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【第641回】 土曜の代休だが名谷へ(2021年2月2日)
- 7:30起床。81.35 kg,98%,35.5℃。
- 今日は土曜に六甲に出勤した代休日なのだが,いろいろ仕事が終わらないので名谷キャンパスへ出勤。
- 10:00から遠隔で,かつて准教授として8年間お世話になった群馬大学公衆衛生教室・小山教授の最終講義「私の公衆衛生学」に参加。総合診療の田村先生が今では病院長なのか。インドネシアからたくさんZoom参加している(が,学部生向けの最終講義でもあるので日本語で行われるようだ)。以下メモ。
- 略歴から最初の講義でのWinslowの定義(Science,1920)の話,scienceでもありartでもあるとはどういうことか,communityとは何かということを40年間考えるに至った,という導入。artとはartificialなものとしての法律,制度,ガイドラインなど,scienceとはnaturalなものの中でヒトが解き明かせた部分。science and artというのは,人が知り得て作り得たもののの総体。一体の物としてscienceをartに活かさねばならない。大気汚染に関わる環境基準が二酸化窒素だけ昭和53年に大幅緩和されたことが日本鉄鋼連盟が専門委員に研究費を配っていたことが問題になり,当時学友会に入っていた小山先生は,学友会としてそれを問題にし,委員の一人だった教授の授業をボイコットした。同時にその教授に話を聞きに行ったら,環境基準のscientificな決め方についての本を渡され,dose-responseカーブで有害性のエビデンスがなければOKというLOAELの考え方で説得されたが,その後考えていくうちに健康の側からのアプローチであるNOAELの方が重要ではないかと思い至った。基準値の決め方とその大切さも痛感して公衆衛生に入った。次はセレン研究の話。大迫での疫学研究,臨床研究,マウスの実験,in vitroの実験といろいろやってきた。周期表からセレンを含むタンパクとしての25種類のセレノプロテインの話へ。抗酸化酵素が多い。GPxとか。大迫では9年間のコホート研究。アウトカムは脳卒中発症。元々は東北大学今井潤先生の研究。Ohasama study自体は世界的にも有名で,WHOの血圧基準にも取り入れられている。脳卒中発症群と健康対照群で血清セレン濃度を比べると前者の分布が低い方にズレている。HPLC-ICP-MSを開発して血清セレン分別分析したところ,違っていたのはGPx3やアルブミンではなくセレノプロテインPだったとわかった。その後もセレン研究は続け,その科学的知見がセレン欠乏症の診療指針2018策定にも取り入れられたのはscienceがartになった一例。セレンとがん放射線療法について,in vitro実験と臨床応用例のレビューにより,放射線療法ガイドラインへの提言を行った(Handa et al., 2020)。今後,ROSが関与する病態手術や糖尿病との関係(欠乏だとROS増加により,過剰でもインスリン分泌が落ちるのでリスクが上がる),至適血清セレン値を明らかにしていくことが必要。次はcommunityとは何かということで庄亮先生だ代表だったインドネシアのフィールド調査の話。人類生態学的な調査として,コミュニティの一員として暮らしながら調査するという手法。Posyanduのさまざまな活動に関わる中で,個人衛生では限界があると感じた。国内移住地Air Salehでは環境条件から安全な水の確保が難しく,乳児死亡率が異常に高かったので,インドネシア政府に提言してタンクを整備して貰うことに繋がった。ここまで対象としたcommunityは村レベルだったが,次は群馬県というレベルでのcommunityはどうかという話。群馬大学公衆衛生学教室は,1949年にできた当初から県と連携して(県知事から教授への委託で報告書が出ている)公衆衛生課題に対処してきた。小山先生が2002年に公衆衛生の教授となってから,県の健康課題として重点的にやってきたのはがん対策であった。地域がん登録と重粒子線医学センター構想(当初は課題山積だったが2009年にセンター完成,2010年から治療開始)。がん登録,がん対策はコミュニティで行こうと考え,「がん疫学ネットワーク」を作って公開シンポジウムで垣添先生を招いたりした。2005年から群馬県地域がん登録連絡協議会,2006年から群馬県がん対策協議会ができて,病院も巻き込んだネットワークができた。国ががん対策基本法を成立させたより先んじていた。2008年から群馬県がん対策推進計画(第一次)開始,5年ごとに改定しているが,第二次を作るときから小山先生は策定部会長となり,専門家だけでなく患者会,一般県民,現場の声を計画に反映させるよう努めた。ぐんまの安心がんサポートブックにその成果は反映されている。小児慢性特定疾病の医療費助成(20歳未満)と介護保険制度(65歳以上)+がん介護保険制度(40-64歳)の隙間になる20-40歳の支援制度創設を提言(アンケートの結果ニーズがわかったので)。自己責任ではなく,みんなで考えみんなで支える制度を。SDGsの誰一人取り残さないの実行。例えばリレーフォーライフはがん患者と医療従事者の絆で,群大付属病院や日赤など「みんなで支える」の実践。別の例として,コロナ禍におけるがん検診。2020年度に「仲間をつくってがん検診」キャンペーンを考えていたが,コロナ禍で中止せざるを得なかった。4月からがん検診を受ける人が減り,6月以降手術件数が明らかに減った(調憲,2020;それを紹介する新聞記事)。「3つの診」[3S](=できればがん検診,自分でも自己検診,症状があったらすぐ受診)を提案した。次はパジャジャラン大学との交流の話で,最後は人と人のつながりとしてのcommunityの話。さまざまなレベルがあり,最も大きいのはグローバル社会だが,一人一人が各レベルそれぞれのコミュニティの属している。ハーバード情熱講義のサンデル教授がいうところのcommunitarianismは全体主義とは違い,個人個人を大切にし,そのつながりを大事にするもので,個人は必ずコミュニティの一員であり他のメンバーと関わっている,という状態の自覚をsituated-selfと呼んでいる。河内一郎教授の,年齢調整死亡率と「多くの人は信用できない」と答えた人の割合の間の正の相関関係を示す地域相関研究から,ソーシャルキャピタルの重要性。ウェストパプア州での学生交流プログラムで,MMRやIMRが高いこと,医療資源不足などに対して,社会環境改善が必要(生活習慣病というよりも社会環境病と呼ぶべきとかつて話されていたことを思い出した)と話すと,学生は教育(個人衛生のではなく,公衆衛生の教育)や開発が必要だと言ってくれて気づきがあった。個人には基本的人権があり,かつ独立ではないため,相互に他者の人権を尊重し信頼関係をもつことが,コミュニティにおいて公衆衛生が成り立つ条件。学生への提言として,海外での経験,海外の研究者とのつながり・国際学会への参加,宗教的な違い・違う意見に触れること,「あっち側」「こっち側」という社会的分断ができがちだが,「あっち側」をつくらない工夫,基本的人権の尊重・国民主権・国際協調(実は日本国憲法の基本原理),といったことの重要性。共食儀礼を通じた仲間意識を養うことをインドネシアで学び群馬で実践してきた(この1年はコロナでできなかったが)。最後に医師法1条を挙げられたが,その意図がこの話を聞いた群馬大の医学科の学生に伝わっていれば良いなあと思う。花束贈呈と挨拶でわかったが,鯉淵先生と石崎先生はまだ在任なんだな。息子さんサプライズ登壇は嬉しかっただろうなあ。それと,画面越しに見える内田先生や山崎先生が元気そうで良かった。小山先生には,心から,お疲れ様でしたと申し上げたい。
- 昼休み後は昨日の期末試験の採点とか。
- 終わらなかったが,20:30過ぎに帰途に就いた。明日が締め切りな某査読を先に済ませなくては。
- 晩飯を食べ終わったのが22:00近かったのは嫌な予感。それにしてもヒンズースクワット30回で息が上がるのは我ながら情けない。
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