルツハイマー型の方が遥かに多いです。」Q2「実際はどの入院制度がもっとも利用されているのか」A2「厚生労働省の資料によると,2015年で医療保護入院が177,365件あったのに対して,措置入院は7,106件と,ずっと少なかったです。かつては任意入院の方が医療保護入院よりずっと多かったのですが,任意入院は減少傾向,医療保護入院は増加傾向なので,両者の差は小さくなっています。より詳しくはリンク先資料を見てください。」
  14. 環境問題と公害(1/27, 配布資料; マイクロプラスティックによる海洋汚染南極海におけるマイクロプラスティック問題)
    ■ミニレポート課題『日本では規制が厳しくなった結果,公害問題はかなり目立たなくなった。しかし,微量な汚染物質の拡散や廃棄物の海外への押しつけの他,日本が輸入する「パームオイル」の生産地では,自然林が伐採された後,大量に農薬を使用して大規模なオイルパームのプランテーションが経営されており,労働者や周辺住民に農薬による健康被害が出ている例もある。この点を踏まえ,日本は環境問題と公害に対して,今後どのような姿勢を取るべきか? 自分の考えを述べよ。』(正解はないので解答例もありません。学生からの回答は抜粋してBEEFに掲載します)
  15. 期末試験(2/3,2019年度期末試験問題同解答例)

参考:2018年度期末試験問題同解答例2017年度期末試験問題同解答例2016年度期末試験問題同解答例2015年度期末試験問題同解答例2014年度期末試験問題同解答例2013年度の期末試験問題同解答例2012年度の期末試験問題同解答例

成績評価と基準

期末試験及びミニレポートによる平常点評価による。なお,期末試験は持ち込み不可である。期末試験で合格基準に達しなかった場合,翌週の再試験を受けることができる。

期末試験受験者は追試受験者も含めて全員合格でした。得点分布は下図の通りです。

問題別得点分布

参考書・参考資料等


リンクと引用について