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【第450回】 遠隔指導など(2020年7月17日)
- 7:30起床。今日も77.50 kg。98%,36.8℃。
- 東京発着を対象外にして始めるというGoToトラベルだが,伊豆諸島とか小笠原諸島が東京であるために対象外になる不合理性を別としても,もはや東京発着の移動量を減らすだけでは感染拡大は防げないだろうし,これだけ全国で感染者が出ている状況で観光旅行を増やしたら接触は増えるから始めるべきではない。昨日だったかtweetしたが,観光地などで経営が逼迫している人たちに直接補助を出せば良いので,税金を使って感染拡大させてはいけない。観光復興はNZや台湾のように新規感染者ゼロが2週間続いてからやれば良いし,そもそもGoToトラベルを含むGoToキャンペーンって,提案されたときは感染終息後の経済対策という話ではなかったか?
- Natureの論文,Hao X et al. "Reconstruction of the full transmission dynamics of COVID-19 in Wuhan"(2020年7月16日)は,かなりのNPIs(薬剤によらない介入)実施によって地域封じ込めに成功した武漢の事例を振り返るという視点で,1月1日から3月8日までに武漢で確定診断がついた32583全症例のデータに基づいて,発症前の感染性,確定診断が付く割合や伝播速度や人口移動の経時的変化を考慮した数理モデルを用い,この期間に武漢で起こっていた感染の全体像を再構築することを目的とした。要旨ではこの感染の重要な特徴はhigh convertnessとhigh transmissibilityであると言っていて,その後を読むと,3月8日までの感染の87%(推定下限53%)は確定診断がついておらず,そのときのR0は3.54(95%信用区間は3.40-3.67)でSARSやMERSより高かったが,長期間にわたって複数のNPIsを組み合わせた対策を行った結果,3月8日までにRは0.28(95%信用区間は0.23-0.33)まで低下し,新規確定患者数ゼロが2週間続いた後ですべての対策を止めた場合の再流行確率は0.32(確定診断がついていない感染が87%の場合)から0.06(53%の場合)と予測されている。経済活動をちゃんと再開したかったら,順次緩めるのではなく,このようにきちんと封じ込めるまで対策を続けるべきで,それで生活がもたない人や業種に対しては,直接給付によって生活を支えるのが政府の役割であるべきだろう。GoToキャンペーンは旅行代理店や広告業界を潤すことになるから,それに依存しているメディアでも利害関係者が多すぎて批判されにくい面があるのだろうし,アドヴァイザリーボードも愚策Aともっと酷い愚策Bの2択でAを選んだという話ではあるのだろうが,機能していないなあ。前専門家会議が勝手に廃止された時に読めていたことだが。
- 今日は10:00からと14:00からの遠隔相談が入っている。午前のは自宅から,午後のは名谷キャンパスからにする予定。
- もし緩やかに経済を回しながら2年間耐えるつもりで東京の感染が収束していない段階で行動制約を解除したのならば,昨日の麻生派の会合みたいな大規模なmixtureとか,既に多くの店で普通に見られる対面での飲食は,感染が終息するまでは許可すべきではない。なし崩し的に東京も緊急事態宣言が解除されたことからすると,日本の政府はNZや台湾のような終息あるいは排除を目指していないのだと考えられ,そうだとすると3月のレベルまでしか行動制約を緩めることはできない(小中学校は開校できると思うし,野球やサッカーの観戦も今のやり方ならリスクはそんなに高くないと思うが)。
- "2014 NHPI NHIS Data" を R にインポートというブログ記事に書かれている通り,手作業でspssのコードをRに移植しかけて,あまりに煩雑なのでほぼ断念していたが,裏RjpWikiさんがコードを書いてくださった。なるほど,手作業で書き直すよりは,パターンを見つけて自動書き換えする方が効率良いなあ。ありがとうございます。
- COCOAの普及とHER-SYSの稼働が遅れている現在,積極的疫学調査は相変わらず保健所職員が人力で行うしかないわけだが,厚労省が公衆衛生学会や疫学会を通して,担当職員を臨時雇用するための予備登録受け付けを始めた。感染研の新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領や,公衆衛生学会の保健師のための積極的疫学調査ガイド[新型コロナウイルス感染症]のように参考資料も公開されているが,Wordで公開されている取組概要説明によると,専門職者対象なようだ。
- Lancet Public Healthの論文で,Kretzschmar ME et al. "Impact of delays on effectiveness of contact tracing strategies for COVID-19: a modelling study"(2020年7月16日)は,感染者が減り始めた国ではロックダウンが緩められつつあるが,対人距離確保が継続されても,流行を制御するためには他の方法も必要で,とくにスマホアプリを使った接触追跡が重要で,接触追跡が成功するためには何が鍵かを明らかにすることを目的として,感染から発症までの時間遅れと,発症から検査と隔離までの時間遅れ(検査遅延)を明示的に取り入れた確率論的数理モデルを使い,接触追跡戦略の各段階での即時性と捕捉の完全性の効果を評価したというもの。検査遅延・追跡遅延が0日で捕捉100%という理想的な場合に,伝播の40%が発症前に起こっていると仮定し,実効再生産数が1.2であれば,接触追跡によって0.8に低下すること,検査割合と追跡捕捉率が80%でもその効果は同様であること,実効再生産数を1未満に保つためには,検査遅れが1日あるときには,追跡遅れは最大1日,追跡漏れは最大20%以下でなくてはいけないこと,検査遅れが3日以上あると,他のパラメータが理想的な値でも実効再生産数が1未満にならないこと,たとえインストール割合が20%であってもスマホアプリによる接触追跡が追加されれば,人力の接触追跡だけの場合に比べて実効再生産数の低下が大きいことなどが示されている。シミュレーションなのだが,コードはMathematicaで書かれていて,Githubに公開されている。最近だとMathematicaは珍しい気がする。なお,検査遅延によるRの増加を防ぐためには,もう1歩進めて濃厚接触が判明した時点で検査なしで自己隔離可能にする方がさらに効率良いはずだが,少なくとも要旨にはその考察は書かれていない。
- 感染症対策のためには,移動制限など私権の制約を要する場合があるというのは,別に目新しい話ではなく,検疫法や感染症法で法制化もされているし,長い議論の末に到達した公衆衛生的合意。WHOも倫理的考察をまとめた文書(2016年)を出している。
- 今日のドラゴンズはタイガースに4-1で負け。ビシエド選手だけ猛打賞だったが,青柳投手にやられすぎ。再び最下位か。
- 23:30からオンラインで開催されてきたuseR!2020のbreakout sessionがあってYouTubeで見ていたが,多様性とか公平性にフォーカスされた,実にオープンでフリーなソフトウェアユーザコミュニティらしいものだった。このセッション自体,リアルタイム字幕がついて聴覚障碍のある方に配慮されたものだったし,世界各地からの参加だったし,オンライン開催ならではの良さがあったとも考えられる。今年のuseR!はSeamless R and C++ integration with Rcpp (D. Eddelbuettel), tutorialとか,いろいろアーカイヴがYouTubeに残っていて素晴らしい。
- 完成度は不十分というか記述の詰めが甘いが,rev3をアップロードした。
(list)
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