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【第709回】 人類生態学研究会・同窓会(2014年6月21日)
- 上野駅に着いたのは,予定より30分以上早かった。到着が遅れる可能性も考え,教室を開けて貰う約束を8:00にしていたので,ゆっくり朝食をとっても未だ時間が余る。本郷三丁目まで歩いて,なか卯で朝食(親子丼並と冷やし小うどんのセット)。食べ終わっても,まだ40分以上あるので,上島珈琲に入って,無糖ミルクコーヒーホットのMサイズを飲みつつvaio-saを開いたところ。少しRのコーディングでもしておこう。
- 東京都議会の野次の問題がこの数日取り上げられているが,そもそも内容如何によらず,議会における野次は議会を侮辱する行為だから,野次を飛ばす輩からは議員の資格を剥奪してもいいくらいだ。国会でも残念なことによく見られる行為だから,今の議員は悪慣れしているのだと思うが,本来は議長が厳しく叱責して議場から追放しなくてはいけない。繰り返すが内容以前の問題。
- 午前中は人類生態の集会室を借りて溜まっていた仕事を進めることができた。門司さんとディスカッションしていて,1つ,たいへん面白い研究の萌芽ができた。昼飯は春日門(という立派な門になっていたが,ぼくが学生だった頃は本当に通用門という風情で,通称ゴミ門と呼ばれていた)を出て信号を渡り,右手すぐの北海道料理屋でザンギ定食。リーズナブルな値段でそこそこ美味だった。平日は魚料理も出るそうだ。
- 14:00から人類生態学研究会@教育研究棟13階の第5会議室(以下は例によって個人的なメモなので内容は無保証)。最初の演題は海南島農村コミュニティにおける生活様式と心理ストレスの話。先行研究として,都市部居住者は農村部居住者よりも心理的ストレスが高いというサモアの研究。acculturationストレスと呼ばれるが,メカニズムは不明。social comparison theoryを考えると,同一コミュニティ内の心理ストレスを知る方がよい。バイオマーカーを使って海南島の住民のストレスを評価した。マーカーの種類により一長一短。途上国の調査では準備しにくい設備が必要なものが多く,今回は濾紙血を利用(指先穿刺→濾紙吸着→乾燥させて持ち帰る)。マーカーはEBV抗体価(世界中ほぼ90%の人にEBVが感染している。ストレスによりヒスタミン系が慢性的に高まっていると,細胞性免疫の働きが弱くなる。EBVは通常,感染後細胞性免疫によって不顕性になっているが,細胞性免疫が弱まると活動を始める。アルツハイマー患者の介護や医学生の定期試験などで高まるという先行研究が示されている。比較的長期間のストレスを反映する。抗体価の測定法はELISA。濾紙を適当な大きさに切り出し,溶出させてELISAで測定。コストは1300円/1サンプル(後で発表者に訊いたら,1プレート8万円だそうだ)。中国の経済はこの30年でGDPは30倍。が,格差拡大。14億人が生活様式の変化をそれぞれに経験している。マッキンゼーのレポート(2009)によると,3億5千万人が,2025年までに都市人口に加わる,2030年までに都市民が10億人に達する,221の都市が100万人以上の人口をもつ,という予測。海南島は人口880万。九州と同程度の面積。内陸部は多くの少数民族が居住。換金作物を作っている。海南島は1988年に経済特区に指定されてから,中国内外の支援を受けて開発が進んでいる。2009年には国際観光島に指定された。2000年から定期的に調査してきた。棚田? 機械化されていないのはそのせい? 2000年頃は肉は日常的には消費されていない。蛙などを食べていた。その後数年してバイク行商で豚肉を売りに来たり。海南島の作物は,上海などの都市では,きれいな環境で育った作物というブランディングがされていて,高く売れる。金を貯めてバイクを買ったり,家をコンクリートで新築したりする人がでてきた。野菜も野草に加え,マーケットで購入する野菜を食べる人もでてきた。村の半数以上が携帯電話をもっている。出稼ぎに行く若者が急増。しかし,未だに村で掘っ立て小屋に住む人もいる。中国の村は基本的には親族関係で成り立っていて,20年前までは均質だったが,現在では格差が生じて,勝ち組と負け組がはっきりしている。2011年と2012年の夏にフィールドワークをした。生活様式の変容の中でも,とくに食事内容の変化と都市で作られた商品の利用に変化がみられた。2010年の濾紙血サンプルを用いて,食事内容の変化と,製品の増大機会の関連を調べた。CRPが10mg/L以上の人は除外。年齢,性別,地域で送別して,EBV抗体価を評価。20 ELISA units以下の人は,そもそもEBVに感染したことがないとして除外。豚肉消費(0-7回/週,頻度が正規分布する唯一の物),携帯電話使用量(1ヶ月)。それぞれ偏差値に変換して分析。Total affluence index=携帯電話使用量偏差値+豚肉消費(偏差値?),Investment tendency index=携帯電話使用量偏差値−豚肉消費(偏差値?)を計算。その後最小二乗回帰。携帯電話使用量とは心理ストレスと負の関連。豚肉摂取頻度が高い人に心理ストレスが高い。social activityのscaleを広げることが彼らのニーズで,それゆえ携帯電話使用量が多い人がストレスが低い。以上はAJHBに掲載済み(Yazawa A, Inour Y, et al. "Impact of lifestyle changes on stress in a modernizing rural population in Hainan island, China. AJHB, 36-42, 2014.)。次に出稼ぎ労働との関連をこれから分析する。家族や友人の出稼ぎにより,村に取り残される(left-behind)ことのストレス。都鄙移住(農村とのつながりが切れることはない)。ケースバイケースで影響は異なる。研究は,移住パタンの理解,出稼ぎデータはこれから取る。取り残されている人の定義。心理ストレスの指標はEBV抗体価+質問紙。Social tiesも調べた。バッファ要因がさまざまに存在するので,村に取り残されるという心理的ストレスは緩和される。来月からサンプリング,8〜9月に海南島で分析予定。(質疑)若い人は出稼ぎに行って村にいないが今もそうか?(→その通り)EBV抗体価はIgGや総タンパクでは補正せず,そのままの値で使うのが普通だそうだ。家をコンクリにしたかどうかは,ちゃんとデータが取れていない。今後の研究では取る予定(が,無事に現地に入れるかどうかが最大の懸念)。
- 2題目は健康科学研究の空間的側面というGISとリモセンの話。特任助教の安本さん。空間情報技術とは何か→2つのケーススタディ@ダッカ(地表面温度と下痢症,人の移動を考慮した暑熱曝露量),という筋立て。空間情報とは,場所を示す情報と場所にまつわる情報をcombineしたもの。(1)多種多様な空間情報を収集し,デジタルデータとして格納,(2)様々な空間分析,(3)結果の可視化,の3つをまとめて扱うのがGIS。GISやリモセンによる地球観測・シミュレーションデータと保健・衛生領域データから構築した健康インパクトの予測モデルを融合。ダッカメトロポリタンエリアでの,地表面温度が市の中心地で高い(ヒートアイランド現象)と下痢症分布の関連をみた。2000年代以降,実質経済成長6%前後をマーク,人口密度高い,交通問題,緑地の減少,非効率な意思決定プロセスといった問題がある。結果として,大気環境の問題が深刻化。モージスという米国人工衛星データを使うと,ダッカで2000年以降,急速にヒートアイランド現象が進行していることが明白。下痢症と暑熱環境の関連としては,(1)バクテリアや寄生虫由来の下痢症が気温が高いと増える,(2)人々の行動パタンにも影響し,暑いと水を飲む頻度が上がる,といったことが言われている。リモセンによる地表面温度データは,地理的解像度が均質で,途上国ではweather stationよりも細かいという利点がある。下痢症患者データは,ダッカの研究機関,icddr, b管轄ホスピタルの来院患者(いつ,社会的属性,ライフスタイル,行政区界「タナ」レベルでの住所情報,まだ分析していないが,飲み水のソースも分析している),地表面温度データはMODISから入手し,タナの平均地表温度を推定。タナの地理区界はスキャンなどして自作。ポアソン回帰。年齢(13歳以上,未満),性別,教育歴で層別した(? なぜ共変量としない?)。未回答が多く,かなりのサンプルを除去したので結果にバイアスある可能性あり。地表面温度が1℃上がることのRRをみると,13歳以上の方が影響大。理由は,子供の場合は暑熱環境以外の下痢症に影響する要因が多いのではないかということ。性別では男性の方が女性よりRRが大。教育歴別では影響なし。教育歴は回答無しが多かったので欠損が増えた(→multiple imputationすればいいじゃん……と思ったが,教育歴の低い方が回答無しが多そうだから,NONRANDOM MISSINGになってしまってダメか)。地表面温度にも雲などによる欠測値があるが,補間が可能。そこを使えばlag effect(時間がずれて出てくる影響)も見えるかも? 関連研究としては,寒冷環境の健康影響もリモセンデータで捉えられないかということを検討中。Matlab市ではHDSSが存在し,かつ地表面温度が低い。冬の寒さの影響があるのではないか? を検討中(喘息患者のデータ収集もアンケート調査でやっている。National asthma centerに来院した喘息患者対象。demographic info+喘息発症時期+治療内容+住所,市の中心部よりも郊外の方がやや患者が多い……人口分布は?)。次は人の移動を考慮した暑熱曝露量の話。先行研究としては,暑熱曝露によって,心血管性や呼吸器系の疾患,器質性精神障害などの罹患リスクが有意に高くなる。Laaidi et al. (2012)のパリでの地表面温度の地理的分布データから高齢者死亡率の関連性を実証した研究がある。が,人の移動を考慮していない。GISで人の一日の移動をモデル化すると,推定される暑熱曝露量はどう変わるか? をやってみた(ダッカで)。JICAのアンケート調査で得られたデータから,工学部で作った,人の移動モデルがあるので,それを使って,移動を評価。で,地表温度×そこに滞在する時間で暑熱曝露を推定。これをDynamic exposure modelと呼ぶ。郊外の住民については,Dynamic modelとStatic modelの差が大きい。関連研究としては,1 kmグリッドの排出データから大気汚染データを推定したもの,携帯電話に組み込まれたGPSによる人の移動データを使った曝露評価も進めている。
- Coffee Breakを挟んで3題目は,中国の鵜飼い漁師を通しての,人と動物の関係論を再考した(カワウの追随性の獲得等へのimplicationも含めて)というもの。福井勝義さんの生業活動における動物利用の階層的分類(狩猟,遊牧,農牧,放牧畜産,舎飼い畜産)に加え,生業手段としての動物利用(畜力利用,野生性利用)を考えた。鵜飼い漁は野生性利用。生業対象としての動物については,人間にとって都合のいい性質を如何に獲得させるのかということが議論されてきた。一方,生業手段としての動物については,家畜と違って,野生とのバランスを取らねばならない。分析概念として,リバランス(家畜化と野生性のバランスを調整すること)を採用。リバランス論として,野生([1]逃避・防衛,[2]逃避,[3]自然淘汰による動物の特徴)と家畜化([1]接近・接触,[2]追随性の獲得,[3]自然淘汰圧の低下による家畜動物の性質)の間に人が働きかける([1]インプリンティング・風切り羽の切除・ペアリング,[2]反復トレーニング・報酬の提供・帰巣性の利用,[3]近交退化の回避・過度の選抜淘汰の回避・嫌悪刺激を与える)。中国のカワウは人工繁殖させて行商しに来るのを買う。60日までは無理矢理魚を食わせるとかして育てているので,当初はインプリンティングによる追随性があると勘違いしていた。が,実際は追随しない。そこで,漁師たちが若いカワウにどう働きかけ,カワウはどういう行動変化を起こすのか明らかにすることを目的として調査。調査地は中国江西省のある村(40世帯のカワウ漁師)。シナカワウ962羽が飼育されている。まず生後1ヶ月くらいの若いカワウを購入(なぜもっと早く買わない? インプリンティングならもっと早い方がいいのでは? →ローレンツによると,鳥のインプリンティングの対象は特定の人ではなくて人間一般なのでOKとのこと 自分らでは面倒がって繁殖はさせない)。雌雄に関係なくペアにする(擬似的配偶関係)と喧嘩しなくなる。購入してから20日は自宅で給餌。次は若いカワウを漁船の止まり木に乗せ,漁を見せる(風切り羽を切って船に乗せるが,最初は鵜飼い漁には参加させない。水への恐怖心を取り除く。7-10日間)。エサを与えるときに湖にカワウを放つ。次に止まり木からカワウが自らの意思で飛び立つのを待つ。カワウは飛び立った次の日から漁に参加する。が,最初は操業中にあちこち逃げ回る。漁船からデジタル距離計とデジタル角度計でカワウを測定。spot check法。漁師は追随してくるとカワウが一人前になったと認識。最初は同時期投入の4羽を追跡したが無理だったので1羽に絞った。関羽と名付けた。背中にペンキを塗って観察を続けた(追記:なぜバイオロギングしないのか? と訊いたら,中国では外国人がGPSを使うことは許可されないとのこと)。最初は遠くに逃げるが,漁師はカワウを捕まえて近くに戻すという行為を続ける。徐々に追随するようになり,中秋節以降は,若いカワウは概ね追随性を獲得しているので,漁師もオトナとして扱う。慣れてきたら,操業中に竹棒などで強い刺激を与え始める(竹棒で水面を叩くとか,さぼっている若いカワウを持ち上げて水面にたたきつけるとか)。他の動物だと,鷹狩りの鷹の馴化も同様。別の話だが,人口転換については,死亡率が高いままに出生率が低下したが,これは一人っ子政策の影響。
- 4題目は遠山先生。rodentの高次脳機能異常を検出するための新たな行動試験法について。40年前に卒業し,それ以来初めてのこの場での発表。学部での卒論はマウスのメチル水銀毒性,修士の時はセレンによる水銀の毒性の修飾について研究した。その後,Lake Murrayでのフィールドワークもしたが,ロチェスターとか環境研で毒性学の研究。その後東大に戻ってきた。最近は子供の高次脳機能への毒性について疫学的・実験的な研究。8万の化学物質のうち,神経毒性が明確に分かっているものが5つ(MeHg, As, など)。非常に研究が遅れている。試験法の問題と,PRTR登録時の毒性の証明方法が甘いという問題がある。発達神経毒性は登録時にデータが必須で無いし,製造者自身が毒性試験もしている。行動試験は,再現性に問題がある場合が多い。そのため,ラットの対連合学習テスト,マウスの集団型全自動行動測定システムを開発した。前者はMorrisのMotor mazeを参考にして開発(Science, 316: 76-82, 2007)。ラットは1ヶ月くらいかけてこのスキーマに慣れさせる。正しいエサの場所を学習することができる。その後,TCDDやTBDDを投与した場合,低濃度では正解のエサ場に辿り着くまでに時間がかかるようになるが,濃度を上げると逆に早く辿り着けるようになることもある(原因は? 後で)。次はマウスの自動行動評価システム。市販のインテリケージを用いる。底面積50x40cm。16匹まで同時にオトナのマウスを飼うことが出来る。実験者がまったくマウスに触れなくて良いのが利点。非常に再現性が良いことは確認済み(Endo et al. PLoS ONE 2012)。ちょっと詳細はフォローしきれなかったのだが,組織で変化が出るなら行動を見なくてもいいのでは? という質問に対しては,行動をみて初めて組織の変化が異常であると判断できるというお答えであった。
- その後,総会は何事もなく終わり,移動して懇親会へ。この数年,PNG調査でお世話になっている河辺さんから,新著"The Gidra: Bow-hunting and sago lief in the tropical forest.", 京都大学学術出版会,ISBN 978-4-87698-297-4(Amazon | honto | e-hon)をご恵贈頂いた。2010年に出た日本語の本の英訳+αということのようだ。学士会館別館の跡地にできたファカルティハウスを貸し切って行われ,和やかにお開きに。その後,人類生態の集会室に移動して2次会。21:45頃辞去し,東京駅へ。夜行バスは予定通り運行し,東梅田に6:30頃到着するまで,ほぼ熟睡していた。
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