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【第618回】 国際保健医療学会西日本地方会(2014年3月8日)
- 5:30起床。インスタントラーメンを作り,昨夜の残りの具材を載せて朝食とした。簡単かつ美味。6:39のバスで三宮に行き,新快速から新大阪で新幹線に乗り継いだところ。自由席だが名古屋まで座れた。
- 名古屋からは地下鉄で藤が丘に行き,さらにそこからバスという長旅。バスの終点の病院前から,会場になっている本部に到達するための病院内通路が曲がりくねった迷路のようで戸惑った。
- 10:00からの自由論題報告は,まず口演発表2でO2-1からO2-3まで聴き,口演発表1に移動してO1-4からO1-6を聴いた。院生や学部学生の発表が多く,ネタは面白い一方で突っ込みどころ満載だったが,質疑の時間が短いのが残念だった。O2-1はケソン市のムスリム・コミュニティにおける出産の医療化についてのインタビュー調査の報告だったが,要因の切り分けができていなかった。O2-2はパラオの肥満対策について,学校の対策と子供の意識を質問紙,インタビュー,参与観察などで調べたものだったが,自己のボディ・イメージについて現状認識と理想を尋ねておきながら,理想ボディ・イメージに対する文化的影響を評価するための背景情報の不足と,実際の体型データがないこと(身長と体重くらい実測すればいいのに,少なくともデータは示されなかった)が残念だった。食材としてのこうもりとか,ベテルチューイングで「タバコを挟む」って本当? とか,他にも訊きたいことはたくさんあったのだが。なお,最初の方でパラオの児童生徒の24.6%がBMI25以上の肥満で,USAの16.9%より多いという話がパラオ保健省の2013年の報告を引用してされていたが,もし本当にその報告にそう書かれているならパラオ保健省の事実誤認。USAの16.9%は,この報告,とくにFigure 1を見れば明らかだが,BMIが(1971-1974のNHANESの年齢別データから得られた)2000年のCDC成長曲線の95パーセンタイル値よりも大きいものを"obese"と定義して2009-2010のNHANESで得られた結果なので,基準値が違う。USAの成人の基準も,BMI25-30は過体重(overweight)で,30以上を肥満(obesity)としてきたはず。O2-3は18-24歳住民の総数が1986人で,そのうち353名の質問紙調査(Kessler K6。パラオの公用語はパラオ語と英語なのだが,たぶん英語。パラオでは先行研究がないという話だったので,妥当性があるか不明)の結果というのにサンプリングの方法の説明が無かったので質問してみたら,掲示して携帯電話のバッテリをお礼として集めたという話だったので,対象が全数,回収率が18%程度と考えられるので,中度以上の心理的ディストレスが他国より多いと結論されていたが,たぶんサンプリングバイアスの影響に違いない。このようなやり方で調査するなら,住民の7〜8割,最低でも半分はやらないと無意味。フロアからのコメントで島の暮らしはプライバシーがないことが自分にはストレスだったし,それが原因ではないかというのがあったが,対象者は移住者ではなく元々そこで生まれ育ってきた人が大半だろうから的外れだろう。
- ここで口演発表1に移動。O1-4はヌワラエリアの農園地域において,茶摘みと製茶工場に従事する女性にライフコーダを丸一日着けて貰って活動量を測ったら,工場の方が平均17487歩というので驚いたが,仮眠3時間だけで働きづめだったというので,勤務形態を訊いてみたら,夜勤と日勤が1週間交替なのだという。それならライフコーダを2週間着けて貰えば良かったと思うが,少なくとも,2日連続で測れば,着けたために張り切って働いてしまった可能性が排除できるのにと思った。茶摘みの方は平均12385歩で,茶摘みという作業の歩数としては思ったほど多くなかったが,おそらく斜面だろうから,歩数以上にハードな作業だと思われた。そこを評価するにはライフコーダだけではなく,身体負荷を評価できる心拍か酸素摂取量が欲しいところだった。O1-5はインドネシアで空腹時血糖測定と質問紙調査をした結果で,データは興味深いが,サンプリングが不明だったのと,統計解析法が粗かったのが残念であった。O1-6はオセアニア島嶼部におけるWHO STEPSデータから,野菜と果物の摂取状況と性差をみたという話だったが(実際に行ったのはパラオ),PNGで性差がなかった理由とナウルで性差がなかった理由は違うと思う。あと,ソロモン諸島ではSTEPSが行われたのは都市部のみ(ホニアラとアウキとギゾ)だったし,たぶん他の国でも都市部だっただろうから,野菜や果物の摂取量が少ない最大の理由は買うと値段が高いからだと思う。農村部では野草を普通に食べるし,果物も豊富にあって自分の家のものなら無料で食べられるので,都市部より明らかに摂取量は多い。だから,たぶんこの問題では都市化との関連を検討すべきだと思うが,デザインの制約上そこに踏み込めないのが限界だったと思う。
- 次は講演1としてフィリピンで長年にわたって村落保健ボランティアをしてきた方の経験の報告。プログラムにタガログ語通訳と書かれていたので,タガログ語での講演を日本語に通訳されるのかと思ったが,講演自体は,英語で用意された原稿を読み上げられ,スライドは和訳されていて,英語版スライドが資料として配付された。タガログ語通訳は質疑のためにいたのだった。講演は興味深かったのだが,質疑が若干噛み合っていないというか,せっかく現場の方がいらしたのにそんなことを質問しても……というようなものもあって,残念だった。
- 昼食は建物の1階に食堂があり,日替わり定食500円が質量ともに申し分なかった。
- 午後はまず口演発表5に行った。O5-1は大阪市における外国人への母子保健情報提供の状況という,非常にローカルな現状調査であった。O5-2は医療通訳においてスペイン語とポルトガル語を兼任している人が多いが,スペイン語とポルトガル語は似ているがクリティカルな違いがいくつもあるので兼任すべきではないという話で,それ自体は納得するのだが,各病院にポルトガル語とスペイン語の通訳2人を常駐させるのは稼働率とか費用対効果からいって非現実的と思われるので,そこの工夫をどうするか(群馬で瀧澤さんがやっていたシステムのようにSkypeで遠隔通訳するとか)を訊いてみたが,具体的アイディアはなさそうだった。O5-3はインドネシア人看護師2名に日本語教育と専門教育をするプログラムを開発・実施・評価したという話で,日本の看護師国家試験受験に対し最大の不安は2人とも「漢字」だったそうだが,日本語教育だけやればいいというものではないという話だった。O5-4は国際保健医療学会のウェブサイトでWikiで公開されている用語集をダウンロード,変換してEPWING形式に変換するスクリプトを開発しウェブで公開しているという発表だった。大変有用だと思うが,スクリプト動作でできることなのだから,いっそ学会に依頼してサーバに入れて貰ってcronで毎日自動更新されるようにしたらいいのでは? と提案したら,学会の広報委員会(?)との関係で,現在のところそこまではしていないというお答え。勿体ない。
- その後は大会長挨拶,講演2を経てシンポジウム。講演2は世界の保健状況と保健分野の人材育成(HRD = Human Resource Development)と絡めてマヒドンのAIHDという組織の紹介(大会長を含め,そこでMPHをとった人が,これに続くシンポジウムの多数を占めていた)だったので,なるほど,という感じ。1つだけ引っかかったのは,四重負荷(quadruple burden of diseases)という言葉で,途上国の疾病負荷を,感染症,非感染症,都市部における外傷(DVとか交通事故による)で三重負荷と呼ぶのは確立していると思うが,何をもって四重と呼ぶのかは人によってバラバラだと思う。今回の講演では,感染症を新興再興とそれ以外に分けて考えるという話だったと思うが,他にも,感染症をHIV/AIDSとそれ以外に分けるとか(南アフリカでの疾病状況について書かれた,who.intに載っているレポート),感染症のうちHIV/AIDS,マラリア,結核の3大感染症を1つ,それ以外の感染症等による高いMMR(妊産婦死亡率)やU5MR(5歳未満死亡率)を1つと数えるとかいった案が出ている。たぶんコンテクスト依存だと思うので,二重負荷や三重負荷とは違って途上国共通のパラダイムになるとは思われない。
- シンポジウムは「30年先を見据え,底力をつける人づくり」というテーマで,HRDについて4人のスピーカーと2人の指定討論者による話。愛知県立大学の柳澤さんが言われていたDirect care/Indirect careという区分は違和感あり。Directが医療サービス提供者に限られていたが,それだとHRDではなくてMRDになってしまう。ご本人がやられているような分析自体が途上国でできるようにしないと持続可能にならないというメタな見方が提示されなかったのは残念。AHIの林さんの話は,毎年途上国からCommunity Health Workerを受け入れて合宿研修しているという話で,重要なポイントとして,"Health is not health only"と"Initiative are to be THEM not with YOU. How could be useful and resourceful is important."という言葉を挙げられた。どちらも同感。前者はオタワ憲章以来,保健分野では強調され続けている,health sectorだけではなくてall sectorsが協働しなくてはいけないという話だし,後者は"What is the best thing I can do for them?"と続いたので,全然関係ないが,『天の瞳』の竹沢ナツカの言葉を思い出した。樋口さんの発表は,公衆衛生教育についてで,ぼくもかなり近いことを考えていて共感する点が多かったが,たぶん日本でのバリアとして挙げられた3つの問題を解決するには,調査研究よりも出口整備が必要で,例えば(何度も書いているが)厚労省の医系技官の門戸を医師と歯科医師以外にもMPH,DPHに開くべきだと思うし,厚労省だけでなく全省庁(とくに財務省とか経産省とか)のキャリア行政官に最低限の公衆衛生・疫学の研修を課すようにしてほしい。最後のDr. Boonyong Keiwkarnkaはタイの保健医療システムと持続的なHRDということで,Ill-health approachではキリが無いので,Good-health approachにしなければならないという話は,上流での対策あるいはゼロ次予防(昔,郡司先生は四次予防と呼んでいたが)として公衆衛生では常識だし,保健人材の区分としてFormal=ProfessionalとInformal=non-Professionalに分けるのはもっともだと思った。タイにはインフォーマルな保健人材としてVHV (Village Health Volunteer)という人たちがいて,この人たちの能力開発と活用が重要という話は興味深かった。農村部で1:10,都市部で1:20の割合で選出するという人数はかなり多いと思うので,確かにこの人たちの活用は鍵だろう。この割合をどうやって決めたのかを質問してみたかったが,細かすぎる質問かもしれないので遠慮しておいた。なお,指定討論者のお二人のコメントは予想した範囲内であった。総合討論については,フロアに質問を求めるよりも,シンポジスト同士で討論させた方が面白かったかもしれない。
- アトラクションや懇親会には出ず,スクールバスで藤が丘駅へ行き,地下鉄東山線で名古屋駅へ。新幹線で新大阪に行って,快速で神戸に着いたのが20:30頃だった。本屋で高殿円『トッカン the 3rd おばけなんてないさ』が文庫落ちしているのを見つけ,海堂尊『カレイドスコープの箱庭』とともに購入し,成城石井でシリアルとパン,隣の店で岩手産の米を購入してからバスで帰宅したら,21:10頃だった。
- 晩飯は成城石井で買ったシリアルに牛乳を掛けて済ませた。
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