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【第339回】 夜行バスで帰還して家で講演準備(2020年3月14日)
- ほとんど乗客がいない夜行バスで大阪に着き,JRで神戸に帰ってきた。
- 朝食は鶏もも肉とカット野菜をオリーブオイルで炒め,レトルトご飯を電子レンジ加熱した主食とともに食べた。
- 世界の先進国がとっている対策の基本線は,日本も含めて同じで,検査については,一昨日説明したように,(1)感染拡大を防ぐため,無症状や軽症の人も含めた積極的疫学調査の対象者の検査,(2)肺炎症状等,診察の結果,医師がCOVID-19の鑑別の必要を認めた患者の検査,をすることが必要十分であり,個人予防としては,手洗い・咳エチケット・風邪様症状があったら外出しないこと・不要不急の旅行やマスギャザリングを避けることは,ほぼ共通している。日本の専門家会議が出した方針も同じである。WHOのテドロス事務総長の昨日のスピーチにもそうあった。
- ちなみに,昨日のスピーチでやや目新しかった発言としては,「包括的なアプローチを取らねばならない。検査だけでもなく,接触者追跡だけでもなく,検疫だけでもなく,隔離だけでもなく,そのすべてをするのだ」があった。個別の国については,中国,韓国,シンガポールなどの国は,積極的な検査と接触者追跡と隔離と社会的流動性(の抑制? あるいはimmobilizationと言ったのかも?)を組み合わせれば,感染を防ぎ命を守ることができることを示した,という発言に続き,日本も安倍首相自身に主導される全政府的アプローチが,クラスターの詳細な調査に支えられて,伝播を減らすための重要な一歩になることを示している,と言っているが,内容的にテドロス事務総長が評価しているのは,クラスターの詳細な調査の方であることは明らかだ。全政府的アプローチ云々は実態を知らないのかリップサービスか知らないが。
- 違いは,例えば以下のような点が挙げられる。
- 韓国では,MERSの経験があるので検査能力に余力があり,積極的疫学調査の対象者だけでなく不安を感じて検査を希望した人のすべてに対応する検査をしたというプラスアルファによって,より徹底的な押さえ込み対策が可能になり,把握された感染者数が実際の感染者数に近づき,CFRがIFRに近い低値になった(それでも0.6%あり,日本の季節性インフルエンザの30倍程度だが)。たぶんプラスアルファがなくても死者数はほとんど変わらなかったはず。(20200315追記)大事なポイントを見落としていたが,韓国CDCの発表によれば,韓国の感染者は20代が突出して多く,その死者がゼロなので,見かけ上CFRが低くなっているという側面もある。これはたぶん,20代が集団感染するようなクラスターが多かったのだろうと思われる(時空的な内訳がわからないと正確な評価はできないが)。
- 英国では,首相のスピーチが,Chief Medical OfficerやChief Scientific Advisorからの提言に基づいている。Chief Scientific Advisorというポジションが常設されていること自体素晴らしいが,1995年から2000年の間,その地位にあったのは,理論疫学の大家でRoy Andersonとの共著で名著『Infectious Diseases of Humans』を書いたRobert Mayであった。必要十分な検査をした場合に総感染者数が検査によって確定診断がついた人数の10倍以上いるだろうという見積もりは,武漢のアウトブレイク初期のデータからインペリアルカレッジのFergusonグループ(暫くサイトをチェックしないでいる間に2つの報告が増えていた。第7報[3月9日],第8報[3月11日])が出した第1報でも西浦さんのJCM特集号Editorial第1弾でもわかっていたことで,目新しくはないのだが,政府の方針が科学的合理性に基づいているということが明示されているのがプラスアルファだと思う(スポーツイベント取りやめや休校も検討したが,科学的アドバイスに基づき,現時点では感染拡大防止効果が小さいためしない,休校についてはとくにそうするようアドバイスがでたときのみすべき,と明言している。スポーツイベントも種類や規模によると思うが)。
- 日本は,専門家会議が立ち上げたクラスター対策班が,クラスター発生に共通する3条件を見つけて,それを避けるように,と呼びかけたのがプラスアルファである。いま効果があったかどうか計算しているところだと思うが,この効果があれば,社会経済活動への介入を最小限にとどめながらRを1未満にできる可能性がある。あと,たぶん手洗いなどの個人防護を真面目にやっている度合いが,他国より高いように思われるのも,プラスアルファだと思う。一方,マイナスとして浮かぶのは,医師が鑑別が必要だと考えても保健所が拒否する事例があることだ。ただ,メディアでは良く報じられるのだが,これがどれくらいあるのかがわからない。以前から医師会が集計して公表したら良いのではないかと書いているが,3月4日までに全国で30件という数字が事実なら,実際以上に拒否事例が多いように感じてしまっている可能性もあるかもしれない(もちろんゼロであるべきだが)。もっと大きなマイナスは,専門家会議に相談せず,首相周辺が思いつきで全国一斉休校を宣言してしまったように,政治がまともに機能していないことだと思う。英国首相のように,科学的アドバイスに基づいた施策をしてくれて,それを明言することで,責任は自分がとることを示してくれるのが,政治家として求められる態度だと思うのだが。
- 昼飯はヴルストを炒め,目玉焼きを作り,レトルトご飯と冷や奴にキムチを載せて食べた。かつて依頼された講義が,直接聴衆に向けてやるのではなく録画配信されることになり,明日がその収録日になったのだが,まだ準備ができていないので,今日はそれをやる。天気が悪いので家でやる。
- プレプリントサーバに載っている,Wang C et al. "A human monoclonal 1 antibody blocking SARS-CoV-2 infection"(2020年3月12日アップロード)は,SARS-CoVとSARS-CoV-2に共通する抗原エピトープに結合して中和できるモノクローナル抗体を見つけたという論文。
- LancetのZhou F et al. "Clinical course and risk factors for mortality of adult inpatients with COVID-19 in Wuhan, China: a retrospective cohort study."(2020年3月11日掲載)は,武漢の2つの病院(他の病院からreferされる)を2020年1月31日までに退院したか死亡した,18歳以上の患者191人(137人は退院,54人は死亡。発症から入院までの平均日数はどちらも11日)についての後向きコホート研究(と書かれているが,退院例と死亡例について,基本属性や臨床所見,治療法,検査データを比較しているので,むしろ症例対照研究と言うべきではないか?)。ロジスティック回帰分析の結果,死亡リスクを上げた要因は,年齢(1歳上がるごとに1.1倍)に加えて,入院時のSOFAスコア(リンク先の論文に書かれているように,臓器障害の程度を示す指標で,敗血症の診断に用いられる)が高いこと(オッズ比5.65,95%CI [2.61, 12.23])とd-dimerが1μg/mLを超えること(0.5μg/mL以下をリファレンスグループとしてオッズ比18.42,95%CI [2.64, 128.55])であった,と書かれている(表3)。これほど高いオッズ比から考えると,これらはかなり,入院時に重症化しやすい人を見つけるのに使える指標といえよう。もう1つの結果として,退院した人たちについては,発症からのウイルス排出期間の中央値が20日(四分位範囲が17-24日)で,最短8日,最長37日だったが,死亡した人たちは亡くなるまでウイルスが検出され続けたとも書かれている。もちろん24時間おいて2回,咽頭スワブからRT-PCRか次世代シークエンサでウイルスが検出されなくなってから退院としているので,退院後の再燃については,この論文では扱われていない。
- 夕方になって晴れてきた。明日もこのまま好天が続くと良いのだが。
- ドラゴンズとマリーンズのオープン戦,京田選手を除けばレギュラーが出ていなかったが,3-2で勝ったようだ。
- ミュージックフェアのLA DIVAのCircle of lifeとリトグリのLet it goは素晴らしかった。Circle of lifeは,ハモネプで優勝した「たむらまろ」のパフォーマンスにも感動するし,ハーモニーはLA DIVA版よりも,たむらまろ版の方が厚みがあって好きなくらいだが,平原綾香はあまりにも別格であった。
- 晩飯はラーメンで済ませるかな。
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