イングランドでの変異ウイルスB.1.1.7についてのモデル当てはめ論文がScienceから出ていて,Davies NG et al. "Estimated transmissibility and impact of SARS-CoV-2 lineage B.1.1.7 in England"(2021年3月3日)なのだが,詳細な方法論や補足的な解析結果がSupplementary Materialで提供され,解析コードやデータが,筆頭著者のgithubプロジェクトや,"Local area reproduction numbers and S-gene target failure"というプロジェクトのgithubページで提供されている。イングランドのデータから多項スプライン回帰やロジスティック回帰によって,B.1.1.7系統のVOC 202012/01がそれまで優占していたB.1.177よりも1日当たり0.104増加率が高く(世代時間が5.5日だと仮定すると,再生産数が77%大きいことになる),他国のデータを使っても,VOC 202012/01は他の系統に比べて同様な再生産数の高さを示したこと(デンマークで55%,スイスで74%,USAで59%)から,感染力が大きい原因として5つの仮説を立てて,データへの当てはまりの良さを比べている。5つの仮説とは,(1)ウイルス排出量が多く1回の接触当たりの伝達係数が大きい,(2)ウイルス排出している期間が長い,(3)スパイクの∆H69/∆V70欠失変異により,既存ウイルスへの免疫がある人でも防御効果が低い,(4)子どもへの感染力が強い,(5)世代時間が短い,である。一連の死亡,入院,ICUベッド占有,PCR有病割合,血清陽性割合などのデータへの適合をDIC (Deviance Information Criteria)で調べたところ,仮説1が最も良く当てはまっていた(しかし,これらの仮説を組合わせてもすべてのデータに共通するメカニズムは見いだせなかった)としている。仮説1の伝達係数が高いモデルを採用すると,感染当たりの入院率や重症化率には有意な差が無く,VOC 202012/01は他の系統と重症度に差があるとは言えなかったとのこと。BMJやNatureの論文とは異なる結論で,データも違うが,方法論の違いによるところが大きいと思う(この論文の方法の方が細かく考えているが,その分仮定が多い)。