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【第1852回】 日本人口学会2日目は数理セッションと,午後はどこに行くか迷っていたが,結局,堕胎と嬰児殺しの人口学のセッションを聞いた(2018年6月3日)

大井町からりんかい線で新木場乗り換え,新浦安のドトールで朝食をとってから明海大学へ。日本人口学会2日目。

数理人口セッション

午前中は数理人口の企画セッションに参加。演者は概ね数学,物理学バックグラウンド。進化生物学,生態学,疫学で共通に使われる単純なモデルとしての齢構造モデルをターゲットにした話。

人口動態と進化における固有関数
まずは組織者の社人研の大泉さんによる企画主旨説明と第1演題。人口動態と進化における固有関数。固有関数とは何かという話から。自然界を説明する数式が物理や数学に結構ある。例えばシュレディンガー方程式とか熱方程式とかLeslie行列とか。すべて線形方程式。固有関数は,方程式の作用素を与えると定数(固有値)を返す。Leslie行列では固有値と固有関数は年齢階級の個数分存在。連続モデルでは無限個存在。固有値と固有関数はこうした理論の解を構成する(重ね合わせの原理)。Leslie行列も固有値と固有ベクトルを用いて人口推移を表せる。最大固有値(内的自然増加率)とその左右固有ベクトルが人口増減を決める。左固有ベクトルは繁殖価,右固有ベクトルは安定齢分布を意味する。この2つのベクトルを用いて,各女性コホートの生存率と出生率が変化したときの内的自然増加率への感度を解析できる。例示。日本の人口構造とその感度。戦後すぐのベビーブームが人口増加を大きく支えたと考えられてきたが,感度は若齢の死亡率低下の方が大きい。2015年をみると,現在では30代の出生率変化の方が20代より感度が高い(30代女性の方がボリュームが大きいから)。保全生態学への応用として,感度分析は良く使われる。1980年代アメリカ,ジョージア州のアカウミガメの保護の齢(D.T. Crouse et al., 1987)。感度が高かったものか,定置網に若いカメが逃げられる穴を開けることで保全に寄与した。しかし人口動態を決めるのは齢構造だけではない。とくに自然災害や環境変動時。外的不確実性の影響とTuljapurkar近似。平均ゼロのノイズを加えてやって,その最大固有値への影響を調べた(Turjapurkar 1982)。摂動展開理論。環境変動は長期的に見ると負の影響があること,感度の高いパラメータの分散が人口増加率を減少させることがわかった。感度の高いパラメータは分散が小さいのではないかと予想。Pfister CA (1998) PNAS論文で,30種以上の分析からこの予想が支持された(平均増加率に対する感度が高い生活史パラメータほど分散が小さい)。質疑。1990年代から体外受精などが可能になってきたので,その頃の感度分析結果を知りたい。基本的には2015年の結果とパタンは大きく変わらないとのこと。現在体外受精5万くらいで,その大半は35歳以上だが,35歳辺りがどうなっているのか? ラフなモデルなので,35歳でとくに変わることは見えないとのこと。
1回繁殖型戦略における周期性と生活環恒常性の進化
第2演者は宮崎大学の今さん。応用数学がバックグラウンド。昆虫の人口動態の話。理論的な研究であり,道具や考え方は人間でも昆虫でも同じはず。似ている点は,年齢構造を考えることと,それゆえ,モデルもLeslie行列の拡張であること。R0を算出する(1匹の昆虫が一生の間に産むと期待される卵の数)。周期昆虫を対象とする。周期昆虫とは,一定の長さ(2年以上n年)の寿命をもち,n年に一度大発生する(Bulmer 1977)。周期ゼミの話。米国北部は17年,南部は13年周期。なぜ周期が素数年なのか(吉村先生の『素数ゼミの謎』に子供向けの説明が書かれていたが,今でも未解明だそうだ),なぜ周期的に大発生するのか,なぜ寿命が一定に保たれているのか,の3点の謎のうちとくに3点目に注目する。周期性を作り出すメカニズムとしては,捕食者飽和(Hoppenstead and Keller 1976)と競争排除が提案されている。しかし前提として寿命が固定されている必要がある。ケージで飼育したクマゼミでは資源にバラツキがあるので,寿命にもバラツキがでる。周期ゼミは寿命がばらつかない。ただし身体のサイズでみる成長速度には大きなバラツキがある。しかし成長の遅いセミも17年とか13年経つまでには成長が速いセミに追いついて同時に羽化する。資源の豊富さが異なるn種類の領域を考える。Di(i年で成虫になれる領域)として,Diが生息域に占める比率はpiとする。繁殖率f>0は育った領域によらない。産まれた卵の分布はランダム。生存率1>s>0は領域や年齢によらず一定。セミXは成熟したらすぐ羽化し成虫になるが,セミYは成熟しても育った領域によらずn年後に羽化する。YはXとの競争に勝てるのか? 勝てそうにないと直感的に思うが,鳥による捕食σaと定着σeを考えれば話は別。それぞれモデルにする。同時に羽化する個体が多いほど捕食から逃れる確率は上がることと,地下の個体が多いほど定着しずらいというモデル。R0をXとYについて考えると,常にXの方がYより大きくなる。しかし密度効果を無視している(「基本」再生産数なので)。侵入可能性を考える。捕食者飽和の効果が無いときYはXに侵入できず,XはYに侵入できるが,捕食者飽和の効果があるとYがXに侵入できる。つまり寿命が一定の方が有利になることがある。質疑。吉村先生の本の件を質問したら,吉村先生のPNAS論文(児童書の元になった研究)は周期性があることを前提としていて,周期性がなぜ生まれるのかを数理モデルでは示していない,とのこと。
時間遡及的見方による集団増殖率の解析
第3演者は東大生産研の杉山さん。バックグラウンドは物理。時間遡及的見方による集団増殖率の解析。研究目的は,人口学的興味としては,社会状況を整えることにより社会全体の人口増加を大きくしたいこと。医療的興味としては,投薬や環境変化によってがん細胞や病原性細胞の集団サイズを小さくしたいこと。集団の増殖率を定量的に制御したい。2つの異なる数学的解析手法を提案する。タイムスライス分布でみるやりかたと系譜上のパスを用いた解析方法。前者はシュレディンガー方程式,後者はファインマン経路積分。前者の研究が多いが後者が最近できるようになってきた。環境変動に対する集団増殖率の応答について示したい。集団全体の家系図のようなものを考える。上から下に時間が流れているとして,横切りにするのがタイムスライスの見方。Nt'(a, x)とNt(a, x)。tやt'は時点で,aは年齢,xは属性。ヒトでも細胞でも同じ。系譜的見方には前向き(子孫を追っかける。複数いる時は1人に注目して経路をみる)と後ろ向き(先祖を追う,遡及的)がある。系譜的見方は親子関係の情報をもっているが,社会全体の情報はもっていない。人口増加モデルを考える。ここでは性別は無いものと仮定。個人を特徴付ける変数をタイプと呼ぶ。x=(+, -, +, ...)のようなベクトルxで個人の属性を表すこととする。次にタイプに依存した出生率関数や死亡率関数を考える。関数の形は社会状況による。遺伝や相続を考える。完全に遺伝する(相続する)のと,まったく遺伝しない(相続しない)ことを場合分けする関数T(x|x')を考える。人口分布Nt(a, x)の時間発展方程式が書ける。この方程式を解くと各時点tにおけるNが求まる。人口分布Nt(a, x)から評価されるのは,xの各属性の割合とか,社会の年齢構成とか,人口増加率とか。固有値問題を解くと人口増加率が出る。同じダイナミクスは細胞増殖にも利用できる。しかし細胞増殖では最近,系譜情報がとれるようになった。時間前向きパスではランダムに子供を選んで追跡するので増殖の影響を受けない。遡及的パスではよりよく増えた個体を選びやすい。この2つの比較から集団増殖率を評価できる。変分形式で評価すると応答係数として社会のトレンドの変化と相続税の変化がわかる。遡及的パス上の統計量と前向きパス上の統計量は実際に細胞増殖系で得られる。質疑。長い世代数が必要(数学的正当性は無限大で保証される)。ラフには出せる。ギデラの4世代とかフリの10世代に使えるか聞いたら短いとのこと。しかし集団全体の横の情報があれば(例えば100本の系譜がとれれば)情報量的にはトレードオフになるので補えるそうだ。ということは,ギデラなら何とかなるのか? 世代時間の個体差はこれで分析できるのか? 変分方程式が解ければわかるとのこと。
ここで休憩。
基本再生産数R0の数学
第4演者は稲葉さん。R0とは。人口学では純再生産率(早い時期に提案されたが,あまり深掘りされていない)。感染症疫学では基本再生産数。個体のライフサイクルパラメータから計算され,個体群の本質的な成長の閾値を与えることで,個体レベルと集団レベルを繋ぐ。非線形相互作用がある場合,侵入した個体群の滅亡か存続かの閾値条件を与える。無限次元の状態空間で時間的にパラメータが変化する状況で基本再生産数は定義できるか? が基本的問題。前提条件として,漸近的な世代サイズ比という生物学的意味を持つ,定常的環境か周期的環境ならば閾値条件を与えることは保持される,の2点を維持するように定式化する試み。出生は再生方程式として定式化できる。m世代目の出生率の分布bmを考える。時間空間両方見る。generation evolution parameterとして(Ky f)(t)=∫ψ(t, τ)f(t-τ)dτ,f∈Y+と定義できる。xがorderedバナッハ空間であり,X+が再生しているとする。線形の正の作用素B:X→XはX+で上界があり,r+(B)=r(B)と命題2が立てられる。この拡張においてR0は時空でのスペクトル半径として定義され,R0=r(Ky)。侵入フェイズでのR0の式が展開できるとかいった応用がある。一般の時間変動環境においてR0は非線形。(ぼくの能力不足により,この発表は難解すぎて内容をフォローできなかった)。
感染症の数理モデル
第5演者は東京理科大の江夏さん。バックグラウンドは応用数学で感染症の数理モデルをしている。とくに時間遅れのある感染症伝播モデルが専門。パンデミックの事前回避のための流行規模の予測が有用。感染症の流行メカニズムを定式化。Malthusモデル+Kermack-McKendrickモデルの話と,近年の応用という話。イントロ部分は広く知られている話。Kermack-McKendrickでは,R0=βS(0)(1/γ)。データからR0を計算する方法はContagionでも出てくるという話。出生と死亡を考慮したSIRとしてHethcote (1976)の紹介。b=dのときは似たような微分方程式を立てることができ,終局的な感染予測ができる。b=0.01,d=0.0123だと1/d=80.98が平均寿命となりデータに当てはめやすい。厳密解を解くことが難しい場合でも,平衡点の安定性解析をすれば,収束点がわかる。個体の空間移動を考慮したモデルとかも立てることができる(出典:Du, Lin, J. Eur. Math. Soc. 17 (2010) 2673-2724)。質疑。最近の日本でクラミジアや淋病はそんなに増えていないのに梅毒だけ凄い勢いに増えている(とくに若い女性で)のは何故か? ということにimplicationある? 今後共同研究できれば,という話。bを考える話としては,難民や災害で新生児へのワクチン接種ができないときに麻疹のアウトブレイクが起こるという話があるが,どれくらいカバー率が下がるとアウトブレイクが起こるのかという境界条件の研究とかされているのかなあ。
性器ヘルペス感染症に対する数理モデルの構築と解析
第6演者は神戸大学の國谷さん。性器ヘルペス感染症(HSV-2)に対し,ワクチン効果と免疫の失効,再発の影響を考慮できる数理モデルを構築する。R0を導出し平衡点の安定性解析。SIRの例示。R0の説明。SIRではR0=β(b/μ)/(1+(μ+γ))。Gao et al.(2016)によるとブラジルのジカ熱のR0は2くらいだった。2種類の平衡点。R0>1のときはendemicな平衡点,R0<1のときはdisease-freeな平衡点が安定。R0>1でendemicな平衡点で安定であると仮定されることが多いが,これは自明ではなく不安定になる(周期解とか)こともありうる。安定性解析が必要。HSV-2については,ワクチンは未開発。再発リスクあり。Blower (2004),Alsallaq et al.(2010)はワクチン効果の検証をしているが,安定性解析はされていない。Lou et al.(2012)は女性のみワクチン接種可能なモデルを立てているが,最適なワクチン配分の男女比は議論されなかった。今回はSVIRモデルを立て,その辺も検討。Vはワクチン接種人口。防御は完璧で無い。1-σがワクチン効能。再発の項が特徴的。dI(t)/dt=(S(t)+σV(t))βI(t)-()I(t)+∫[0,+∞] δ(ξ)γI(t-ξ)exp(-μξ)dξ。さらに集団構造を考える。iとして個体の異質性(性別やパートナー数などを示す添え字)を考慮した拡張。E*としてendemicな平衡点,E0としてdisease-freeな平衡点,次世代行列,基本再生産数を求めた(Wang, Tessmer, Omori, 2017)。2001年〜2014年の米国性器ヘルペス感染症の患者報告数データを利用。過去一年間のパートナー数が0人〜5人以上の6通り×男女でiは1:12。R0=2.07 [2.03, 2.11]となり,感度分析すると2〜3の範囲となった。σが0.3以下ならば接種率vを上げることでR0<1にできるが,0.4以上だとvを上げてもR0<1にできない。接種率より効能が重要。男女配分は,均等にした方がR0を最小化できることがわかった。質疑。これ面白いなあ。HPVVのWHOのポジションペーパーだと女性だけ80%以上ワクチン接種すれば男性にはしなくていいなんて書かれているが,それってHPVとHSV-2の違いなのだろうか? と尋ねたら,HSV-2は再発が特徴的で,そのせいかもしれないということだった。もちろんWHOのポジションペーパーで採用されている研究が妥当でない可能性だってあるわけだが,ウイルス感染の自然史が異なるならモデルが違って当然だから,そこを確認してみたわけだ。ただ,再発の違いで男女配分の違いが出てくるとは思えないがなあ。早乙女先生から,再発中の感染リスクが変わるなど,実はもっと複雑というコメントがあった。

昼休みはコンクラーベというレストランで食べたが,パスタが物凄く美味だった。前菜とデザートも美味くて素晴らしかった。

企画セッション(7)堕胎と嬰児殺しの人口学

午後のセッションは大変迷ったが,小西さんが組織した「堕胎と嬰児殺しの人口学」に来た。趣旨説明によると午前中の歴史人口セッションとつながっているそうだ。組織者の問題意識は,不妊と意図しない妊娠は相互に関連している。生殖補助医療・養子縁組という対処法と避妊・人工妊娠中絶という対処がそれぞれ取られている。年齢と妊娠(受胎)待ち時間の関係(今度の人口学研究に掲載予定。オンラインでは既に公開されている)を見ると,一番妊娠しやすい年齢でも,3年経っても1割は妊娠しない。産みたくないときに産まないのは産みたいときに産むのとは別次元。出生コントロールの歴史的変遷を辿る,現代日本人のリプロダクションを形作っている要素の整理,リプロダクティブヘルスを向上させるために必要な未来への処方箋というのがこのセッションの報告内容。

座長は鬼頭さん。実は鬼頭さんが院生の頃はじめて人口資料に触ったのが懐妊書き上げ帳だったので,このテーマは思い入れがある。

子宝と子返し──近世農村の子育て・その光と影
第1演者は和光大学の太田さん。徳川後期農村における出生制限の動機研究,子返しの習俗と罪障感,避妊の問題,近世の子育てと「家」の継承,農村における捨て子:近世的な計画性の消失,という内容立て。会津藩の宗門改帳の研究によると低出生力と子返しがあったことがわかる。出生制限の動機と背景は,「困窮にして手間不足」「子沢山の不仕合」という言葉が残っている。凶作や飢饉のときは出生コントロール。子育てのさまざまな困難。子供の価値については「授かり物」と「手細工」という対立概念がある。18世紀半ばまでの文書は嬰児殺しを問題にしていた。それ以降は堕胎が先に触れられるようになった。
避妊史における江戸時代の謎
第2演者はFabian Drixlerさん(Yale Univ.)。「避妊しにおける江戸時代の謎」というタイトル。目的は問題提起。正解はわからない。江戸中・後期の夫婦が避妊を広く実行した証拠は,なぜ皆無に近いのか? が避妊史における江戸時代の謎。子供の数を意図的に制限したことには疑問の余地が無いのに。効果的な避妊手段適用の前提4条件(Coale AJの3条件を借りて):子供数は夫婦の意識的選択,個々の夫婦にとって子供数を少なくすることが有利とみなされること,効果的な避妊手段が利用可能であること,ともう1つ。西川如見(1721)『百姓袋』,小貫万右衛門(1808)『農家捷径抄』などに見られる。東日本におけるTFRを1650年から推定してみた。再生産シミュレーションモデル。インプットのうち文献から得られるものは多くなかった。シミュレーションで得られたTFRは実際より低い。1901年神奈川県データでも同様。つまり,モデルは「欠落児」=間引かれたまたは堕胎された子供の数を過少評価。1890〜1894年の死産率を見ると,千葉県の一部で4割を超えていた。精液が「子種」と呼ばれていたことから,膣外射精などのコントロール手段は可能だったはず。17世紀の『コリャード懺悔録』は1632年に日本語の教科書としてローマで出版されている。caracuriという言葉が避妊テクニックとして使われている。遊女は広く避妊をしていた。詰紙(=ペッサリー)は川柳では売春と関連づけられた。「雪隠へ 紙をほき出す 勤めの身」とか。しかし避妊が広く知られていなかったことを示唆する証拠も多い。司馬江漢(1811)は,ある地方では早く結婚するので子供が多く嬰児殺しをすると書いている。どの仮説も一長一短。
藁の上からの養子:産婆による仲介ケースからみた養育者の決定
第3演者は静岡大学の白井さん。「育てられない子を誰が育てるか」昭和初期,中期の養子仲介のありようを明らかにする。聞き書きなど質的なデータ。1993年から2012年まで113名のmidwifeにインタビュー。うち43名に養子仲介を行ったか尋ねた。昭和初め頃までの話が聞けた。1943年民法改正までは,婚外子のうち父が認知したものは庶子,認知していないものを私生子といい,母の戸籍に入った。「藁の上からの養子」とは,実子でないのに出生届を出してしまう例。産婆が仲介。どのように仲介されたか? 養子に出す人と養子を取る人の互いの顕名性(馬の骨を拾って育てることは無い)。親戚だと互いに明示する(→これ,ギデラとかと一緒だな)。貰う予定の女性は腹回りにタオルを巻いてカムフラージュするとかして,バレないようにする場合も。産婆は自分が関わらなかった「ことにする」。聞き取りによると,養子縁組仲介をシステマティックにやっていた助産所もあった。昭和30年代後半までは掲示板に「8ヶ月の女児 養子縁組希望 助産婦○○に連絡を」のような掲示をすることもあった。昭和13年の東京都産婆会会報に「乳児 八月生まれの子やりたし」みたいな広告が出ている。病院でも昭和30年代くらいまでは台帳があって貰いたい人が順番待ちしていた例があった。養子に出す側は双子とか東京に出した女中とか風呂屋に出した出稼ぎの娘とか。
バッテリが尽きるのでメモはとりあえずここまで。
休み時間に電源が取れる席を見つけたので続ける。
近年の日本における人工妊娠中絶の状況と要因について
第4演者は佐藤さん。親になることを阻止する戦略として,時期により禁欲,避妊,人工妊娠中絶,嬰児殺し,と整理できる。用語整理として,以下では中絶は人工妊娠中絶を指すものとする。人工妊娠中絶は旧優生保護法で合法化(堕胎罪による中絶禁止を解除)。現在は母体保護法。件数は1955年の117万件(実施率約50%)が最多で,その後緩やかに減少。2016年で17万件(実施率数%)まで減少。しかし実際はもっと多いと言われている。ただ,どれくらい多いのか,は誰に訊いてもよくわからない。国際的な中絶の統計をまとめているところからは,日本の値が低すぎる(こんなに中絶が少なく避妊も概ねコンドームなのに低出生では辻褄が合わない,というロジック)ので3倍にして報告して良いか問い合わせがあったことがある。何人かで相談して2倍くらいでどうかと答えたことがあるが,どうなったかはフォローしていない。しかし誰も本当の中絶件数はわからない。人工妊娠中絶の要因分解。佐藤・白石・坂東(2007)。英語版(2008)は社人研のサイトからワーキングペーパーとして入手できる。今後は出生前診断の影響が重要。方法として日本は掻爬が普通で,WHOが推奨する吸引は少なく,経口中絶薬は未認可。質疑。闇中絶で人が死んだら大問題になるわけだから,本当に1.5倍とか2倍もあるのか? 村松稔先生がシミュレーションした結果で1960年代に公表の2〜3倍は中絶あるだろうと論文に書いている。現役産婦人科医からのコメントとしては,保険も利かないし届け出なくても誰にもわからないので,届け出られていると信じたいがわからないとのこと。
中絶と人口政策の古今東西
第5演者は社人研の林さん。中絶と人口政策の古今東西,というテーマ。世界の国によって中絶に関する政策は異なる(国連でまとめられた資料も2013年が最新で,それ以後は出ていない。やりにくい雰囲気があるのかも:<注>これか? これか?)。中絶,性教育,LGBTは国際会議では激しく紛糾するissue。許される理由がいくつか挙げられていて,on requestでOKな国は理由7つ全部OK。日本は4つ。on requestはダメだし,先天異常は理由にしてはいけないことになっている。母親が死ぬとわかっていても中絶してはいけない国も4つくらいある。グアテマラ,バチカンなど。中絶が厳しい国は出生率が高い。フィリピンなど。中南米やフィリピンはカトリックの影響が高い。チリは長らく厳しかったが,2〜3年前に全部の理由でOKになった。on requestでOKの国でも実際の中絶率には大きな幅がある。この国連の数字自体正しいかどうかわからない。世界人口会議における避妊・中絶に関する議論としては,当初はプロパガンディストと抵抗勢力の大きなせめぎ合いがあった。家族計画という言葉さえなかなかおおっぴらに言えなかった。徐々にオープンになり,それから避妊や中絶を論じることができるようになった。1974年にブカレストで行われた第1回世界人口会議(学者のみならず政府が参加するものとして第1回)では,不法な中絶を減らしましょうと書かれている。第2回では中絶は家族計画の手段として用いてはいけないと書かれている。1994年のカイロ会議でさえ,法に反しないならば中絶OKとしか書かれていない。2014年になるとICPD-20でsafe abortionという言葉がでてくる。2015年からのSDGsではabortionについてはまったく触れられていない。古代ローマ・ギリシャでは家族計画も中絶もあった。プラトンも人口が増えすぎると妊婦は中絶すべきであると言っている。中世キリスト教圏では,ローマ教皇が中絶を殺人とみなすと言った。その前の時期にペスト流行による人口減少に対し,キリスト教会は魔女狩り(魔女=助産婦/中絶実施者)を実施し,避妊/中絶を禁止した(ハインゾーン,2008)。近代欧米でフランス18C末,英国19C初,米国1873まで合法化されなかった。米国は共和党政権か民主党政権かでスタンスが全然違う。トランプ大統領だけではなく昔から共和党政権はUNFPAに拠出しないスタンス。サブサハラアフリカは中絶に厳しい。しかし中絶率は高い。18世紀初のスリナムによるアフリカ奴隷は中絶していた。宗教圏にかかわらず中絶に厳しいのは旧宗主国のルールが残存しているためかも。(これは信頼性とかどうなんだろう? WHOの最新のfact sheetはこの研究所と合同で出したものだから,そちらに移管したということではないのだろうか? ともあれ,このトピック,医療人類学のディベートに使えるかもしれない)
指定討論・総合討論
指定討論者1人目は早乙女さん。産婦人科医から見た堕胎:戦後,日本は諸外国に先駆けて人工妊娠中絶を合法化したが,それは優生思想に基づいていたということで問題があったと指摘されている。日本の「子返し」は宗教的か民俗的か。施策に使えるものが歴史の中に埋もれているのではないか。国の利益を優先したために国が滅びるならそれは何かが違うんじゃないか。高校生の出産で学校は辞めなくてもいいというのが最近漸く出てきたくらい,日本は遅れている。
指定討論者2人目は沢山さん。長い時間軸,広い空間軸で捉えた点にこのセッションの意義がある。もう1点,人口という論点がもつ意味が明確になったというのも,このセッションの意義と言える。荻野美穂(2008)『「家族計画」への道』(岩波書店)と照らし合わせたときに見えてくるものがある。
その後は総合討論として,まずはフロアからの質問。香川大学村山さんから,キリスト教世界では聖なる人は結婚しない,だったのが,16世紀以降に価値観が転換し,全員が夫婦世帯として存在する世界になったから,林さんの整理はちょっと違うのではないか。黒須さんから,養子は家の話だったが,堕胎や間引きは誰が主体なのか? 日本の場合の親との関係を語って欲しい。UNFPAの大橋さんから,サブサハラをやっているので,若年層,とくに婚前の妊娠に関心があり,それが増えていることが中絶にどう影響するのか。もちろん,UNFPAとして中絶を奨励することはできないが。名前を聞きそびれたが女性から質問で,米国ではあるとき1930年頃からadoption agencyというNPOができて,それが1950年頃から有償になった。日本は非血縁の養子縁組が2万件あった時代にもそうしたフォーマルな大規模な仲介業はなかったが,産婆などのインフォーマルな仲介で説明つくのか? 日本は戸籍があるのが大きな歯止めになっているのか? 非育が捨て子になってしまうのか養子縁組になるのか。
各発表者からの返事があった。ドレクスラーさんの,水子供養は言い訳になるので,むしろ中絶を促進した可能性がある,というコメントは,まあその通りかもしれない。白井さんの聞き取りでは中絶より養子の方がマシという意見が随分あったので,変わってきているかも,ということであった。暴行などされた後の緊急中絶薬(妊娠反応が出た後)はどうなるのかという話で,60ヶ国の議論ではOTCとして自己使用可能にしようという直前まで来ているとのこと。そうなると統計が取れなくなって困るかもというのはあるが,仕方ないのかなあ。暴行されたときに妊娠を防ぐため排卵を抑えるmorning after pillは広めようという話になっているとのこと。バチカンだけが宗教代表として会議に参加しているのもおかしいという話もある。宗教観・生命観が欧米と日本では違う。「7歳までは神のうち」という言葉もある(それは,Yanomamiの母が抱き上げるまでは赤子は精霊というのと近いな。いまはだいぶ違う感覚になっていると思うが)。

そこで時間になったのでセッション終わり。まとまらなかったと思うが,まあそれは仕方ないか。というわけで今年の人口学会研究大会も無事に終わった。疲れたので,最終飛行機で神戸に飛んで直帰したら,たぶん何もせずに眠ってしまうだろう。

新浦安まで歩いて京葉線で新木場,りんかい線に乗り換えて天王洲アイル,モノレールに乗り換えて羽田空港着。発券してから肉そばとミニ天丼のセットを食べ,手荷物検査場を通って22番ゲート前でボーディング待ち。

今日のドラゴンズは快勝だった模様。40歳の山井投手,日本シリーズで準完全試合をやったときみたいな好投が続いていて,前回登板時の完封から通算15イニング連続無失点。これはもしかすると,指に負担がかかるスライダーを解禁したのだろうか。最近攻守に精彩を欠いていた福田選手が大活躍だったし,今後に期待がもてそうな気がした。しかし3試合で5本のツーベースと,ドラゴンズの背番号3の代名詞といえる立浪選手がプロ野球記録をもっているのでその名をもつ「ミスターツーベース」を襲名しつつある,今の背番号3である盒脅平選手を,いくら相手が左投手だからって,出さないというのは,長い目で見ると残念。

神戸空港着は予定より若干早かったが,21:10のポートライナーには乗れなかったので,貿易センター前でもバスが出たばかりで,結局終バスで帰宅。いや本当に疲れ果てた。

ハモれでぃおを聞いていたら,リトグリ5人の頭の回転が速いのに唸った。あのヒントで青森と鳥取が出てくるとは,記憶力も相当なものだな。読めない漢字があったりするのは,小さい頃に勉強する機会が足りなかっただけと思う。「もっと勉強しておけば良かった」とまだ思っているなら,潜在能力は高いので,今からでもぜんぜん遅くはないと思う。

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