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【第1208回】 ホームカミングデイなど(2022年10月29日)
- 5:50起床。ホームカミングデイなので名谷へ。
- COVID-19の致命リスクや重症化割合が季節性インフルエンザと差がなくなったというデマがまた広まっていて、致命リスクの数字として季節性インフルエンザが0.09%、静岡県のオミクロン株が0.08%と並べた表が、季節性インフルエンザについて第74回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボードの資料を出典とする形で掲げられている。厚労省のアドバイザリーボードに出た数字という権威だけで信じてしまう人が多そうで頭を抱えている。季節性インフルエンザの致命リスクがそんなに高いわけなかろうと思って出典とされる会議資料3-10を見てみたら、3年間のレセプトデータの分析から、季節性インフルエンザで保険診療を受けた人を分母(たぶん抗原検査キットで確定診断がついた人、ということになるので、CFRの分母と同じ)、受診後28日以内に死亡した人の総数を分子(つまり、受診後28日以内の死亡であれば死因を問わずがんや心疾患や老衰で亡くなった人をすべて含む死者数)とする値だった。CFRより遥かに大きい値(日本の季節性インフルエンザのCFRは0.02から0.03%)になるのは当然だ。当該資料自体にも、「本研究の重症化等の指標である全死亡や全入院には、季節性インフルエンザ以外の理由での死亡や入院が含まれることに留意が必要」という注釈がついていた。そんな値をなぜ計算したのか謎だが、季節性インフルエンザの病原性を示す数字ではない。一方のオミクロン株については、おそらく静岡県のこの資料が出典と思われるが、分子はCOVID-19による死者数、分母は無症状感染者も含む検査陽性者数なので、IFRに近い値であり、観察期間のずれによる過小評価も含めて考えたら、オミクロン株でもまだ季節性インフルエンザよりは1桁近く大きなCFRであるといえ、ただの風邪とみなすことはできない。静岡県の資料でもわかることは、重症化リスクより死亡リスクの方が高いということで、軽症や中等症からICUや人工呼吸器での治療というプロセスを経ずにいきなり亡くなる方が相当数いたという、その方がよほど怖いことだと思うが、正常化バイアスをもってデマを信じ込んでいる人々が多いことに愕然とする。間違った形での引用が拡散されていくインフォデミックの悪しき実例がまた1つ。
- 今日のNPB日本シリーズ第6試合はバファローズが3-0で勝って逆王手を掛けた。
- 小山修三先生のご逝去を知って驚いた。2000年の人類学会公開シンポジウム「日本列島の人口潮流」で喋っていただいた話も大変面白かったが(リンク先から講演要旨pdfが読めるので、古人口に関心がある方は是非お読みいただきたい)、最近消息を聞かなかったので、どうされているのかとは思っていた。ご冥福をお祈りしたい。
- 「ユニバーサル中和抗体」の件、相変わらずメディアはソースにリンクしないが、神戸大学のプレスリリースを見ればわかるように、これはまだ査読を通る前のプレプリントサーバに載せた段階なので、少なくともそのことは注記すべき。森先生たちは2020年2月からCOVID-19関連の研究助成は受けているので、そろそろ大きな成果を出したいところだろう。プレスリリースによると、できた抗体MO1が「これまでに流行してきた変異株では変異していない部分を中心に結合している」だけなので、その部位が今後もずっと変異しない保証はないわけだが、まあ確かに変異しにくい部位ではあるのだろう。これまでの抗体医薬品は、新しい変異株が流行を置き換えていくたびに従来株に対して開発されたものの有効性が激減するということを繰り返してきたので、本当に「ユニバーサル」ならば大発見だが。
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