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【第673回】 日曜も締め切り仕事を(2021年3月7日)
- 7:00起床。81.30 kg。
- 昼間は某査読仕事をしていたが,ドラゴンズの試合が気になって捗らない。根尾選手の先制タイムリーと平田選手の打撃好調なのと,投手陣がまあまあ好調で(岡野投手と橋本投手と藤嶋投手は危なっかしかったが),3-2で勝って良かった。その後なんとか某査読仕事を一応済ませた。関西部会の発表準備の続きは夜だな。
- 17:00からオンラインで長崎大学の公開シンポジウム(ウェビナー)を視聴。以下メモ(同時通訳サービスがあったが英語で聞いていた)。司会の方の声が大変聞き取りやすいと思ったらアナウンサーだった(同時通訳といい,カメラが高画質で音声もクリアだった点といい,切り替えのスムーズさといい,司会にアナウンサーを起用したことといい,相当に金が掛かっているウェビナーだと思うが,参加費無料で聞けるのは凄いと思った)。犠牲者への黙祷,有吉先生の企画組織者としての挨拶に続き,長崎大学長の挨拶,と最初のうちは挨拶が続く。挨拶が終わって,LSHTMのPeter Piot先生と岩本愛吉先生の司会でキーノートスピーチへ。
- 日本側は大曲先生で,COVID-19へのclinical responseという話。当初は検査能力が足りなかった,去年の3月6日からPCRが保険適応になったが試薬の供給が足りないなどの事情で検査能力は足りないままだった,民間検査については質の信頼性が不明だという話から。感染症病床も2000しかなかった,そのため東京におけるCOVID-19患者のフローは中等度から重症だと病院で,軽症なら自宅療養として,重症化したら病院へとなっていた,しかしこの流れを完全にコントロールする権限はなかった,と続く。新興・再興感染症への対処には多くのリソースと準備が必要だが,多くの先進国ではそれが理解されていなかったし,日本の医療システムはそれに対処できるように本質的な改革が必要だ,というまとめ。
- ロンドン側はJohn Edmunds先生で疫学とpopulation healthの専門家と紹介された。SAGEのメンバーでもある。発表内容はUKのCovid-19流行についての科学,人々の健康,政策のレビュー。まず,Dashboardから流行曲線(7日移動平均)と検査陽性判定から28日以内の死亡の曲線を示しながらUKのロックダウン状況などと合わせて現状説明。UKは感染拡大は酷かったが,ワクチン接種カバー率はイスラエル,アラブ首長国連邦に次いで世界3位の速さで進んでいるとのこと(この図を示しながら)。次いでFlaxmanらのNature論文を引用しながら第一波の説明。ちゃんとデータや論文に基づいた説明なのが良い。次にJarvisらのBMC Medの今年の論文を引用してUKの行動制限の月次変化とか。次いでDavies Nらの今年のScience論文と同グループの投稿中論文を引用しながら変異株の話。Lopez Bernalらの投稿中論文(プレプリントサーバには公開されている)を引用しながら70歳以上でもワクチンが有効でオッズ比が有意に1より小さくなるというGood News。次いでNPIs緩和のロードマップをUK政府サイトから。緊急時の政府の意思決定が大学やNHSからもデータを得てなされるSAGEとJCVIからのアドバイスを受けてなされる仕組みの説明。Open Scienceによる科学研究の成功としてインペリグループのREACT-1,SIREN (HCW),VIVALDI,SIS,RECOVERY,OpenSAFELYなどさまざまなプロジェクト。ワクチン開発と関連政策(透明性の高さとかターゲットの絞り方とか)も成功だったと評価。経済との両立,応答速度,不整合な戦略,追跡・検査・隔離・検疫・水際対策などはあまり成功でなかったと評価。若干詰め込みすぎではあるが大変informativeなプレゼンで良かった。
- 3人目の演者は西浦さん。日本でモデラーがやってきたことの説明,という内容。DP号の話から始まり,EOCのCluster buster's teamができて,MDや専門家が手作業で各自治体のデータをエクセル入力するなど苦労してtransmissionのoverdispersionを確認し,superspreading eventが3Csで起こっているという発見へ。overdispersionは根絶確率が高いことを意味するのでクラスター対策を進めた,と説明し,武漢起源の第一波は根絶できた。移入数が少ない間はクラスター対策はうまく行った。けれども卒業旅行なども絡んだ欧米からの感染者の多数流入には対処しきれずvoluntary lockdownをせざるを得なくなった。そのとき80%接触削減を提言したのでScienceに「"Mr. 80%"でなく"80% uncle"として」写真が載った話。Nakajo and Nishiura投稿中論文から大阪での介入の時系列紹介。Jung et al.のin press論文(Royal Soc Open Science,2021)でheterogenietyの話。いまはワクチン接種タイミングと次の波との競争だという話。変異株の影響について準備中論文の話。都内繁華街夜間滞留人口を使った感染予測の話。政治家とのリスクコミュニケーションの失敗。No "solidarity" calls(日本の政治家は「連帯」を言わない)。
- 次は2つの短いトークということで,1人目は長崎大学Chris Smith教授。WHO Regions間の比較から始まり,WPROではもっとも影響が大きかったフィリピンの話。実は去年の2月から3月にフィリピン→日本→エチオピア→UK→日本に旅をしたときの経験と3月から11月までの長崎の状況。11月から12月はシンガポール経由でPNGへ行ったがレギュレーションがきわめて厳しかった。ピジンでNew NormalはNIUPELA PASINというのか。PNGからUKに飛んで2月までいたが変異株やワクチン接種開始など状況が変わっていた。その後長崎に帰ってきた。COVIDとの共生を学んでいる。今後,"Normal"に戻るのか,それとも"New Normal"に適応するのか。2人目はPeter Piot先生で,「ワクチン接種はパンデミックを終わらせることができるのか?」という意味のタイトル。これまでのワクチン開発に比べて,COVID-19のワクチン開発は動物実験,臨床試験,承認,実施にかかる時間がきわめて短くなった。LSHTM COVID-19 VACCINE TRACKERから,ワクチン候補についての開発と実施状況の紹介。mRNAワクチンの効果が極めて大きいという実施結果について多くの論文が出たことはGood News。しかしワクチン接種の進展は国家間で大きな格差があり,カバー率が高い国はすべて高所得国。低所得国はすべてカバー率が低い。GAVIとかCEPIとかCOVAXという仕組みがあるけれども格差が大きい。西浦さんのモデルでもわかるようにこれから半年くらいの間にどのようにワクチン接種を進めていくのかがきわめて重要。ワクチン接種がパンデミックを終わらせられるかという問いについて考えると,変異株に効くか? どれくらいの期間続けなくてはいけないか? 安全か? 十分あるか? 誰から先に接種するか? 人々が受容するか? という6つが上がってくる。これらに満足な答えを与えられる必要がある,とのこと。
- ここまでの話を有吉先生がサマライズした後,10分の休憩を挟んでパネルディスカッション。座長は岩本先生とLSHTMのShunmay Yeung先生。パネルディスカッションといっても,パネリストが第1部のスピーカー全員で,ウェビナーのQ & A機能を使って寄せられた質問に答えるという形なので,第1部の質疑応答であった。パンデミックを終わらせるためのロードマップを短くまとめて欲しいとの座長からのリクエストでPiot先生が「まずはVaccination, Vaccination, Vaccination。それとNPIsを続けること,そして国際的な協調と連帯だ」と,まあ当然かというお答えであった。
- 一通り質疑が終わった後,このシンポジウムの共催だった日本医学ジャーナリスト協会の浅井会長からの挨拶ということだったが,挨拶というより,日本はワクチンが大きく遅れているのにどう貢献できるのか教えて欲しいというPiot先生への質問で,わりと当たり障りのないご返事だったように思う。それで大曲先生に話が振られたが,それはコメント難しいよなあ。次にYeung先生からメディア対応というかどうやってメディアを使うかという話題が振られ,Edmunds先生がメディアの役割は重要だしFinancial Timesの分析のようにメディアの報告でも重要なものもあったというお答え。同じ話題が西浦さんにも振られて,誤解されないようなメッセージを発するのが難しいというお答えであった。接触という言葉の意味一つとっても,モデラーと一般の人々で異なる。人々が求める情報と科学者が言えることの乖離。Science Communicationの問題。コミュニケーターもいなかったりいても十分に役割を果たせない。大曲先生に臨床から感じたことはと振られて,公衆衛生人材が足りないというお答えだった。健康か経済かという問題は難しいが当局に何が言えるかとYeung先生がEdmunds先生に振って,インパクトもモニタしているといったお答えがなされているが,それは問題設定が間違っていて,健康は経済も含めなくては評価できないだろう……と思っていたら,Edmunds先生も,疫学分析と経済分析はリンクされるべきだと語られた。ここで妻から電話が掛かってきてパネルディスカッションの最後のところは聞き逃したが,予定より30分延長してパネルディスカッションが終わり,長崎大学を代表して北先生が閉会挨拶。1000人を超える参加者というのは凄いな。Planetary healthに向けたフロントラインの話で素晴らしい内容で時間が長くなっても仕方が無いなと感じたというのは,それはそうだけれども……。その後の共催側からのコメントによると,ジャーナリストも100人以上参加していたとのこと。最後に司会の辻さんからアナウンスされたが,このウェビナーの動画は後日オンデマンド配信され,Q & Aもウェブサイトで公開されるというのも凄いな。これは恐れ入りましたというシンポジウムだった。
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