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【第55回】 人口学会3日目(2012年6月3日)
- 前日に引き続き8:10頃に駒場着。電車の中では『天地明察』を読んでいたが,これは面白い。
- 午前中は,企画セッション2『寿命・健康研究の複合的展開』に出ているが,出席者が少ない。最初のC. elegansの寿命に拡散方程式を当てはめる話は非常に面白かった。Leonid GavrilovとNatalia GavrilovaのAvalancheでは個体の老化と死亡をモデル化していて,故障蓄積としての老化と死亡の関係として閾値を想定する場合(要は,Mori and Nakazawaがそうだったわけだが)と,たぶんt0の導入は同じことではないかと感じた(うーん,AvalancheとかMori and Nakazawaはメカニズムを考えたモデルなんだがなあ,質問の主旨が伝わらなかったようだ)。鈴木隆雄先生の介護予防の介入研究の話も,あそこまでクリアな結果が既に出ているとはびっくりした(老研式活動能力指標が携帯電話の普及などとともに現状に合わなくなってきているので,現在revise中という話も初耳であった)。しかし問題は介護予防活動をしたくてもできない状況に社会的におかれている人をどうしたらいいのかということだろう。最後の齋藤先生のご発表も非常に幅広いレビューで,情報量が多かった。何をもって健康不健康を分けるのかが重要という点はまったく同感であった。メディアが昨日発表した「厚生労働省が初めて発表した都道府県別健康寿命」という話は,厚労省のリリースにはなかったので調べてみたところ,厚労科研の1つに基づいているらしい。このところずっと平均寿命が男女とも日本一の長野県だが,今回発表されたものでは上位ではあるものの1位ではなかった。たぶん健康状態の捉え方が独自調査によっているような気がするので,これまでの知見との整合性は要検討であろう。健康寿命を計算するツールとして紹介されたiMaChと,Leeds大学のサマースクールのページからリンクされているRのSURVEYLIFEは使ってみたい。Google検索していて見つけた,decomposition toolsもリンクしておく。
- 昼は門司さんと満留賀で蕎麦を食べた。毎年ソフトボール部のOB戦のときに利用するが,昨年は雨でOB戦が中止だったので1年半ぶりくらいか。ニシンそばがそこそこ美味であった。このところずっと引っかかっている宗教人口学だが,東タシンボコでSDAと他の宗派の間で出生力を比較する実証研究ならできるかもしれない,とふと思いついた。
- 午後は企画セッション3『災害常襲地の歴史人口と人口変化』を聞くことにした。目当ては3題目のバングラデシュの洪水と人口変化だが,他の話も,もしかすると国際・災害保健の講義で使えるかも。
- 天草のsmallpoxの話もかなり興味深かった。WHOの文書によると,smallpoxが日本に入ったのは,遅くとも奈良時代,735年に難破船の水夫によってもたらされたそれは,50万都市であった平城京を襲い,多くの人が亡くなったということだし,奈良の大仏建立も時の天皇がsmallpox問題が終息することを祈願してなされたことだそうだ。10世紀以降はendemicな病として定着していたらしい。せっかく詳細な歴史的記録があるなら,epidemic curveを描いてみて,流行初期パラメータから介入が無かった場合に想定されるepidemic curveとの差を出してみたら,介入にどの程度の効果があったのかが定量的に評価できるだろう。
- セッションの終了は30分ほど延びたが,乗り継ぎ時間にかなりの余裕を見込んでいたので,予定通りの新幹線に乗ることができた。冲方丁『天地明察(上,下)』角川文庫,ISBN 978-4-04-100318-3(Amazon | honto | e-hon)とISBN 978-4-04-100292-6(Amazon | honto | e-hon)を読了。いろいろな意味で達人の物語。関孝和に痺れた。自分が如何に馬齢を重ねてしまったかに愕然とする。とはいえ,最後に参加していたセッションで座長をしていた上智大の鬼頭宏先生もちょうど読んでいる途中とのことだったが,ワクワクするし勇気が出る小説なので,読んで良かった。
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