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【第361回】 日本人口学会1日目(2013年6月1日)
- 真駒内の朝
- 5:30に目が覚めたので,ゆっくり入浴した。6:00から24:00までは大浴場に入れるのだが,それは今夜にしよう。朝食は7:00から近くのイオンの食料品売り場が開いているので,買いに行ってきた。朝あまを見ながら朝食。アパホテル&リゾートの前のタクシー乗り場には何台ものタクシーが乗客を待っているので,札幌市立大までタクシーで行ってしまった。2000円をちょっと超えるくらいだった。帰りはバスか乗り合いにしたい。
- 国勢調査関係のセッション
- 午前中は国勢調査などの話が中心のセッションを聴いたが,いろいろ疑問点があったので,フロアから質問してしまった。ともあれ,今年中には,2000年と2005年の国勢調査データの一部について,匿名化のためのさまざまな処理(他の処理はいいと思うが,発生頻度の低いレコードの削除とスワッピングはデータの利用可能性をかなり下げるので止めて欲しいとお願いしたが,受け入れていただけなかったのは残念だったが)をして1%抽出したサンプルが一般の人にも提供されるという話は朗報だと思う。費用は1年分で1万円程度とのこと。死亡小票の目的外使用などでは,専門家がかなり限定された目的をきちんと書いて大変に煩雑な手続きを経た上で使用許可が下り,しかも申請した研究期間が過ぎたら消去しなくてはいけないのだが,このデータはそういうことでもないようなので,学生実習などで使うのにいいかもしれない。
- 昼食と総会
- 昼は大学の食堂で500円ランチとして提供されているカツカレーを食べた。14:00から会員総会なのだが,まだ1時間以上ある。総会の会場に入って,電源にvaio-saを繋いで,学会のために臨時提供されている無線LAN接続を使ってメール送受信を済ませた。あとは時間が来るまでデータ解析をしよう。
- 会長講演から午後のセッションへ
- 総会が無事に終了し,会長講演中はtweetなどしつつ過ごした(現会長の安蔵さんは,近頃マスメディアにおいて物議を醸した「女性手帳」を配布することを検討していた委員会だか審議会だかのメンバーなのだそうで,本来は男女を問わず生涯の健康管理に役立てて貰うことを企図した「手帳」だったのに,取材もなく誤解が広められたと憤っていらした。そういうことなら「手帳」の主旨は大変結構だと思うが,少子化対策とは筋が違うような気もするし,保健教育をもっときちんとすべきという話になっていくはずなので,文科省も主導的に近い役割で参画しなくてはおかしい。会長講演からあと2点tweet。(1)現在政府でなされている議論は,これまでの少子化対策が育児支援に偏っていたので,結婚・妊娠の支援をすることを3本の矢の1本として重視し始めたということと,(2)Demographerの「卵」を育てるために,「出稽古」方式を推進すべきだし,学生会員のネットワーク作りも必要だし,隣接分野の「卵」を勧誘することも必要,とのこと)。その後,金子さんが座長をされたセッションに続いて,自分が座長のセッション。「アジア地域の出生力」というセッションタイトルが付されていたが,シンガポールの動態統計データからマレー系と中国系の出生力の差をモデルによって分析した研究と,エチオピアの狩猟採集民のフィールド調査から定住化政策が出生力にどう影響したかを探った,データを取るだけでも大変な研究と,日本の人口動態統計データから東日本大震災が出生に与えた影響を探った研究という3本立てだったので,むしろタイトルをつけるなら,「国際・災害分野の出生研究」だろう。エチオピアの話では,ミツバチの巣箱所有と離婚経験と出生という三つ巴の関連の話が単純でない構造の存在を示唆していて面白かった。たぶん3次元以上の空間に位置づけるか,丁寧に層別解析するかしたら,もう少しすっきりするような気がしたので,それをやってくださるようにお願いしてしまった。東日本大震災から6ヶ月後に,被災地のみならず日本全国で出生性比が低下していたというデータが興味深かった。阪神淡路大震災のときも被災地では見られた現象で,おそらく被災ストレスによって男児の流産が増えたというメカニズムが想定されるそうだ。全国で見られたのは,繰り返し流れた映像があまりにも圧倒的だったからかもしれない。性比に比べると,出生率や婚姻率の変化はクリアでなかったが,それでも影響は出ているように見受けられた。この発表をしたのは,人類生態の修士1年の学生だったが,本来なら発表15分討論10分のところ,発表を8分で終わらせてくれたので,討論をする時間が十分に取れて,しかも皆関心が高いテーマで盛り上がったので実に良かった。
- 明日の発表内容
- 震災とまでいかなくても,映像という視覚刺激がヒトに与える影響はかなり大きいと思う。フィジーではテレビが無かった1995年までは男女とも太めの体型が好まれていたのに,テレビが入って欧米の痩せたモデルの映像に曝露するようになって3年で女性の痩せ指向が高まって摂食障害の患者が激増したという研究がある。ぼくが明日発表する内容も(まだ証拠は不十分なので,ヨタ話みたいなものだが),近年の日本の出生力が,20〜30代,とくに30代の女性のBMI18.5未満の痩せ過ぎの人の割合の増減と逆向きに連動していることと(最近の国民健康・栄養調査の結果だと,20代女性の1/4,30代女性の1/6〜1/5くらいは痩せ過ぎだが,1980年の国民栄養調査では,それぞれ約1/6,約1/10くらいだった。散布図を書いてみると,30代女性におけるBMIが18.5未満の人の割合とTFRは,かなり強い逆相関の関係にあることがはっきりわかる),映像文化によって加速されたダイエット指向を関連づけて論じた上で,他の集団でミクロなデータをみても痩せ過ぎが増えると出生力が低下するのかを調べたものだ。1967年にTwiggyが来日したときには,格好いいという反応だけではなく,痩せすぎていて気持ち悪いと感じた文化があったはずなのだが,現在放送されている朝のテレビ小説「あまちゃん」の準ヒロイン,自他共に認める美少女という設定のユイちゃんを演じる橋本愛を見て痩せ過ぎと感じる人は少ないだろう。しかし,調べてみて驚いたが,この2人の身長はともに165cm,体重はTwiggyが41kg,橋本愛が40kgで,ほぼ同じなのだった。2人ともBMIは約15しかない。東京ガールズコレクションに出てくるようなモデルさんだとBMIが16くらいの人が大半だ。現代に生きる我々は,マスメディアを通した痩せ礼賛,ダイエット礼賛の奔流にさらされて,痩せているのが美しいという文化的刷り込みを無意識に受けているので,最近の痩せ過ぎモデルさんたちを見ても,Twiggyを見た当時の人々が感じた違和感を感じないのだろう。国民健康・栄養調査の結果から考えると,この痩せ過ぎ指向は10代とか20代前半だけではなく,20代後半から30代まで広がっているが,もしかすると女子力アップとか大人キレイとかいった宣伝にさらされたせいで,現代における出産の主役である20代後半から30代の女性にまで,痩せ過ぎが理想ボディ・イメージとして刷り込まれてしまったのではあるまいか。もちろん,BMIが直接体脂肪を表すわけではないが,一般には,BMIが18を切ると脂肪組織の蓄積が少なくてレプチンの分泌が足りず,視床下部=下垂体=性腺系の調節がうまくいかなくなって,LHサージが起こらず無月経になったり,無排卵性月経になってしまう可能性があり,出生力低下に寄与している可能性がないとはいえないだろう。しかも,映像文化によって男性も痩せ過ぎが美しいという文化に浸かってしまうと,パートナーを見つけることと生殖能力を維持することが逆のベクトルをもってしまう可能性がある。いくつかの途上国のDHSデータで検証しようとしたが,ワンショットのデータだと,子供数と栄養状態の因果関係が逆かもしれないことに気づいて方針転換した。サンプルサイズは小さいが,これまでフィールドワークとして継続調査した集団でなら,実測した身長・体重と,その後の妊娠・出産確率を(ちゃんとやれば,受胎待ち時間も)評価できるので,そういう視点でデータを整理し直すことにしたのだ。しかし電気もガスも水道もなく,当然テレビもないソロモン諸島の集団には,BMIが18.5を切るような女性は非常に少ないので,比較可能性に難があるのが問題だ。日本でいくつか行われている少子化対策関連の調査で,出産企図をもった時点での身長,体重さえ測って(あるいは聞き取って)おいてくれたら,直接検証できるのだが,現在のところ,そういうデータはないようだ。
- ホテルへは真駒内経由
- 懇親会の後,バス停まで10分ほど歩いて,真駒内駅行きのバスに乗った。バスだけだと280円だったが,地下鉄乗り継ぎの場合は,合計400円で札幌駅まで行けてしまうという,面白い仕組みになっていた。しかし,これならノースゲート辺りを取っておくんだった。アパホテル&リゾートは真駒内駅から藻岩高校経由東海大学行きのバスで200円だったが,かかる時間としては市の中心部に地下鉄で戻るのと大差なかった。
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