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【第730回】 今日は名谷キャンパスへ出勤(2021年5月7日)
- 6:30起床。81.15 kg,99%,36.0℃。
- 通勤途中の地下鉄の中で『分水嶺』を読んでいると,いろいろ残念でならない。専門家会議の少なくとも一部の方は,自身の立ち位置をリスクマネージメントの一部と捉えていたのであろう。そうでなければ,専門家会議から政府への提言に政府が勝手に加筆修正を加えた上で「専門家会議からの提言」として発表されるというような状況(これは本書を読んで初めて知ったが言語道断の愚行だ)を許容できたとは思えない。夏に廃止された時に言い訳として位置づけが曖昧という理由が挙げられていたが,だからこそ専門家会議はリスクアセスメントに徹して,提言は素のまま,政府に送るのと同時に公表してしまうべきだった。リスクアセスメントはリスクマネージメントから独立していてこそ信頼性が保たれるし,健全なリスク対処ができるのだ。提言内容に対して政治判断から取捨選択するのが政府の責任であって,提言に従わない部分は理由を明確にしなくてはいけなくなるので,政策から曖昧な部分が消えて,公衆衛生行政への信頼が保たれたはずだ。本書には「たとえば専門家会議など役所に近いところのクレジットで文章が出ると,メディアや国会からはなぜできないんだと責められ,その説明に負われて,本来やるべき対策ができなくなることを役所は懸念しています」という齋藤智也さんの分析が出てくるが(p.85),そこを説明しながら進めることでしか行政への信頼は保たれない,というのがリスク対策の基本である。提言自体を変えさせるという暴挙によって,国民が専門家会議を政府と一体視するようになり,専門家への信頼が失われてしまったことが,本当に残念だ。完全に対策本部の下部に位置づけられてしまった分科会では,もはや提言すらできない。
- おそらく,世論から専門家会議への強い支持があれば,専門家会議もリスクアセスメントに徹して,強い提言ができた可能性はある。ぼくは当時「自分も含めて外野がやるべきことは,専門家会議への攻撃ではなくて,首相近辺に対して,勝手なことをせず,専門家会議に余計な圧力を掛けず(たぶんオリンピックについては議論するなと言われているのだと思う。憶測だが),もっと専門家会議の提言を尊重するように言うことではないのか。」と書いているが,当初から専門家会議に対して懐疑的な言論は多く,その原因の一端は,議事録が公開されていなかったこととか,(勝手に書き換えられていたのだから当然だが)政府に忖度したような提言になっていることにあったと思うので,やはり残念だとしか言いようがない。
- (追記)WHOはマネジメントまでする組織だし,そこで活躍してきた尾身先生や押谷先生は専門家会議でもマネジメントまでしなくてはいけないと考えられていたのであろうことは想像できる。しかしマネジメントは全権委任されていないとできない。台湾のように政治の中枢にいる人たち自身が専門家でマネジメントの指揮をとれば上手く行くが,日本の旧専門家会議も分科会も,感染症にもリスク管理にもド素人の政治家の指揮下でしか活動できないという立て付けでは,マネジメントがまともにできるはずがないので,先に書いたとおり,アセスメントに徹してオープンな活動をすべきだったと思う。それでもマネジメントがまともになるように,という思いだったのであろう,苦しい活動を現在でも続けられている尾身先生は凄いと思うが,リスク論的には間違っていると言わざるを得ない。
- まずは事務書類の提出から。
- Huynh J et al. "Sex and age differences in the incidence of acute myocardial infarction during the COVID-19 pandemic in a Swedish health-care region without lockdown: a retrospective cohort study" The Lancet Healthy Longevity, 2(5): e283-e289, 2021は,ロックダウンがなかったスウェーデンで,COVID-19パンデミック中に急性心筋梗塞罹患率の性差,年齢差を調べた後ろ向きコホート研究というタイトル。2017年から2019年の3月1日から7月31日と比べて,2020年の同時期の急性心筋梗塞罹患率比を計算し,70歳以上の男性ではほとんど変わっていないが,70歳以上の女性では0.56 [0.40-0.78]と激減したことを示している。男女の罹患率比をBreslow-Day検定してp=0.0074だったので性差があると考えられる,としている。この論文では罹患率と罹患率比はOpenEpi version 3.01で,それ以外の解析はSPSSを使ったと明記されているが,サブグループ間の罹患率比の比較はBreslow-Day検定で行ったとしてBreslowとDayの教科書を引用していてソフトは書かれていないので,そこだけ手計算なのかもしれない。RではDescToolsパッケージにBreslowDayTest()という関数が実装されている。すべてのOR=1という特殊な帰無仮説については,パッケージを使わなくてもmantelhaen.test()で実行可能だが。BreslowDayTest()は,リンク先の説明を読む限りオッズ比がどの層でも均質であるという帰無仮説を検定するようだ。この論文はオッズ比ではなく罹患率比の比較なので,さらに調べてみたところ,epiRパッケージのepi.2by2()でオプションとしてmethod="cohort.count"とhomogeneity="breslow.day"を指定すれば,罹患率比についてBreslow-Day検定をしてくれるという情報があったのだが,1.0-04版でバグフィックスとしてhomogeneity=オプションが削除されていた。かつ,罹患率比はmethod="cohort.time"を使わなくては計算してくれず,そのときは層間比較をしてくれないという仕様に変わっていた。この論文で使われているのはリスクではなく罹患率で,分母としては観察人年しか与えられていないので,期首人口を計算できない(観察期間が各年最大153日なので,それで割ってみたり,さらに365.24をかけてみたりしたが,整数にならないということは,途中参加や脱落があるのだろう)。だからリスク比やその均質性は計算できないのだが,観察人年から急性心筋梗塞罹患数を引いた値を非罹患数として無理矢理計算してみると,論文掲載の値と概ね一致した(Rコード)。が,これでいいとは思われないのだがなあ。Breslow and Dayの本のうちコホート研究の分析を扱っているVolume 2はpdfが公開されていたので読んでみようと思うが,ざっと見ただけではどこに載っているのかわからなかった。
- 昔は専らRについてマニアックな考察を展開されていた裏RjpWikiさんが,一時Pythonに手を出していたが,最近はJuliaにハマっているようで,200以上のコード実装例を書かれている。チュートリアルがあるなら,手を出してみようかなあという気になってきている。
- Anti-Olympic petition gains tens of thousands of signaturesというWashington Postの記事で,BMJのEditorialと宇都宮健児さんの署名活動が取り上げられていた。この署名活動については,漸く日本のメディアも報道し始めた感じ(リンク先は東京新聞の記事)か。
- このtweetからリンクされている「科研費とり方講座」が素晴らしい内容なので,科研費申請できるポスドクや常勤ポストを持っている社会人院生に一読を勧めようと思う。
- 東急ミュージックスのオンラインライブ配信を聴きながらずっと作業していたが,20:30頃漸く来週月曜の講義資料ができたのでアップロード。火曜は和泉先生担当回なので講義はないが,水曜6限,木曜丸一日に加え,来週は金曜も医学科の講義が入っているので,まだまだ資料作りが続く。
- 終わらないが21:15頃に帰途に就いた。こういう時刻に帰ってから晩飯にすると太るんだが仕方が無い。
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