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【第1310回】 久々に保健学同窓会―北先生の「熱帯医学からグローバルヘルスへ」も面白かったが,昨年度学科賞を受賞した2人の卒業研究の発表が素晴らしかった―(2016年5月21日)
- 野球部の練習に行く息子と一緒に出発し,ぼくは秋葉原へ。microUSBとUSBの高速充電ケーブルを2本買い,キッチンジローでスタミナ焼+ハンバーグのランチ。35年くらい前から味は変わらないが,値段は当時確か780円だったような気がするので,950円は随分値上がりした。コンピュータなどハードウェアの値段が当時からは信じられないほど安くなったこともあり,若干の割高感がある。飲食店(とくにラーメン屋)は物凄く増えたので他の店に行ってみようかとも思うが,昼間はついキッチンジローに来てしまうなあ。
- 本郷まで歩いて13:00から保健学同窓会の理事会・評議員会に出席。たぶん10年以上都合が付かずに不参加だったので,この雰囲気は久々だなあ(衛生看護学科時代の1期生の方も参加されていて,学部3年生もいて,いろいろ混ざった感じ)。
- 以下あくまで個人的なメモなので聞き間違い等あるかもしれない。
- 健康総合科学科の教科書『環境・社会・人間をつなぐサイエンス:健康総合科学への21の扉』が7月頃に刊行予定(予定目次)という話もあったが,今年度は進振り(という名称もなくなったそうだが)で学部を超えた志望を出せなくなったという変更があったそうで,他に医学部に属する学科が医学科しかない健康総合科学科にとっては致命的な影響が出る恐れがあるというのは非常に悪いニュースだった(来年は学部を超えた志望も出せるように戻るそうだが)。東京大学でもこんなに不合理なことが通ってしまうのか。
- 今日が科研費意見募集の締切なので休み時間に人口学を分野とするか生物人口学を社会医学に入れて欲しいという意見をwebから投稿した。
- 北先生の講演「熱帯医学からグローバルヘルスへ」。小石川高校から理二,薬学部で博士をとってから理学部助手,順天堂大医学部助手,東大医科研助教授,医学系研究科国際保健の教授となり,昨年から長崎大学大学院熱帯医学・グローバルヘルス研究科教授(研究科長)。『ビヨンド・エジソン』の紹介。浪人中の昭和44年,お茶の水付近で江上『生命を探る』岩波新書を入手,それまで工学が好きで理Iを目指していたが理IIに進路変更。大腸菌の呼吸鎖の変更による適応の研究で博士号を取り,理学部植物の安楽教授の元で3年間助手をして鍛えられた。バクテリアに飽き足らなくなったので寄生虫研究に入り,順天へ異動(寄生虫の大家先生)。最初は回虫。自由生活中は好気的代謝,寄生中は嫌気性代謝なので,低酸素状態と高酸素状態の両方に適応できるように使う酵素を切り替えている。順天にいたとき,JICAの近代的検査技術の移転プロジェクトのチームリーダーとしてパラグアイに派遣された。調整員がいなかったので北先生が専門家兼調整員兼ドライバーだった。パラグアイの臨床検査技師は6年制で,LACMETという施設を作ったのに日本の専門学校卒の技師から教わりたくないという人が多く,プロジェクトが破綻寸前となり,Ph.D.をもっていた北先生が派遣された。開高健が好きだったので南米の自然と食べ物は楽しみだった。首都アスンシオンはジャカランダの花とかきれいな教会があった。村は土間の平屋の家ばかり。亜熱帯なので食べ物はふんだんにあり,人々は楽しそうに生きていた。村では牛車が交通手段。パラグアイは格差が大きく中間層があまりいない。1%の富裕層と多数の貧困層。熱帯病病院(パラグアイ厚生省中央研究所)で最初は寄生虫をみていたが,あるときからHIV/AIDS専門病院になった。JICAは各地に保健所を作った。看護師も派遣。施設や技術はpoor。手回し遠心分離機とか。発電機と遠心分離機をJICAがdonation。検体輸送車もJICAからdonation。WHOの制圧すべき感染症として,シャーガス病(後でアフリカでやった睡眠病と同じくトリパノゾーマによる)があった。皮膚リーシュマニアの患者もたくさんいた。顔に感染すると鼻が取れてしまうことがあるため「森林梅毒」という異名があった。まずは流行調査をした。サシガメ採集とか,指先穿刺採血による診断をしたり。けれども薬がないので診断だけすることは後ろめたかった。順天に戻って青木先生,医科研で小島先生の元で働いた。今の研究テーマは多種多様な寄生虫研究を中心に,国際医療協力,分子創薬,オルガネラの生物学,等々展開している。医科研時代はよくブタ回虫を1匹100円で買って研究材料にしていた。大村先生と共同研究をしたこともある。基礎研究を基盤にした抗寄生虫薬の創薬ということに関心がでてきた。嫌気的代謝で1つの鍵になるフマル酸呼吸系にかかわる酵素にフォーカス。寄生虫は真核生物なので宿主に似ていて,特効薬は少なくワクチンはない。17のNTDsの半分以上は寄生虫感染症。薬剤標的としてのミトコンドリア呼吸鎖は寄生虫からがんまで適用できる。その頃,生物医化学教室に来たら栄養学を講義しなくてはいけないということにショックを受けた。奥先生が講師でいて,飲みながらいろいろなことを教えてくれて助かった。耐震ワースト1だった3号館の対策委員長をしたのも思い出。改築の時に机を可動式にしたのは北先生の主張のおかげ。椅子の色を部屋ごとに変えたのも(懇親会のときに椅子を増やすのが簡単),エレベータホール前に簡単な待合スペースを作れたのも良かった。その後の研究の中でとくに力を注いだのはアフリカの睡眠病。ツェツェバエが媒介するアフリカトリパノゾーマが起こす。いまだにいい薬が無い。コッホの頃と変わっていない。そこでアスコフラノンという糸状菌が産生する物質(農学部の田村教授が1972年に発見)がアフリカトリパノゾーマに効くことを見つけた。ケニアのILRIでヤギを使った感染実験をしたら一晩で完治した。今は既に完全合成した4つの誘導体がマウスを完治させるまでになったので,次は家畜レベルで成功させ,実用化したい。最近,実はエキノコックスにも効くことがわかった。エキノコックスも薬が無いので肝臓が穴だらけになる。いまはアルベンダゾールという薬を使っているが投与中止すると再発する。アスコフラノン誘導体である新規化合物を投与すると完治する。しかも安全。実は抗がん活性もあることがわかった。熱帯医学・国際保健・グローバルヘルスと移ってきて,大事なところは何かということを皆さんと一緒に考えていきたい,ということで長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科の紹介。熱研と廊下も繋がっている。去年4月に熱帯医学専攻と国際健康開発専攻が合体してできた研究科。1年でMDがMPHをとるコースと,普通に修論を書く2年コースがある。単身赴任なので赴任直前に小西さんからイタリア料理のレシピをプレゼントされたそうだが,自炊はしないだろうとのこと(→それならぼくが欲しいくらいだと思った)。最後に次世代育成(血縁だけでなく)の重要性を訴えられて〆。
- 続いて,卒業論文奨励賞の発表2件。野寄修平「末梢静脈留置カテーテル刺入部位選択支援のための仮想超音波プローブシステムの開発」(総長賞も受賞)。元は理科一類で物作りを目指していたが,駒場で山本則子先生の話を聞き,人と物の両方をサポートするこの学科に来た。看護系からは総長賞は初。カテーテル留置は病院や自宅で良く行われているが,合併症が良く起こっている。良い部位を選べば中途抜去をしなくても良いはず。見た目では血管選択が困難な腕の人もいる。赤外線の機械もあるが実際より太く見えたりする。超音波検査を上手く使おうというのがアイディア。リアルタイム法とプレロケーション法の2つがあり,リアルタイムだと同時操作のために手技が不安定になるとか圧で末梢静脈が虚脱することがある。そこでプレロケーションで事前に超音波画像をとっておき,末梢静脈カテーテル留置時に3D再構築した画像が提示されるようにすることを目指した。HMDにより視野に提示されることで視診を妨げない。しかもプローブを使わず指で操作することで触診も妨げない。指先・位置マーカはHSV色空間における色,形状をもとに検出。カルマンフィルタを用いてノイズ除去し,画像のブレを抑えた。3次元表示により誰でもわかる。血管の重量,深さ,太さ等も表示される。患者約1名(臨床経験豊富な看護師が血管発見を困難と判断した)に対し,5人の看護師に使ってもらうことで動作評価。前腕正中皮静脈はシステム無しでは1人しか見つけられなかったが使ったら5人全員が発見できた。モノから人へ進路が180度転換したが,人と健康を支援するためにどのような方法をとるか,どうやったらintegrateされた健康科学の良さを出していけるかを考えながら頑張っていきたい。これは素晴らしい研究。総長賞をとるのも納得。HMDとか超音波画像を撮る機械はかなり汎用技術なので,ソフトが重要なところで(特許はとったのだろうか?),もちろん細かいパラメータ調整とかブラッシュアップとか臨床試験は必要だろうが,テルモとかニプロとかの医療機器メーカーに持って行けば,わりと短時間で実用化されそうだがなあ(まだメーカーからの具体的なオファーはないそうだ)。2人目は足立奈緒子「Reduced Rank Regressionを用いた日本人における食パターン抽出と循環器疾患発症の関連」疫学・生物統計学教室から。フラダンスサークル。公衆衛生全般に興味。RRRを使って3つの食パタンと疾患の関連をみた。単一栄養素の研究では相互作用や代替効果を調整できないことと健康影響につながらないことから,最近は食パタンアプローチが増えてきた。これまでは主成分分析が多い。疾患との関連は見えにくい。そこでRRRが出てきた。疾患と関連する栄養素摂取量のデータを用いる。栄養素摂取量のばらつきをよく説明する。疾患との関連を説明しやすいという利点がある。主成分分析とも比較した。対象はJALS統合研究(40-89歳の地域健診受診者について全国各地で行われてきたコホートデータをまとめたもの)。そのうち46,597名(男性35%)のデータを分析。食事調査はBDHQ。58の食品項目を24の食品群に分類。栄養素摂取量は専用の栄養価計算プログラムにより算出。性・年齢階級別に食パターンを抽出。循環器疾患発症との関連はCox回帰で分析。年齢階級別のRRR第一因子の因子負荷量が高いほどその食品をたくさん食べていることを意味し,負だとあまり食べていないことを意味する。RRR第一因子「野菜型」では「めし」はあまり食べていなかった。第二因子「動物性食品型」,第三因子「塩分の多い食品型」。主成分分析で得られたパタンは年齢階級によって異なっていた。RRRでの因子得点を独立変数としたCox回帰で野菜型のハザード比は急性心筋梗塞については野菜型得点が高い方が小さくなる。動物性食品型は脳出血のハザード比が小さくなるが脳梗塞とは関連無し。動物性食品型は乳製品と肉類が突出。脳梗塞は肉類摂取がリスクを上げるという文献があったので,脳梗塞では効果が打ち消し合ったのだろうと推論。塩分の多い食品はほぼ全部の循環器疾患のハザード比をあげる。野菜の脳梗塞への効果は性差あり。女性の脳梗塞はラクナ梗塞が多いせい? 面白いがRRRの仕組みが良くわからないなあ(→質問したら,回帰分析と主成分分析を組み合わせたような方法論ということだった。栄養素摂取量の影響も調整しているのが主成分分析との違いとのこと)。分析に使ったデータは個人ごとにエネルギー摂取で補正しているとのこと。
- 懇親会はいろいろな人と喋ったが(さっき発表していた野寄氏に研究の中心はソフト開発だと思うと言ったら,確かにそうだけれどもこの学科の卒業研究としてソフト開発だけでは許して貰えないので動作評価試験までやったという話だった。ぼくの卒業研究は人口モデルの開発で,ほぼ安定人口モデルのレビューとソフト開発だけで,シミュレーションは何度やっても日本人口が遠からず絶滅してしまう結果にしかならない失敗作だったが,研究内容には昔の方が縛りがなかったということか。あと,開発言語を尋ねたらPythonだそうで,やはり時代はPythonなのかと思った。あと,処理本体はスマホとかのポータブルデバイスではできないのか聴いてみたら,今のところ3D画像構築がCore i7のPCを2台使う必要があるほど重い処理なのだそうだ),ギター弾き語りで老人ホームなどの慰問をしているという先輩が披露したパフォーマンスを楽しく聞いた後で抜けた。本郷三丁目から大江戸線,浅草線と都営地下鉄を乗り継ぎ,京急で羽田空港に着いたら19:40になっており,20:05発のSkyMarkのチェックイン締切ギリギリだった。復路は予定通り飛んで,ポートライナーを貿易センターで降りてバスで帰宅。
- 今日のプロ野球はドラゴンズが勝ち,田島投手が開幕から連続試合無失点登板のプロ野球記録を作ったそうでめでたい。
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