プレプリントサーバに載っているLSHTMのKucharski准教授のグループ? の筆頭著者が日本人の論文Endo A et al. " Estimating the overdispersion in COVID-19 transmission using outbreak sizes outside China"(2020年4月9日)は,二次感染者数の過分散を推定しているモデル。"Dispersion vs Control"以来,Covid-19についてはたぶん4本目か。負の二項分布を当てはめている。結論で書かれていることは,発生予防を含むクラスター対策の有効性を強く支持する。TwitterでIdaさんが指摘された通り,いくつかの感染症について二次感染者数の過分散があることはわかっていたし,Lloyd-Smoth JO et al. (2005) "Superspreading and the effect of individual variation on disease emergence"によって,それまでSTIやベクターが媒介する感染症の現象とされていた二次感染者数の過分散が,SARSのような直接感染する呼吸器感染症でもあることも示されていたが,Covid-19で過分散があることを示したのは"Dispersion vs Control"がたぶん最初で,それを読んだときにハーバードのLipsitch教授も気づかなかったであろう「二次感染者数が多いケースに共通する条件を探せば予防できる」という着想は,西浦さんの天才性に他ならない。見つかった共通条件が,換気の悪い閉鎖空間で人が密集するという,古くから感染症リスクとして知られていたことと一致したというのは結果に過ぎないし,その点が欧米ではCovid-19対策として重視されなかったことが感染爆発の原因の一つだと思われるので,西浦さんたちがプレプリントサーバに載せた論文で,オッズ比がきわめて大きいので,3つの密を避けることがクラスター発生予防に有効で,そうすればRを1未満にできるかもしれないと主張したことはやはりきわめて重要。WPROが2020年5月15日に出したレポートでは,日本のクラスター対策に触れているが,西浦さんたちのプレプリントサーバの論文は参照されていないことを考えても,まだそれほど知られていないということなのだろう。早く記述の甘いところを直して,トップジャーナルがアクセプトしてくれれば良いのだが。Idaさんはナショジオに追記することを求めていらっしゃるのだが,あの文脈に追記するのはおかしいと思うので,ここに書いておく。