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【第684回】 日本オセアニア学会第第38回大会オンライン(2021年3月18日)
- 6:30起床。81.05 kg,97%,35.7℃。
- 今日は9:00から日本オセアニア学会第38回大会がオンライン開催される。
- その前に,学生の健診のために,電気室のネットワークケーブルの接続を変更するという作業があるので,8:30までに出勤する必要がある。
- ネットワーク作業は無事完了。9:00からオセアニア学会開始。参加者の1人という形でタイマーが表示されているのは便利だと思った。どういう仕組みなのか検索してみたら,ここやここで説明されているように,ウェブアプリやタイマー表示ソフト(KTimerなど)をOBS Studioにキャプチャして,Zoomの参加者の1人としてOBS Studioをビデオ入力にすれば良いらしい。座長や発表者はギャラリービューにしてタイマーをピン止めしておけば良いわけだ。これは便利だなあ。以下メモ。
- 会長挨拶,石村さんによるポリネシアでいったん社会階層分化が進みながらAotearoaに移住して社会がフラットに戻った理由の議論,山本真鳥さんによるオセアニア奴隷貿易と年季契約労働の話,矢野さんによる明治大正期日本語資料によるサモアの話,と続く第1セッション。オセアニア学会は地域研究なのでテーマがさまざまで面白い。矢野さんが最初に紹介された,海外でも日本でも太平洋諸島史の専門家はくずし字や古文が読めないという壁があったが,最近,AIを使ったくずし字の活字化(翻刻)が進んで,KuroNetなどにより,利用できる史料が増えたというブレイクスルーは面白かった。
- 第2セッションは深山さんによるCOVID-19パンデミック下でのNZマオリによるラーフイの宣言という話。"Stay in your bubble" (E noho ki to rafui)というCOVID-19排除に奏功した政府方針と先住的環境思想の「拡大」の関連。rafuiを検索してみると,これとか,これとか,これがヒットした。マオリには元々行動制限の仕組みがあったということか。宣言とCOVID-19コントロールとの実効性はわからなかったので質問してみた。rahuiは景勝地や観光地での宣言が多かったので三密を避ける方向に機能したと考えられるが,そこでクラスターが発生したとは限らないとのお答えであった。次の発表は大島さんによるカヴァ再考という話。人類学的研究(儀礼・嗜好品としての機能主義的あるいは象徴主義的な解釈→異種混淆的で変化するカヴァ文化) vs 医学・生物学的研究(グローバル化,薬物・依存)という軸でのレビューから今後への展望を語るというスタイル。次の発表は山口さん(たぶん古澤さんのところの学生)でテモツの環境と暮らし。COVID-19パンデミック直前のタイミングでテモツで調査をしてきたのはそれだけでも凄いが(行くだけでも大変なところなので),それを文献レビューと衛星画像を組み合わせて議論している。テモツには高い島と低い島があり,その比較研究。気候変動の影響については環境資源の現状からの推論に続いて,衛星画像によって海面上昇の影響を評価。15年間で,どちらの島も海岸線が前進したところと後退したところがあり,前進したところではココヤシ被害あり。低い島の人々は海面上昇の影響をより深刻に受けていると語っていたとのこと。陸地面積の増減だけでなく,人々の暮らしへの影響も含めて総合的に考えるべきという考察。
- 続けて総会(評議員会で会長候補となっていたのだが,正式に承認されてしまった。あと,次回の研究大会は長島会員が担当される)とオセアニア学会賞授与式(大津留さん)と石川榮吉賞授与式・記念講演(山本真鳥さん)。個人史の紹介とともにオセアニア学会草創期からの歴史が語られて興味深かった。
- 第3セッションは慶應の山口さんによるクック諸島の考古学的な研究の話から。新しい年代測定データを使って考え直すと東ポリネシアへの初期居住期のストーリーが,これまでのオーソドックスなストーリーとはまるで違って見えてくるという,大変面白い話だった。次も,棚橋さんによるクック諸島プカプカ環礁の話だったが,墓と埋葬関係を軸にした社会的レジリエンスとislandscapeというテーマ。墓地のGPS実測調査と形成過程の歴史調査をしていたがCOVID-19パンデミックのため中断し,今回は中間報告。出生時に墓地の割り当てが決まるが,父系選択を基本としながら地理的・社会的にバランスの取れた埋葬分布の維持のため柔軟になされるという話。次は再び考古学で,島崎さんによるマリアナ諸島の後期プレ・ラッテ期の網代圧痕土器(パンダナスやココヤシの葉で編まれたマットの跡が模様としてついた土器)の話。
- 第4セッションは木村さんによるトレス海峡諸島民の伝統的養子縁組の話から。木曜島のアジア系島民の出自と伝統的養子の絡み合いについての,2020年2月から11月までの現地調査(!)の報告。COVID-19のためロックダウンになり島から出られなかったという。トレス海峡諸島は平時なら国境などほとんど関係なくPNGとカヌーで往来があるが,COVID-19中はどうなっていたのだろう? きわめてディープなケーススタディで,どの程度一般化できるのかはわからなかった。次は片岡さんで「フィジーにおける記憶の政治利用と集合的記憶が民族関係に及ぼす影響」というタイトル。集合的記憶とか民族記憶という概念がキーとなる発表なのだが,それ自体難しい。Halbwachsにより提唱された,過去を想起する際に参照される社会的枠組み,とのこと。グローバル時代,デジタル時代においては,デジタル・スペース(SNSとか?)が集合的記憶が形成される新たな場として概念の再構築が行われてきたところだそうだ。マラへのクロス・リスペクトは分断社会では稀という話とか,多人種主義という概念がフィジーでは頻繁に集合的記憶に落とし込まれているとか。ストーリーとしてはもっともらしく思えるが,言説から集合的記憶を推定するやり方の妥当性がどう担保されるのかがわからない。次もフィジーの話で,丹羽さんによる埋葬形式の標準化が19世紀後半以降にどのように起こったかという,宣教師などにより記録された民族誌的な資料を通しての検討。墓堀人とか洞窟への放置といった話は興味深いが,宣教師による記録は,教化のために脚色されている可能性はないのだろうか? と少し気になった。1845年に大首長がメソジストに改宗したことで埋葬観が変化した後,植民地政府による埋葬場所の法的制限などを経て,1930年代あたりに今の形式の埋葬が広がったのではないかという推定。これで一般発表は終わり,残るはミニシンポジウム。
- ミニシンポジウムは,海洋研修航海から考える大学教育と人的交流の可能性というテーマで,東海大学望星丸の経験について3人の教員が紹介。ある年は50日間かけ,横浜発,タヒチ,ラパヌイ,サモア,ポンペイにそれぞれ3日くらいずつ寄港・滞在(現地の大学などと交流)して帰国するというスケジュール。船上で赤道祭とか海洋観測,海洋生物観察,天体観測などがある。"Think Ahead, Act for Humanity"という標語が格好良い。海洋観測は面白そうだ。日本船籍をもった外航客船は,望星丸を含めて現在4隻しかないとのこと(商船の場合,船籍は外国にしているものが多いため)。東海大学グループ27000人余の学生のうち1年当たり100人ちょっとが参加。凄い労力をかけて学生にチャンスを与えていて凄いプログラムだが,医学部はカリキュラムが詰まっているから50日の航海には参加できないんじゃないだろうか? できるとしたら,どうやって日程調整しているのか謎。濃い人間関係ができ,強制的脱スマホ依存ができるが,揺れや船酔いや直射日光に耐えねばならない。しかし学生にとって学べることは自然,環境保護,歴史,文化遺産,経済などいろいろな側面の理想と現実を現地で肌で感じられること(とはいえ,たかだか3日では「現実」に接する深さは限られていると思うが)。船で行くことは,世界が海で繋がっている感覚と,空気の流れ,海の色,太陽光,黒潮超えなどの地球環境を実感できる点に意義があるとのこと。
- というわけで,朝から晩までさまざまなオセアニアの話題を聞いた一日だった。
- ミューズノートを聴きながら眠った。担当がかれんとmanakaで,相対性理論の「気になるあの娘」(傑作アルバム『シンクロニシティーン』所収)を小学校4年か5年の頃によく聴いていたというmanakaはやっぱり凄いと思った。とはいえ,相対性理論といえば,何と言ってもデビュー作『シフォン主義』の「LOVEずっきゅん」が革命的だったと思うが。
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