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【第1805回】 六甲で国際保健医療論講義最終日(2025年2月27日)
- 産経新聞のサイトに神戸大学の前期日程の問題と解答例が載っているが、英語は解答例がまだ出ていない。他の問題は割と簡単だと思うが、IVの(2)はメディアリテラシーがないと正しくは答えられない問題であった。もしネトウヨ的な受験生がいて、英文としては完璧だけれども、例えばマスメディアを敵視してソーシャルメディアの速報性を賛美するような解答をしてきたら、どう採点するのだろうか? たぶん英文として正しければ正解にするしかないのだろうなあ。昨年度の問題と出題意図(ともに6月に大学が公開したもの)を見たら、昨年度もIVの英作文は図を見て考えさせるタイプの問題で、food lossとfood wasteの原因や対策を答えさせていたので、そこに何の知識もなかったら、英文としては正しくても内容がナンセンスな解答はあっただろうなと思われる。採点者は苦労したのではなかろうか。
- 難問だったという東大数学だが、OpenAI-o1が4完半、GPT-o3-mini-highが5完半というハイスコアを叩き出しているそうなので、既にAIは数学なら理科三類に受かるレベルにあるのだなあ。もっとも、2016年の東ロボくんも4完しているので、東大理系数学の問題はAI向きなのかもしれないが。
- ニューヨークでは誰も信号を守らないので歩行者の信号無視が合法化されたという感じのニュースがテレビから流れてきたが、昨年秋のニュースにあった、この条例(?)が今月から施行されたという話だったようだ。jaywalkingというのは信号無視だけではなく横断歩道がないところでの横断とかも含めた言葉で、捕まって罰金を取られるのがカラードに偏っていたからという意味があるらしく、罰金刑のある犯罪ではなくなったが、社会規範として信号無視をしても良いというわけではない。(真剣に見ていたわけではないので、自分だけが誤解したのなら問題ないが)テレビだけ見ていた人は勘違いしてしまうのではないか。
- 複数の医療系の学会が高額療養費制度見直しに緊急声明を出しているそうだ。ただ、公衆衛生学会とか衛生学会とか医療経済学会とか健康学会は今のところ声明を出していないが、たぶん社会医学的には簡単に結論は出せない話だからか。もちろん医療の公平性の観点から、セーフティネットとして重要な役割を果たしてきた制度であることは間違いないのだが。
- 今日は終日六甲で仕事。
- オンライン会議の後は206に移動して、国際保健医療論講義の4日目。以下メモ。
- 3限は高島先生のワクチンによる感染症制圧の試みの話。ポリオについては、フィリピンで広がったとき、ミンダナオ島で患者が出ると、国境を超えた生活圏をもつBajauが暮らしているので、マレーシアなどにも広がるという話と生ワクチン由来野生型ポリオウイルスの話がメイン。次は麻疹の話。日本史上ではっきり麻疹とわかっているのは平安時代から。WPROは制御(control)か排除(elimination)か議論になったが、2003年から排除事業を実施。目標と戦略は定まったが、中国や日本の意見により達成期限は定めず。カンボジアやPNGなど途上国の接種率は向上。2回接種、一斉接種も導入。2008年以降報告症例数が2012年まで減ったが、2013年から中国、モンゴル、ベトナムなどで増加。2013-4年にはベトナム・ラオスで集団発生。2015-6年にはモンゴルで大流行。18-30歳に感染が先に広がり、そこから子どもにも感染拡大した。子どもへの一斉接種をしたが、あまり有効でなかった。2015-7年に戦略を根本的に見直すことに。国ごとに合った戦略をとることに決めた。質疑ではVAPPは仕方ないけれどもワクチン由来で復帰突然変異した野生型が市中をcirculateするのは駄目という確認。生ワクチンで接種率が落ちるとワクチン由来株が流行して泥沼。
- 12分の休憩を挟んで4限。ワクチンを用いた新しい国際感染症対策ということで、最近の世界情勢をOur world in dataを使って示すところから。世界人口増は感染症対策を難しくした。アジアの人口密度も上昇している。都市化も急激。人の移動のグローバライゼーションも起こっている。新興感染症も多々あった。2003年から2022年の新興感染症を地図で見ると世界中で起こっていることが一目瞭然。予防接種を含む公衆衛生対策が十分に行き届かない集団はいたるところにある。個別の感染症対策で良いのか? という問題。2021-2030年はこれまでの事業から得られた教訓を活かすべき。B型肝炎は母子垂直感染や早期水平感染が大リスク。1990-2014のWPROの対策論文。PNGがやや高いまま残ったが有効。新生児破傷風排除事業もPNGを除けば排除達成。Hibワクチンや肺炎球菌ワクチン、HPVワクチンの接種も増えた。麻疹対策を通して一斉接種にも慣れてきたし、実験室ネットワークやサーベイランスデータベースのネットワークの構築も進んでいる。そうした蓄積を統合できないか?=これまでの公約数を選択した新しい戦略を作った。これを元にしてCOVID-19ワクチン接種戦略にも応用できるバージョンを作った。PNGは接種率が上がらず、ソロモン諸島やバヌアツも遅かったが、WPRO全体としてはprimary series完了が88%と他のregionより高かった。25年間の対策から得られた教訓として、明確なビジョンと目的、期限付きの目標、簡潔明瞭な戦略、定期的・継続的なコミットメントの再確認、戦略実施の持続的なモニタリングと評価(現場から世界へ)、事実・現実の観察・直視・分析・学習、状況に応じた的確な目標と戦略の更新、が挙げられるとのこと。とくに今何が起きているかを把握して対応することが重要。USAへの依存が大きすぎたので、トランプ政権の戦略でそれが無くなってしまうと、2021-30の戦略も機能しないかもしれない。日本で風しんとか対策しきれていないのはビジョンがないから。PNGで対策がうまく行かない理由はまったく違っている(たぶん治安が悪いことが最大の原因では?)。
- 国立国際医療研究センターは4月からJIHSに統合されると国際医療はどこかに行ってしまうかも、という懸念。
- 5限にこれまでの講義を通しての総合討論ということで、受講した学生全員に考えたことを喋ってもらって全日程終了。これは隔年の講義なので、次は2年後になる。高島先生には保健学研究科のSummer Schoolでの講師をお願いしても良いかもしれないが。
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